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史上最強⁈  作者: 士ケンジ
プロローグ
1/24

史上最強バトルの幕開け

某県某郡 左文字町さもんじちょう、都心から電車で二時間ほどかかる小さな町。


建ち並ぶ家屋は昔ながらの和風建築が多く、のどかな田園風景と相まって、情緒あふれる町並みが広がる。


左文字町の名前の由来は、住民の多くが三文字の苗字であったため、三文字が左文字に変化したとされている。

これと言った名物、名所はなく、静かで穏やかな雰囲気が唯一の取り柄という田舎町だ。


そう、どこにでもある田舎町。


そんな田舎町に明らかに不釣り合いで、派手な格好をした男がいた。


年は四十代ぐらい、筋肉質で長身、髪はオールバックの外国人。白いスーツの胸元には、高価な宝石でできた装飾品をいくつも付けている。

男はポケットから葉巻を取り出し、口に咥えて火を付ける。唇の隙間からは異常な輝きを放つ総金歯が覗く。


彼はビルの屋上から寂れた商店街を眺めている。入り口に左文字商店街と書かれたアーチ、「字」の部分は外れかけて斜めになっていた。何年も開けたあとのない錆だらけのシャッター、店の看板は野ざらしで店名の判別が付かない。

左文字商店街は、そんな店ばかりが目立つシャッター商店街だった。


「眺めていておもしろい街並みかしら、ゴールドバーグ」


ゴールドバーグと呼ばれた男は後ろを振り向く。


「ルルカか」


声をかけたのは背の高いピンクの帽子と、同じ色の大胆に胸元の開いたドレスを着た女性、魔女のような格好をした彼女のスタイルは抜群で、まさにセクシーダイナマイツだ。

彼女は緑色の癖のある髪をくるくると指で遊びながら、退屈そうな表情を浮かべてゴールドバーグに話しかける。


「ぐるっと回ってみたけど、ほんっとに何もないわよ。この町」


「だから選んだんだ。古き良き田舎町、平凡な生活を送る人々。私の理想とするバトルフィールドだ」


「あなたの理想とやらは理解に苦しむわ。まぁ、わたしは願いが叶いさえすればそれでいいけど」


「HAHA! 人類史上最強を決める闘いは我々の願いを叶えるとともに、大いに盛り上がるさ‼︎ 」


ゴールドバーグの高らかな笑い声は、静かな町に響き渡った。



※※※



「ついにこの時がきたか‼︎ 」


町の入口に立つ少年は拳を握りしめ、これから始まるであろう闘いに胸を躍らせていた。


某県某郡左文字町。

人類史上最強を決める闘いがここで始まると聞き、世界を巡る武者修業の旅から帰国した彼の名は観音開絃四郎かんのんびらきこうしろう

齢十七歳にして一子相伝の拳法、観音開金剛流かんのんびらきこんごうりゅうの継承者である。


使い込まれてボロボロになった道着、鼻の頭には横一文字の大きな傷。他にも見える部分に大小様々な傷があり、いかにも格闘家らしい風貌をしている。

若いながら世界中のあらゆる武闘大会に参加し、格闘家として鍛錬を積んできた証である。


興奮した気持ちを深呼吸で抑え、 絃四郎は町に入るために参加証であるバッジを取り出す。参加証は事前に郵送され、町に入る前に必ず付けるようにと案内に書かれていた。

バッジにはこの大会の略称GBR、ゴールドバーグラッシュの字が入っている。


GBR、世界的大富豪セオドア・ゴールドバーグ主催の人類史上最強を決めると銘打った大会である。

半年前、各メディアで全世界同時に開催が発表されたこの大会は、応募資格は自由、優勝者の願いは何でも叶えるというものだった。

しかも大会参加者の旅費は全てゴールドバーグ財閥が負担。

当然好条件過ぎたため、老若男女問わず、出場希望者が殺到した。

物見遊山目的の連中を落とし、厳正な審査を重ねた結果、今日、選ばれた者だけがこの場に立つことを許されたのである。


絃四郎がなぜこの大会に出場できたのか、詳細は知らされていないが、おそらくは数々の大会で上位入賞経験があったからだろう。修行の過程で出場した大会では、大小関係なく上位に名を連ねたため、業界ではそれなりに絃四郎の名は知られている。


『ようこそ! 左文字町へ』


真新しいネオンサインの門をくぐると、バッジからピッという音がした。大会の案内によれば、門に付いたセンサーがバッジを認識し、自動的にエントリーとなるそうだ。


門をくぐった先には、すでに胴着に身を包んだ多くの格闘家が所狭しと集まっていた。

その中の数人から視線を感じる。絃四郎のことを知っているのか、品定めするような不躾な視線でジロジロと見てくる。失礼な連中の視線を無視して、人だかりに目を向けると、


(ん? あの人は確か中国の武闘大会で優勝した達人だ、おぉ!あの老人は五百年続くといわれる流派の継承者)


絃四郎も見覚えのある歴戦の猛者達がいた。

彼が立つ場所から距離があるというのに、相手が纏う闘気がヒシヒシと肌に伝わり、体に悪寒が走る。

絃四郎の視線に気づいたのか、歴戦の猛者たちはちらりと一瞥をくれる。

品定めしてきた連中とは違い、著名な格闘家たちはやはり格が違う。

闘気だけで相手を威嚇し、且つ相手の力量もはかっているのだ。

これまで参加した大会でも著名な格闘家たちはもちろんいたが、この人数が一堂に会することはなかった。

拳を交える前から圧倒されるような闘気を感じ、絃四郎は緊張のあまり唾を飲み込む。


「観音開、観音開か?! 」


絃四郎を親しげに呼ぶ声。振り向くと、絃四郎と同い年ぐらいの少年が、小走りで近づいてくる。


「マサキ! やはりお前も来たか‼︎ 」


「当たり前だ、お前と闘う機会を逃すはずないだろうが‼︎ 」


マサキが絃四郎の顔の前に手をかざすと、絃四郎は彼の手を取り、お互いにぐっと握り合う。

彼の名は後光ごこうマサキ、後光流拳法の使い手で絃四郎とは旧知の仲である。


「雲南省での大会は団体戦で味方だったが、今回はライバルだ。お互い決勝まで絶対勝ち残ろうぜ 」


爽やかな笑みを浮かべて絃四郎の背中を何度も叩くマサキ。これだけの闘気が渦巻く場所でも、あっけらかんとしている。


「ああ、お前と闘えるって考えるだけで俺もワクワクする」


「本当か? 実はビビってたんだろ? 」


「なっ! そんなことはない! 」


「相変わらず嘘のつけねぇ奴だな 」


全てお見通しとばかりに、マサキは絃四郎をにやにやしながら見る。


「そんなに気にすんなって、正直なのはお前のいいところだ。ほら、そうこう話している間に開会式が始まるみたいだぜ」


どうやらマサキと話している間に、開会式の始まる17時を回っていたようだ。


夕日が沈みかけている空にいくつもスポットライトが照らされ、荘厳な音楽が大音量で流れる。

スポットライトの光が集まる中心に巨大な男が現れる。

正確に言うと、男の巨大なホログラムであった。


「HAHAHA‼︎ 出場するファイターの諸君、ごきげんよう‼︎ 私の名はセオドア・ゴールドバーグ。この大会の主催者だ」


不敵な笑みを浮かべる口元には総金歯が輝く。

大会の主催者であり、世界有数の大富豪セオドア・ゴールドバーグ。その財力と歯に絹着せぬ物言いでマスコミから大人気の人物で、彼をメディアで見かけない日はない。


「世界中からこれだけ猛者たちが、集まってくれたことに心より感謝する‼︎ 」


「うわぁ、実物はテレビ以上に悪趣味だな」


「おい、いい加減にしろよ、マサキ。緊張感がなさすぎるぞ。」


「だって、指全部にあんなでかい指輪してる奴、金持ちでもそうそういねぇって。見せびらかしすぎて悪趣味だぜ」


「まったく、この空気でゴールドバーグの服装なんか気にするのはお前ぐらいだぞ」


巨大なゴールドバーグに周りの出場者たちは真剣な眼差しを向けている。

世界的に名の知れた格闘家たちとこれから闘いを繰り広げるようというのだから、普通はそれぐらいの態度でいて当然だ。

まぁ、図太いところがマサキの強みでもあるし、この暢気な態度が試合になると一転して熱い男になるわけだが。

今回に関しては自分もこの図太さを見習うべきだと絃四郎は思った。


「……さて、堅苦しい挨拶はこのぐらいにして本戦の前の予選を始めるとしよう」


ゴールドバーグの言葉に周囲がざわつく。


当然だ、予選をやるなんて案内には一言も書いてなかったからだ。


「驚かせてしまってすまない。実は厳選しきれなくてファイターを呼びすぎてねぇ。急で悪いがこの中からさらに本戦出場者を絞らせてもらうことにしたんだ」


口では悪いと言っておきながら、ゴールドバーグの顔は明らかに楽しそうに笑っている。


「まぁ、聞いてくれ諸君。もちろんタダでとは言わない。この予選を勝ち抜いた本戦出場者にはボーナスを出そうと思う」


会期中の衣食住を保障する旨は大会に書かれていたが、それに加えて特典が出るということらしい。

絃四郎が最近読んだ新聞には、厳密な数は書かれていないものの、この大会の出場者はおよそ三百人前後と書かれていた。

大会は一対一のトーナメント制で行うそうだから、当然ゴールドバーグ財閥はかなりの人数を長期間養わなければならないことになる。


だから減らすのか。

いや、ゴールドバーグは石油産出国の王族と同レベルの、桁違いの大金持ちだという。今さらそんなことで出場者を減らすはずはない。

一体どういうつもりなのか。


「もちろん、タダでとは言わない。優勝賞品には劣るが、会期中に必要なものは希望すれば何でも用意させよう。理由がこちらが適正だと判断すれば構わない」


何でも。

出場者たちの脳裏には、それぞれ求めるものが浮かぶ。

金、名誉、地位、力などなど。

ゴールドバーグからすれば微々たる報酬でも、望めば庶民からすれば、大金を得ることができるかもしれない。

つまりは予選さえ勝ち抜けば願いが叶う者もいるのだ。

会場のざわついた雰囲気は段々とおさまる。


(……そうか、こうやって出場者を奮い立たせるために、わざと多めに呼んだわけか)


「観音開、こりゃあ気合いれねぇとやばいぜ」


「ああ、さらに場の闘気が増したな」


絃四郎の背中には再び悪寒が走り、冷や汗まで流れてくる。

ゴールドバーグの言葉で、これまで数々の大会を勝ち抜いてきた猛者たちが、すぐにでも勝負をつけようという姿勢になったのである。

会場の空気は最早予選ではなく、決勝戦が始まりそうな張り詰めたものになった。


「どうやら納得してくれたようだね。それじゃあ予選のルールを説明しようか。ルールはシンプルイズベスト‼︎ 一対一で勝負し、君たちの胸にあるバッジを三つ集めることだ」


巨大なゴールドバーグが消え、出場者たちを映した画面が現れる。


「バッジは必要以上に集めてはならない。このように一人一人を飛行する小型カメラで監視するから、ズルをしてもバレバレだからな」


スポットライトの中心部から、大量の黒い虫の大群のようなものが一斉に飛び出る。野球ボールぐらいの黒い小型カメラは高く空に上がると、垂直にで出場者目がけて降りていった。


「制限時間は三時間‼︎ それでは試合開始、諸君らの健闘を祈る‼︎ 」


ゴールドバーグが腕を振り上げると、大会開始のゴングが鳴った。





次回予告


「マサキ、マサキ‼︎ 一体何があったんだ……」


「これは……肉じゃがだと⁈ 」


「お残しは許さんぞぉぉぉぉ‼︎」


First Battle

観音開絃四郎 VS おばちゃん

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