第四章 情景
ごめんなさい・・・・・。迷走しました・・・・・。
「どうだね?素晴らしいだろう?」
・・・・・・・・。こりゃあすごい・・・。
部屋には、気が狂いそうなほどの数の薔薇と林檎が生い茂っており、大量の薔薇からは頭痛がするほどの芳香が漂っている。しかもその薔薇と林檎は血の色を思わせる赤。だが、それよりも美しく香しいものがこの部屋の真ん中にあった。それは・・・・・・・・
「白雪姫・・・・・?」
薔薇が敷き詰められた透明な棺の中で、眠るかのように目を閉じている美しい顔立ちの人形は、黒檀のように真っ黒な髪に、血のように朱い頬と唇、そして雪のように白い肌を持っている。この人形はかの童話に聞く、白雪姫そのものだ。
「左様。だが、この姫と童話では違うことが一つある。なんだと思うかね?」
「・・・・・・・・・?」
突然聞かれても・・・・・・。
「この姫に白馬の王子さまなんぞが迎えにくることはない。ゆえにこの姫は目覚めることはない。救いなぞないのだよ。」
「それじゃあただの鬱話じゃない・・・?」
悪役が勝っちゃってるよね?ざまぁwwwwwってできないじゃん。
「そうかね?だが、これこそが正しき死だ。ゆるやかに、おだやかに、いつしか存在すら思い出されなくなる。」
・・・・・。やっぱり独特の価値観というか、なんというか・・・・・。
「だが、思い出されなくなることは悲しい。だからこそ人は何か残そうとするのだろうね。」
・・・・・・・・・。
「・・・・・ルトゥも何か残したくて人形をつくっているの?」
かねてからの疑問だったのだ。コイツは人形を作ってなにがしたいのだろう?と。売りもしなければ、私以外にもなかなか見せようとしない。
「・・・・・・。恐らくだが違うのだろうね。僕のつくったマリオネットたちは僕がこの世から消えた瞬間に自動的に壊れるように僕が設定してある。」
「じゃあなぜ?」
「・・・・・なぜだろうね?ただ、僕は作りたい。マリオネットを色々な者に見せたいとも思わなければ、僕のマリオネットについて理解してもらいたい、とも思わない。僕のマリオネットを見るのは僕と君だけでいいし、理解するのも僕と君だけいい。そうは思わないかね?」
いや、まったく。
「だから、写真集なんて形で僕の作品が色々な者に見せられるのも、マリオネット貸し出すなんてこともまったくもってありえないはずだったのだよ。」
そういうと、ルトゥはひつぎの近くまで行き、黙って人形の頭を撫で始めた。その姿は、一つの美しい絵のようであり、どこか非現実的な美しさのせいか酷く儚げで、触れたら・・・・いや、触れなくとも消えてしまいそうな雰囲気がただよっていた。
「ルトゥ・・・・・・?」
ルトゥが消えてしまいそうに感じて、思わず声をかけた。だが、こちらをどこかおかしな目でちらりと一回見ただけで、返事はいつまでたっても返ってこない。
なぜか・・・・本当になぜか、私はこの場から逃げ出すことにした。わからないが、この場に居てはいけない気がしたのだ。ルトゥの異様な雰囲気に気圧されたのかもしれない。さきほどのルトゥの目には、儚さ以外の狂気を秘めたなにかが確実にあった。
だから、私は知らない。
「僕の事をわかるのは君だけでいい・・・・・。君の事をわかるのは僕だけでいい・・・・・。そうだろう・・・・・?」
私が居なくなったあの場所で、ルトゥが何を言っていたのかも。ルトゥの言葉が誰にあてたものかも。
みなさま、お元気でしたでしょうか?私は体調をぶっ壊していたので、全くもって元気ではなかったです・・・・。みなさまも、この季節の変わり目に体調を崩さないよう、お気をつけ下さい・・・・・・・。