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元は来客を泊める為の離れは、母の住居と化していた。
声もかけずに中に進む。
途中、女中達がマカ達の姿を見て、無言で頭を下げる。
僅かな緊張感がこの離れに満ちている。
そして―マカは気付いていた。
この離れに満ちる、腐臭…いや、死臭に。
「マノン…」
険しい顔で呟き、離れの一番奥の扉の前にたどり着く。
匂いの元はここからだ。
重厚な木の扉は、ある意味、封印だ。
忌まわしいモノを封じる為の。
「マカ」
「分かってる」
マカは深く息を吐くと、眼を閉じた。
そして再び開いた眼は、赤く染まっている。
右手を開くと、浮かぶ黒い紋章。
マカは扉に刻まれた紋章と、右手の紋章を合わせた。
すると、扉は開いてく。
扉の向こうは、白く明るい。
和の庭園。
季節を無視した色とりどりの花々が咲き乱れる。
「…ふふっ。そうなの」
庭園の奥から、美しい女性の声が聞こえる。




