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ヒモにも冒険者にもなりえる存在――それが俺  作者: タクティカル
1章 平凡な日々、そして神との遭遇
9/17

女神さんのハチミツ授業~放課後そして始業~

次回から2章です。


 目を開く。

 目に入ってきたのはは白い空間――ではなく見慣れた天井だった。

 ここ半年、毎朝起きて目に入ってくる天井。

 戻ってきたのだ。

 俺は女神と出会い、そして戻ってきた。


 だが、あれは本当にあった出来事なんだろうか。

 一向に冒険者になれない俺の深層心理が生み出したただの夢――その可能性は否定できない。

 

 それを確かめる方法はあった。


「『ヘルプ』」


 女神から教えられた言葉。

 女神と繋がる唯一のワード。

 そのワードを告げた瞬間、俺の脳内にザーザーとノイズ音が走った。


「よっし!」

 

 どうやら、本当にあった出来事らしい。

 俺は半年振りに女神と出会い、そして『力』を受け取る約束を取り付けた。

 その事実は目覚めたばかりの脳を一気に覚醒させ、俺自身を興奮させた。

 

 ノイズの向こう、女神に向かって呼びかける。


「おーい女神さーん! 俺だよ俺! 俺俺!」

 

 ベッドの上にあぐらを組み、天井に向かって呼びかける。

 実際、テレパシーで話すのだから天に向かって話しかける必要はないのだけど、気分の問題だ。


「おーい! おーい! 俺だよ、エチゼンだよー! イケメン過ぎて女の子から直視されることが少ないことで有名なエチゼンだよー」


『聞こえてるし、超うるさいんで黙って下さいねぇ。あとイケメンでは、ない』


 何度かの呼びかけの後、聞き覚えのある声が脳内に響いた。

 つい先ほどまで聞いていた声。女神の声だ。

 しかし、妙に不機嫌な様子だ。


『……何か用ですかぁ? 忙しいのでぇ、用があるなら手短にお願いしますねぇ』


「いや、用っていうか……本当に繋がるのかなぁって試してみたくて」


――バキリ


 ノイズの向こうで何かをへし折るような音が聞こえた。

 例えるならそう、モップを思い切りブチ折ったような痛々しい音が。


『忙しいって、言いましたよねぇ? 何で忙しいか分かりますかぁ? 誰かさんが去り際に散布したブツを掃除してるからなんですよねぇ』


「散布したって……そんな毒みたいな……」


『毒ですよぉ! 下手すれば毒よりも酷いですよぉ! 毒は解毒すれば消えますけど、これ臭いとか残ったらどうしてくれるんですかぁ!?』


「……ご、ごめん」


 どうやら俺が仕出かした不始末を片付けているらしい。


『分かったなら、切りますよぉ? あと私普通に忙しい身分なんで、そう気軽に連絡してこないで下さいねぇ? それじゃあ』


 プツンと音がして女神との繋がりが途切れた。

 悪いことをしたな。だが同時にザマアという感情もある。大体3:7の割合で後者の方が強かった。


 ともかく、俺は本当に女神と会った。

 それが証明されて、思わず嬉しさのあまり笑ってしまう。


「はははは! やった! これで……俺も羽ばたける! 冒険者エチゼンの幕が上がる! やったぜ!」


「……うゅ」


 ごそごそと隣で蠢く感覚。

 クーリエちゃんが布団から頭だけを出して、右目だけを開き、恨みがましくこちらを見てきた。


「……エチゼンさん、うるさいですよぉー」


「あ、ごめん、起こしちゃった? って聞いてくれよ! 俺さ、凄い体験したんだ!」


 今の俺なら、芸能人に遭遇してツイッターにどうでもいい感想を上げる人の気持ちが分かる。

 誰かに聞いてもらいたい。その感情が抑えきれない。


「……ふわぁ……すごいですねぇ」


「いや、まだ言ってないから。あのな――俺、女神に会ったんだ」


「……すごいですねぇ。わたしはさっきまで大きなパンケーキの山を登ってましたよ……」


「夢じゃねーよ! マジなんだって!」


「はいはい。まだ早いですからエチゼンさんも寝ましょうねぇ……一緒にパンケーキ登りましょう」


 そう言って俺を布団の中に引きずり込もうとする妖怪クーリエちゃん。

 完全に覚醒してしまった俺は全く眠くないし、誰かにこの出来事を聞いてもらいたいしで、クーリエちゃんから逃れようとする。

 だがクーリエちゃんには勝てなかったよ(物理的に)


 布団の中に完全に飲み込まれ、クーリエちゃんに抱き枕にされた俺は、何だかんだでお布団温かいし、クーリエちゃん柔らかいしで、去ってしまった眠気がまたやってきた。

 その眠気に誘われるように、目を閉じる。


 まあ、起きてから話せばいいか。

 そう思い、眠りにつくのだった。


 ちなみに俺の夢にパンケーキもクーリエちゃんも出てくることはなく、出てきたのは妹だった。妹が普通に学校に行って、友達と遊ぶ。家に帰って1人で飯を食べる。そんな光景を上から見る夢だった。妹は眠る前に、物置部屋――俺の部屋だった場所を不思議そうな目で見て……そこで目を覚ました。





■■■



 こうして、俺の新しい物語が始まった。

 俺が手にするはずの物を手にして、進むべき道を進む物語。

 クーリエちゃんに並び、彼女を助け、そしてハーレムを作って人生を大いに楽しむ物語。

 それがとうとう幕を開けたのだ。



■■■





 

 起きた後、改めてクーリエちゃんに女神遭遇話を語るも


「寝言は寝てから言ってください」


 と頬にジャムを付けたまま言われ、しつこく食い下がるも


「……昨日食べたキノコの幻覚作用が?」


 と精神に失調をきたした者扱いされるので、この話はしないことにした。

 よくよく考えたら俺もいきなり『神と会った』的なことを言われたら、コイツマジ頭やばいと思うだろうし、これもしょうがないんだろうなぁと思うことにした。

 そうでも思わないとやってられないわ。


 とりあえずはアレだな。女神から《ギフト》貰う前に、自分にできることは進めておきたい。まずは冒険者にならないと。

 よし、今日から頑張るぞ。



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