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ヒモにも冒険者にもなりえる存在――それが俺  作者: タクティカル
1章 平凡な日々、そして神との遭遇
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女神さんのハチミツ授業~1時間目~

――俺は女神へと跳びかかった。目指すはピンクのパジャマに包まれた豊満な胸。


 説明もなしに異世界へ放り出したヤツに、報復という名の快楽を与えてやる……!

 デスクに足をかけ跳躍、そのまま利き腕である右腕を前へ。

 俺の右腕が女神の豊満な胸に触れる――寸前に俺はその手を止めた。女神は変わらず眠そうな目で俺を見ている。


「……くっ、何故避けない!?」


 女神は身じろぎ一つしなかった。それどころか、動揺の欠片すら見せない。まるで端から俺が揉む気などなかったのを看破しているように。


「まさか俺が最初から胸を揉むつもりがないのを気づいていたのか? 殺気……いや、揉気がないのを感じ取っていたのか?」


 だとすれば、流石女神というべきか。これは女神に対する評価を改めて方がいいかもしれない。やはり神と名が付くだけあって、その能力は神域――


「いえ、別に揉まれてもいいかなぁと思ってぇ。お好きにどうぞーって感じですねぇ」


「マジっすか!?」


 え、もしかしてこの女神、貞操感ガバガバのゆるふわビッチ系? どんな男にもホイホイオープンゲットしちゃう性の伝道者スタイル?

 よく考えたら、結構神話に出てくる神様とかって、えげつないレベルでエロかったりするもんな。ギリシャ神話とか。この女神がそうだとしてもおかしくはない、か。


「じゃ、じゃあ……揉んじゃおうかな?」


 まあ、本人がそこまで言うのなら、逆に揉まないと失礼だよね? 別にエロス目的とかじゃなくてね、家ではクーリエちゃんがいるせいで発散するものも発散できないとかね……あくまで胸を揉むという行為を通して神という存在は俺達人間と体の構造は変わらないのかを調べる学術的好奇心が……嘘です。純粋におっぱいが触りたいだけでーす。

 俺が改めて揉気を高めていると、女神がアクビをしながら言った。


「たかが人間の一個体に胸を触られたくらいどうでもねぇ。エチゼンさん、あなた自分の胸に蝿が止まって気にしますかぁ? 私――女神にとって人間というのはそれくらいの存在なんですよぉ。あ、気を悪くしたなら謝りますねぇ。蝿っていうのも物の例えで、それくらい私にとって下位の存在というわけでぇ」


 どうやら、神様だけあって俺と価値観が圧倒的に違っているらしい。見た目は茶色い癖っ毛のピンクのパジャマを着た可愛らしい少女そのものなんだけど。

 しかしどうしたものか。ここは揉むべきか、揉まざるべきか。


 脳裏に天使と悪魔が現れるお約束のイメージ。



悪魔『げへへへ! 揉めよ! ああ、言ってるんだ、揉んじまえばいいんだよ! 荒々しく揉みつくしてやるのさぁ!』


天使『なにを言うこの悪魔め! この悪魔の言うことは聞いてはなりません! ――優しく、それでいて大河を流れる濁流の如き大胆さで揉むのです!』


 揉み方で揉めてんのかよ。つーか天使、結局は悪魔と言ってること同じ。


イーグル田中『ボーイ、いいか? いきなりボタンを押すなよ? まずはゆっくりと……ねっちこく、ボタンの周囲を焦らすように撫でるんだ。間違っても握りしめたりするなよ? ソフトに羽のような動きで表面を撫でるのさ。そして相手が十分に熟れきったところで……ボタンを押せ! 押せ! せっ! せっ! アンダスタン?』


 誰だよあんた。俺の中にこんな100人切りみたいな熟練者いたか?

 天使と悪魔、イーグル田中がそれぞれの意見をぶつけあう。と言ってもどのように揉むか、という話し合いだが。

 そこに新たな一石が投じられた。

 暑苦しく正義感に溢れた――プライド先輩だ。


プライド先輩『お前ら何言ってんだよ……悔しくねえのかよ!? 相手は俺たちのこと畜生以下だと思ってんだぞ!? そんなヤツの胸揉んで楽しいのかよ!? いいや、俺は楽しくないね! そうじゃない……そうじゃねぇだろ! 胸を揉むってのはその柔らかさを楽しむ為だけじゃない――相手が揉まれて恥ずかしがってる、その姿を見る為だろうが! 羞恥を感じないヤツの胸を揉んでも……楽しいわけねえだろ――なぁお前ら!?』


 プライド先輩の心の篭った演説に、争い合っていた3体がひとつになる。


悪魔『……げへへ、確かにその通りだったな。』


天使『私達が間違っていました』


悪魔&天使『胸を揉むのは揉まれた相手のリアクションが見たいから!』


悪魔&天使改め――神『そうじゃった。そうじゃったな。目先の感情に捕らわれて、本当に大切な物が見えてなかったの……』


イーグル田中『お前の言う通りだボーイ。おじさんだって本当は恥ずかしがってる女の子が見たいんだ……。でも、素人ものって言っても、実はみんなプロばっかりだし、マジックミラー号も――』


 イーグルさんは黙ってて! プライド先輩がいいこと言ってるでしょ!?


プライド『みんな……ありがとう。さあ、戦うぞ! 心にプライドを持って、揉まない勇気を灯せ! 揉んでやるものかと唾を吐け! 誘惑をゴミ箱に突っ込め! あんな胸如き、如き……あ、あんな胸……胸……胸――みんな揉むしかないじゃないっ!』


 プライド先輩陥落。まあ、そんな気はしてたけども。

 かくして脳内議会は揉むことで全会一致。さて、ではあの豊満な胸を揉ませて――


「あ、でもよく考えたらぁ、蝿が胸に止まるのって凄く気持ち悪いですよねぇ、汚いし。というわけで、やっぱり揉むのはなしってことお願いしまぁす」


 揉んでもいいとか揉むなとか……ほんと神様って気まぐれ。じゃあ、また揉んでもいい方に振り幅が振れるまで、虎視眈々とその時を狙っていくことにしよう。悔しくなんかないんだから!

 そう思って纏っていた揉気を消し、気を抜いた。

 そして胸を中心に見ていた視界から、女神そのものを視界に収めた。キラキラと輝く光を前身に纏ったその姿を見た。

 

――瞬間、俺の体を凄まじい重圧が襲った。


「……っ!?」


「ふわぁ、眠い眠い……」


 間延びした穏やかな声。間にアクビを混じえる、こちらも眠くなってしまうような声。

 それなのに、言葉がまるで厚みを持った壁のように俺を叩きつけた。

 女神が発する言葉の一つ一つが俺を打ちのめす。

 実際に物理的な衝撃が発生しているわけではない、女神が発する圧倒的な神々しさが原因だ。


「……っ! っ!」


 思わず頭を垂れて懺悔の言葉を口にしてしまいそうなオーラ、女神が纏った天に煌く星のような粒子は見ているだけで寿命は縮む錯覚を覚える。言葉が出ない。言葉を発する機関が停止している。上位者が持つ輝きに目が潰れてしまいそうになる。まるで重力が100倍にでもなったように、膝を付いてしまう。


「あれぇ? どうしましたエチゼンさん?」


 女神がのんびりとした声で小首をかしげた。

 脂汗を流し、死にかけの鯉のように口を開閉する俺を見て、女神がぽんと手を打った。


「あぁー。はいはい。ごめんなさいねぇ。付けっぱなしにしてました、節約節約っとぉ」


 女神が電気の紐のような物(背景に同化してて見えなかった)を引く。瞬間、先ほどまで輝いた粒子は霧散し、残ったのは茶色い癖っ毛の豊満な胸を持ったたたのパジャマ少女だった。


「……なにそれ、そんなんでオーラon/offできちゃうの? うわぁ、すっごいお手軽」


 先ほどまでビビリまくっていた自分が間抜けっぽい。

 気を取り直す気持ちで、こちらから質問する。


「で、一体何のようだ? つーか聞きたいことがたくさんあるんだけどさぁ、とりあえずここどこ?」


「ここは私の仕事場ですねぇ。で、今日は異世界に行った人の面談の日で、エチゼンさんで最後ですぅ。早く終わらせたいんで、さくさく行きましょーかぁ。えっと、この面談ですけど異世界に行ってから半年毎に実施していきますのでぇ、そこのところお願いしまぁす。じゃあ、まず――」


 気がつけば、いつの間にか話が進んでいる。よく分からんが、この緩い面接会場のような雰囲気、本当に女神と面談をするらしい。

 しかし、俺も女神に聞きたいことがたくさんある。面談が終わって、ハイさよならじゃ困る。

 オーラを失って普通の少女にしか見えない女神に、ちょっと強気な態度をとる。


「いいや、俺の質問が先だ。悪いが答えてもらうぞ。さもないと……お前の話は耳塞いで聞かないんだから!」


「えぇー子供ですかぁ。まあ、いいですけどぉ。できるだけ手短にして下さいねぇ」


 適当な女神だなぁオイ。まあ、いいや。答えてくれるんだったら、答えてもらおう。こっちには情報が少なすぎる。



「まず最初に。どうして俺をあの世界に送ったんだ?」


「あれぇ? 最初ここに来た時説明しませんでしたっけぇ?」


「してねーよ。何か虚ろな表情でぶつぶつ呟いてるなーって思ったら、いきなり床に穴が開いたんだよ! そんで気づいたら異世界だよ!」


 あの時は非常に混乱した。普通に朝起きたと思ったらこの真っ白な空間にいて、目の下に隈作った女神が現れたと思ったら、混乱してるこっちが落ち着く前にいきなり穴に落ちたのだ。そして異世界へ……辿り着いたはず。

 実のところ俺には、異世界に来てから1週間ほどの記憶が抜け落ちている。最近になってぼんやりと思い出してきたが、穴に落ちた直後のことははっきり思い出せない。


 俺の言葉に女神は記憶を掘り起こすように、頭を左右にゆっくり振った。左右に揺れる頭と、追従するように揺れる胸――もしかしてノーブラっすか!?

 き、聞きたい……寝る前はノーブラノーパン派なのかを聞きたい……今重要なこと思い出してもらってるところだが、そんなものはいいから聞きたい。

 俺が意を決してノーブラノーパン健康法実施者なのかを尋ねようとした瞬間、女神の頭がぴたりと止まり「思い出しましたぁ」と億劫そうに言った。


「えっとぉ……確かその日も今日みたいにすっごく忙しくてぇ……エチゼンさんの順番も今日と同じく最後だったんですよねぇ。それで前の日にオンゲーのレイドイベントもあったから、すっごく眠くて……正直何話したのかも覚えてませんねぇ」


「おい、この野郎おい。なに人を別の世界~another world~に送り出す重要イベント時に船こいでんだよ。女神だからって調子コイてっと、不運ハードラックダンスらせちまうぞ」


「ごめんなさいねぇ。許してにゃんにゃん」


「許す!」


 眠そうな表情で気怠そうに招き猫のようなポーズを取った女神が、思った以上に愛らしくうっかり許しちゃったにゃん!

 取り敢えず、抜け落ちた説明について尋ねる。

 

「えっと、じゃあー、改めて説明しますねぇ。まずエチゼンさんはぁ、死んでしまってここに来たんですねぇ」


「うっそマジで?」


 と言ってみるものの、薄々は感じていた。何故かって? こういう展開結構ありがちだから。死んで異世界って最早お約束。廊下で転んだら女子生徒のスカートの中に顔突っ込んでたってくらいお約束(経験はないけど)

 死んだと言われても、あまりショックは受けていない自分に少し驚く。まあ、もう半年異世界で過ごしたからかな。半年前に死んだって言われても今更感がある。


「俺、死んでたかぁー」


「正確に言えばぁ、死ぬ予定だったって感じですねぇ。半年前のあの日、16時57分にエチゼンさんは死ぬ予定でしたよぉ。で、私の仕事はそうやって死ぬ予定だった人を拾い上げて他の世界に送るんですねぇ。何で送るとかは聞かないで下さいねぇ? それが上から与えられたお仕事なんでぇ」


 じゃあ、まだ死んでねえんじゃん。いや、死ぬのは確定だったのかもしれないけど。

 こう、死ぬとか生かすとか言われると、完全に俺ってお釈迦様の手のひらの上で飛び回るモンキー状態なのね。

 ちょっとどころではない上からの発言に、俺が中学生頃に置いてきた反骨心パンクスピリッツが燃え上がった。


「人の生き死にを弄びやがって……! 人間は神のおもちゃじゃねーんだぞ!?」


「死んだ方がよかったんですかぁ?」


 死んだほうがよかった、なんて言えない。まだまだ生きていたいし、やりたいことだってたくさんある。見たいアニメだってあるしな。

 それでも『死ぬ所だったから助けたよー。代わりに別の世界行ってねー』なんて言われて、はいそーですかと納得なんてできない。いくら相手が神だとしても、反逆トリズナーする気持ちって大切だと思う。

 それにもしかしたら『愛する女性を守る為に敵のエネルギー弾の前に飛び出す』って憧れの死に様だったかもしれない。それだったら正直死んでもよかったかも。


「くっ、神め……貴様の操り人形にはならんぞ! 人間オレタチ人生ミライ道標カミ不要いらない! ……ところで俺ってどんな風に死ぬ予定だったの?」


 あくまで参考に、参考にな。自分の死に様を知るのって、これからのライフスタイルにいい影響を与えるかもしれないし。


「えっとぉ。その日の12時、エチゼンさんは近所の裏山にある秘密基地『エチゼンと秘密の部屋』に行きましたぁ」


 流石女神、俺のシークレットスペースである秘密基地の存在も知ってるとは……侮れんな。

 小学生の頃、妹と2人で作ったダンボール基地だが、未だ壊れることなく稼働している。俺は辛いことがあった時や一人になりたくなった時にここの来て、安息の時を過ごしているのだ。

 ちなみにこの秘密基地、恐るべき秘密がある。なんど、年に3回――新品のエロ本が基地の中に現れるのだ。どんな原理か知らないが、多分俺の秘めたる力の一端が基地に作用してエロ本を生み出したとか、そんな感じだろう。


「クリスマス、誕生日、読書の日。その3日間にエロ本がポップするんだ。すげーだろ。流石の女神も驚く?」


「それを自分の力だと勘違いしちゃう痛さに驚きますねぇ。その本、エチゼンさんの妹さんが設置してたんですよぉ?」


「は?」


「モテなくて、友達が少なくて、やっぱりモテない可哀想な兄の為に、少しでも幸せを感じて欲しくて、なけなしのお小遣いでエロ本を買う。いい妹さんですねぇ。男性と付き合ったこともない女子高生がマスクとサングラスで顔を隠してまでしてエロ本を買う、相当な勇気が必要でしょうに、お兄さん思いですねぇ」


 のほほんと心温まった感じで言う女神だが、対する俺は衝撃の事実を前に今にも嘔吐リバっちまいそうだった。

 え? マジで? あれって妹が買ってたの? サンタクロースとかじゃなくて? エロ本の神様とかじゃなくて?

 マジっすか? ああ、通りで俺がエロ本が湧く日、俺が秘密基地に向かう時の妹の表情がトイレを我慢してるような羞恥の顔だったわけか。なーるほど。俺は妹が買ってくれたエロ本でハッピージョブをエンジョイしてたってわけね。うーん、ここに新たな黒歴史が刻まれたぞ。


「よし、最初の願いだ。今さっき聞いたことを俺の記憶から消してくれ」


「いや、ここそういう場じゃないですからぁ。続けていいですかぁ?」


「あ、ああ。早く俺のスペクタルかつ躍動感溢れる感動の死に様を聞かせてくれ。そして先ほどできたばかりの黒歴史を上書きしてくれ」


 俺は生まれて初めて、心の中から祈った。


「はいはぁい。で、秘密基地で大量のエロ本を手に入れたエチゼンさんは、知り合いに見つかったらどうしようという思いから、普段以上に周囲を警戒しつつ帰路に着いていました。そこで見てしまったのです」


 「見てしまった?」


「エチゼンさんの瞳が捉えたのは――今にもトラックに轢かれそうな白いワンピースを着た幼い少女でしたぁ」


「……なん、だと」


 光景を想像する。目の前に死を迎えようとしている幼い命。俺だったらどうする? いや、多分だけど考えるより先に体は動いてるはず。そういうカッコイイものに憧れている、言葉でなく心の底から憧れてる俺は――


「トラックの前に飛び出しました。そして少女の体を突き飛ばそうとして……その手は空を切りました」


 なんてこった。じゃあ俺は、少女を助けることもできず、共倒れしてしまったのか。だがまぁ……悪い死に様じゃない。女の子を助けようとして死ぬ。カッコイイじゃないか。いや実際には助けられてないけど。

 少女には悪いことをしたが、それもまた運命だ。できるなら俺の娘へと生まれ変わって、ある日生前の記憶が戻って『パパって命の恩人なんだ……パパなのに……好きになっちゃった』って感じで奥さんと修羅場を展開して欲しい。


「エチゼンさんの目の前で少女はトラックに弾き飛ばされました」


「……残念だ」


「そしてそのまま空高く、青空を流れる風に乗ってふわふわと隣町まで泳ぐように飛んでいきましたとさぁ」


「は? なにそれ? 抽象的エンド? 少女は天使になったとかそういう話? ネロラッシュ僕もう眠いよ?」


「お前は誰ですかって話ですよねぇ。いえ、そうではなく。実際に飛んで行ったんですよぉ。日頃、寝る前に真っ暗な部屋の中でスマホを弄って課金ゲーをしてたエチゼンさんはぁ、とても目が悪かったんですねぇ」


「課金じゃない! お布施をしてたんだよ! ……いや、何の話?」


「はいはい。でかなり目が悪いのに、コンタクトは怖い、眼鏡はダサい……と、何してもダサいのにエチゼンさんは、視力矯正グッズを着けることはしませんでした」


「だから何の話だよ、天使ちゃんどうなったの?」


「ですからぁ、目が悪いエチゼンさんが見たのは天使でもなければ、白いワンピースの少女でもなく――白いビニール袋だったんですねぇ」


「……う、嘘だよね」


「嘘じゃないですよぉ。確かにエチゼンさんは道路に転がってた白いビニール袋を突き飛ばそうとして、トラックの前に飛び出しましたぁ」


 そんなんダサいとかそういうレベルじゃねーじゃん。いや、ま、待てよ。ここから急展開なんだろ? トラックに轢かれそうになった俺は覚醒して、日本転覆を図る秘密組織と戦うことになってなんやかんやでヒロインを助ける為に、エネルギー弾の前に飛び出すんだろ、そうじゃないと――


「で、フツーに撥ねられて、フツーに道路に叩きつけられて、フツーに死んじゃいましたぁ。可愛そぉですねぇ……トラックの運転手さん」


「ほんとに? マジで俺そんな間抜けな死に様なの? ここから超展開とかないの? 実は魔族の血を引いてたとかで、復活するとか……」


「ああ!」


 女神はのんびりとした動きでポンと手を打った。


「あるんだ! やっぱりワンチャンあるんだ! 魔界編突入? 夜明けの炎刃王編?」


「その時、エチゼンさんが抱えてたエロ本が飛び散って、周囲に散乱しました。その光景を見た目撃者の一人が『舞い散るエロ本がさながら鳩のようで、ジョンウー映画を彷彿した』とコメントしてますねぇ」


「もういいよ」


「あと、近所の大学生がその瞬間をたまたま動画撮影しまして、動画サイトにアップしたら1週間で再生数100万を突破しましたぁ」


「もういいって」


「当然、不謹慎だと言う人もいましたが、そういう人達も動画を見るととりあえず笑ってしまって、うやむやの内にもうこれはこれでアリじゃねと風潮になりましてぇ」


「もう、やめてくれ……」


「この動画を元にしたAA、MAD動画、コスプレ、コピペ、同人誌などなど、メディアの垣根を超えた広がりを見せ」


「殺してぇ……優しく殺してぇ……」


「その年の流行語大賞も『セガサターンおいしいでーす!』『や○い穴はありまぁす!』を抜いて『ヤマがなければオチをつければいいじゃない!』が……と、これは別の件でしたか」


「ふふふ……空気ちゃんぺろぺろ。可愛いよ空気ちゃん」


「とまあ、エチゼンさんの死に様はこんな感じなんですけどぉ……何か言いたいことはありますかぁ?」


 まるで悪意など持っていないような女神の微笑み。実際に悪意などなく、ありのままに事実を述べただけなのだろう。だから俺も彼女に対して、ありのまま思いを伝えることにした。


「おげぇぇぇぇ」


 女神への返事は度重なるショックにより限界を超えた堤防――つまりは嘔吐だった。




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