肉と女神の話
今日のバイトは特に忙しかった。
本来俺はバイトであり、勤務時間は普段17時までなのだが、今日は17時前の時点で鬼のように客が途切れることなくやって来て、ワカバちゃんが涙目で『お、お願いエチゼンくん! 今日はもうちょっと手伝ってっ、後でたっくさんお礼するからぁっ!』と言われたので、今日は残業記念日。 べ、別にお礼に惹かれたわけじゃないんだからね! ごめん、嘘。ワカバちゃんのお礼で期待感ワクワクしながら働いてた。
結局客は閉店まで途切れず、閉店時刻の21時まで働くことになってしまった。店の窓から見える外はどっぷりと闇に染まっていた。
「そうだ! 今日は泊まっていったら? うん、それがいいよっ。えっと、それならお礼もすぐにできるし、もっとたくさん一緒にお話できるよ! 夜ご飯は私が腕によりをかけて作るね! エチゼン君は何が食べたい? やっぱりお肉? お肉だよね、男の子だし! ……あ、困ったよ。部屋が2つしかないからエチゼン君はどこに寝れば……パパは体が大き過ぎるから、一緒に寝たら潰されちゃうし……じゃあ私の部屋で一緒に寝よっか! 一緒にね! ……って、私何言っちゃってるのかな!? そ、そんなのダメに決まってるじゃん! け、結婚もしてないのに男の人と一緒に寝るなんて……そ、そんなのいけないことだよっ。もーっ、私のバカ! バカわんこ! わんわーん!」
とワカバちゃんからテンション上げ上げのお泊りにお誘いされたが、家でクーリエちゃんが待っているので丁寧にお断りした。凄く残念。いや、嘘。死ぬほど残念だった。断る時、多分血の涙とか出てたと思う。
親父さんとワカバちゃんにおやすみの挨拶をして、店から出た。ワカバちゃんからお土産にと持たされた、大量の肉が重い。
「暗いなー」
石畳の道を照らしているのは、僅かな光源――月明かりと申し訳程度に輝く魔石街灯の光のみ。人の姿は見えない。ここから中心街に向かえば、仕事終わりの労働者や冒険者がひしめいているのだが、この時間、俺は中心街に立ち寄らないことにしている。
酒によった輩に絡まれるのを避ける為だ。特に冒険者は荒くれ者が多く、酒を飲んで粗暴さが増した連中はしょっちゅう騒ぎを起こす。俺も何度かそれに巻き込まれたことがあり、痛い思いをしたのだ。
だから中心街を突っ切らず、この街の形――バウムクーヘンの層に沿うようにして、家までの道を帰る。少々遠回りだが仕方ない。
「人いねーし、こえーし、寒いし。ああ、やだやだ。早く帰りたい。速やかに帰ってクーリエちゃんの胸が育ったかどうかを目測する日課に従事したい。ちょっと紅茶を熱めに出して、涙目でふーふーするクーリエちゃんを観察したいよー」
周囲の静けさに、思わず口数が多くなってしまう。普段はモノローグで済ます痛い発言も、こういう時にはガンガン口から出てくる。こうやって口に出していると、少しでも気が紛れるのだ。
何がそんなに怖いって、そりゃあなた――幽霊ですよ。
あ、今もしかして『エチゼン君って幽霊とか信じちゃうんだ……可愛い』って思った? 母性本能こちょこちょしちゃった?
でも別に可愛さアピールの為とかじゃなくて、本当に怖いの。だってこの世界、マジに幽霊出るから。
正確に言えば、幽霊型モンスター。ゴーストとか、スケルトンとかその辺。俺は遭遇したことないけど、そういうのが実在するってだけで、人気のない夜が3倍増しで恐ろしく感じる。
どうせなら、そんな色気のないモンスターより、料理ができて世話好きなちょっと露出癖がある可愛い幽霊ちゃんに遭遇したい。んで仲睦まじく4畳半のアパート暮らしたい。
未だ現れない美少女幽霊ちゃんとの生活を妄想していたら、いつの間にか我が家へ辿り着いていた。よくあることだ。
「ただいまー」
中に入ると灯りは全く点いておらず真っ暗闇の状態だった。
どうやら、クーリエちゃんはまだ帰ってないらしい。手探りで灯りのスイッチに触れる。天井に設置された魔石がチカチカと瞬き、その後室内を眩く照らした。
――そしたらね、いるんですよ……。少女が椅子に座ってボゥっと……こっちを見てるんですよ……虚ろな瞳で……
「一枚足りないぃぃぃぃぃ!?」
「何ですかエチゼンさん。帰るなり意味の分からないことを……帰ってきたら『ただいま』、子供でも分かりますよ?」
リメンバーイエスタデー。俺の目に写ったのは、昨晩と同じく真っ暗な中でずっと椅子に座っていたと思われるクーリエちゃん。流石に昨日に続いて天丼はねーだろと思ってたらこれだよ。
「ごめんね! 昨日に引き続きごめんね! でもね、怖かったの! 分かる!? 何もいないと思った部屋に何かがいるってめちゃくちゃ怖いの! 安心してるところにこう……グサってナイフが刺さる感じ!」
「いえ、全くわかりません」
「だよね。クーリエちゃん肝っタマでかそうだもんね。ただいま」
「はい、おかえりなさい」
まだドキドキしてる心臓を落ち着けるように、肉の入った袋を食卓に下ろした。
クーリエちゃんが袋を見て、すんすんと鼻を鳴らす。
「……ふむ。お肉の匂いですね、それも結構な量」
「ああ、バイト先でね。あんまり置いとくと悪くなっちゃうから、今日のシチュー肉多めで作るよ」
「……困りましたね」
あまり困っていない顔でクーリエちゃんが言う。クーリエちゃんは椅子からトンと軽やかに降りると、氷属性の魔石が入った棚(ぶっちゃけ冷蔵庫)を開け、大きな袋を取り出した。袋の口を開けると同時に、室内に満ちる……肉の匂い。袋の中は肉で満ちており、てらてらと輝いた肉達は口に入れればそのまま溶けてしまいそうな柔らかさで、それらがひしめき合う光景は、さながら肉の謝肉祭といった具合だ(俺に小説家の才能はないらしい)
「今日は肉がおいしいと噂のモンスターと頻繁にエンカウントしたので、戦利品がこんなに……ギルドに提供しようとも思ったのですが、お金にするより新鮮な内に食べた方がいいと思って」
確かにギルドにモンスターの部位を提供すれば、ものにもよるがいい値段で買い取ってもらえる。ギルドはそれらを市場に流通させたり、お上に納めたりするのだ。
お金に困っていないクーリエちゃんは、度々こうして食料を調達してくれ、非常に助かっているのだが……
「肉が……」
「困りましたね」
食卓の上には肉と肉。種類は違えど、肉の山。肉々しい。どの肉もかなり新鮮であり、できるなら鮮度が落ちる前に早く食べてしまいたい。燻製にすることも考えたが、それも手間だ。なにより腹が減った。凄まじいまでの肉の量に、食欲がガンガン刺激される。シチューを作る時間さえ手間に感じてきた。早く食べたい。
ここは古来より伝わっている肉の一番おいしい食べ方……
「焼き肉にしようぜ!」
「あの、シチューは……」
「明日。もしくは明後日。とにかく今日は焼き肉な。はい決定」
「いえ、シチューです。おいしいシチューを作ってもらう為にこのお肉は剥ぎとってきたので、これは譲れません」
「焼き肉だから。つーか作るの俺だから、こと調理に限っては俺がこの家のGOD、神は言いました『焼き肉にするカミー』と」
「わたし、神殺しにも興味があるので、いいからシチューにしてください。さもなくば……」
「さもなくば? さもなくばなんだよ?」
「……」
無表情、無言で右腕をコキコキと鳴らすクーリエちゃん。このままだと俺はクーリエちゃんに昇天(性的な意味でなく)させられてしまう。
だが時に人は戦わなければならない。負けると分かっていても、抗わなければならない瞬間がある、それが今だ。
1度焼き肉ゾーンに入った俺を止めることは、誰にもできないのだ。
俺は身構えた。
「……わたしとやるつもりですか?」
戦闘のプロであるクーリエちゃんに勝負を挑むのは無謀だ。全裸で魔王城に挑むような愚かな行為(魔王が恥ずかしがり屋のウブっ子なら、その作戦はあり)だ。
ここは――
「ああ!? やれるもんならやってみろよ!」
俺は床に仰向けになって寝そべった。手は平行に開き、足も開く。その姿は漢字の『大』。このままジタバタすれば子供がお菓子を買ってくれない母親にするアレになるが、今はここまで。
この状態こそ、必勝の形! まさしくガンジースタイル! 無抵抗非暴力の構え! この構えの俺を、罪悪感なしに攻撃することができるか!? いや、できまい。理性のある生き物にはできまいよ!
……いや、もしかしたらクーリエちゃんなら平気でザックリやっちまうかも……あれミスった?
「ほ、ほらやってみろよ! 俺は無抵抗だぜ? 殺すなら殺せ! だが、その場合……シチューどころか、焼き肉も食えんと知れ。成長期の君に食事抜きなんて耐えられるのか……? さあ、どうする! どうする! やるなら痛くしないで!」
「……どれだけ焼き肉が食べたいんですか? はぁ……もういいです。分かりました、焼き肉でいいです、ほら、早く立ってください」
よし勝った! クーリエちゃんが呆れた目で見てるけど勝ちは勝ちだ。
クーリエちゃんが差し出してくれた手に捕まり、引き上がられる。
クーリエちゃんがあの細腕から考えられないほどの馬鹿力なのか、俺の体重がりんご三個分の○ティちゃんのように軽いのか――勢いあまってクーリエちゃんにぶつかり、そのまま彼女を食卓に押しつける形になった。
「……どいてください、重いです」
「悪い悪い。……ん、クーリエちゃんいい匂いがするな。風呂入った?」
クーリエちゃんからは、いつもの匂い……雨の濡れた花びらの様な匂いがした。
「いえ、まだです。エチゼンさんが帰ってなかったので」
うーん、それにしてもダンジョンから帰って来てこの匂い。汗の香りもしないし、この子どれだけ涼しい顔でダンジョン攻略しているのか。
出かける前に言っていた、怪我をするなんてありえないという言葉も、納得できる。
「……エチゼンさんは汗臭いですね」
「働く男ってのは、汗臭いもんなんだよ。勲章、そう男の汗は勲章なんだよ」
言い繕ってみるが、実際臭いのは臭いだろうし、それを指摘されるのはショックだ。その内『エチゼンさんは臭いので、一緒に洗濯物を洗わないでください』とか言われるのだろうか。
「いえ、別に嫌いな匂いではないので。……くんくん。汗の他に……これは……女性の匂い」
ただでさえ睨みつけるように細い目が、更に細くなった。
「エチゼンさん。体から女性の匂いがしますよ。わたしがアレほど言ったのに……娼館に行きましたね?」
「行ってねえし! クーリエちゃんはすぐそうやって人を娼館娼館って! そんなに娼館が好きなら娼館の子になっちゃいなさい!」
「意味の分からないことを言わないでください。……ですが、女性の匂い。それもかなり濃い匂いがします。相当接触しないとここまでの匂いは付きません。……やはり娼館に」
娼館疑いのかかる俺だが、もちろん行っていない。未だ童貞である俺だが、やっぱり最初は好きな人と添い遂げたい。
高級ホテルのレストランでホテルの鍵とか渡して……な。お酒のせいか、それとも別の何かで頬を染めている彼女の手を引いて……な。先にシャワー浴びてきて恥ずかしいから、って彼女の言葉を聞いて……な。シャワーから出たら彼女がいなくて財布からスマホから服まで全部取られて……な。
あれ!? 俺のトキメキトゥナイトどっから引っ繰り返っちゃった!?
しかし、どう誤魔化そうか。恐らくその女性の香り、ワカバちゃんのものだ。今日は普段にも増してかなり、スキンシップが多かったので服に彼女の匂いが付いてしまったのだろう。
正直に言うか……いや、俺の勘が『一つよろしいでしょうか? それはやめておいた方がいいと思いますよエチゼン君』と囁いてくるから、従うことにした。というわけで誤魔化す。
「この匂い? あーあれだ。今日満員電車でうっかり女性車両に乗っちゃってさ」
「意味の分からないことを言って誤魔化さないで下さい」
「実はこの間、街の雑貨屋で『獣耳美少女のスメル』って香水買ってさ。それをこう……シュシュっと」
「ありもしない商品の名前を出して誤魔化さないでください」
「俺、実は昔、女だったんだ。男になるって呪いがかけられた池に落ちてな……満月が近づくと少しだけ女に戻るのよ、フフッ」
「寝言は死んで下さい」
「バイト先の女の子が転びそうになって、それを抱えたからかなー」
「……む。それは……ありえそうですね。なるほど、それなら密着して匂いも付きますか」
はい論破。マジちょれーわ、14歳を騙すなんて容易きことよ。
実際そんなハプニングは無かったのだが、信用させることができた事前に意味不明な言い訳をしてハードルを下げるというこの寸法、かなり有効的だ。しかし、意味不明なことをペラペラ述べるので、頭がおかしいと思われる諸刃の剣でもある。しかし俺は既にその手の諸刃ブレードを何本も生やしたキラーマシン状態なので、もう手遅れだ。
「……ですが、故意ではないといえあまり女性に接触するのは、どうかと思います。エチゼンさんの評価は、養っているわたしに繋がります。エチゼンさんが外で女性に変なことをしたり、言ったりしたら、それは廻り回ってわたしの評価を下げることになるので。ですから外での女性への接触はできる限り避けてください」
そんなこと言われたら、外でフラグ立てたりする行為一切禁止ってことじゃねーか! 俺みたいなフツメンがフラグ建てるには、ラッキーイベントを自分から起こしていかなきゃいけないんだよ!
「いや、でも……止むに止まれぬ事情がある時もあるじゃん? 暴漢に犯されそうになってる女性を助ける為に、お姫様抱っこで逃走するとか」
「それはギルティです。その場合、エチゼンさんが代わりに犯されて下さい」
「お、おまっ、やめろ! 冗談でもやめて! もしそんな状況になった時、一瞬でも『暴漢め! かわりに俺を犯せ!』なんて選択肢浮かべたくないよ!」
「大丈夫です。もしエチゼンさんが汚れてしまっても……わたしは受け入れますから」
密着しているクーリエちゃんが俺の背中にまわしている手をギュッと握った。場面が場面ならかなりロマンティックな行動なんだけど、事前の会話が酷すぎるせいで全然萌えない。つーか腹立つデース。
「あ、つーかあれだ。だったら今この状況もギルティだろ。女の子とくっつくのダメなんだろ? それに寝る時だって、一緒に布団で寝てんじゃん。はいギルティギルティ」
俺はクーリエちゃんの『密かにスキンシップを求めている』ポイントを突いた。
クーリエちゃんは時折、非常に不器用な形で体の接触を求めてくる。エロい意味ではなく、偶然を装って抱きついてきたり手を握ってきたりするのだ。今までの人生で人との触れ合い方を学んでいないのか、そもそもそんな環境ではなかったのか。とても拙い、初めて自分以外の他人を意識した子供の様な触れ方。
彼女の過去は恐らく、それほど幸せなものではなかったと思われる。時折見せる『家族』へ対する憧れと興味。
過去に何かあったのだろうが、それはいつか、彼女の口から聞きたい。最近のスキンシップ量の増加から、かなり心を許してくれているはずだし、近いうちに彼女の過去を聞くことになるだろうから、俺も覚悟をしておくべきだな。
「いえ、わたしに関してそれは当てはまりません。なぜならわたしはエチゼンさんを養っているからです。エチゼンさんがわたしに養われ、日々の生活を過ごしていればどうしてもこういった状況になることは避けられません。一緒に暮らしている以上、これはもうしょうがありませんから。わたしはもう諦めてます。こればかりはエチゼンさんを拾ってしまったわたしへの罰のようなものです」
なるほど、例えるなら拾ったワンちゃんの小便かけられてもそれは拾った自分の責任ってわけか。
ざけんな! 誰かペットだ小娘! 俺飼われるなら年上の未亡人って決めてんだよ!
「……ですから、もし外で女性に変なこと……抱きつきたくなったり、恥ずかしいことを言いたくなったら我慢して下さい。家まで我慢して……わたしにすればいいです。わたしも我慢します。エチゼンさんに我慢を強要する以上、わたしも我慢します。これがわたしの責任ですから、しかたありません。嫌で嫌で仕方ありませんけど……他の人に迷惑をかけるくらいなら、自分が犠牲になる方はいいです」
「は?」
何を言っているんだこの子は……とクーリエちゃんの顔を見ようとするが、俺の胸に押し付けてる為、その顔を見ることができない。
ただクーリエちゃんの顔が接触している部分が、熱を持ったように熱い。
「クーリエちゃん」
「……なんですか?」
「もしかしてさっきのセリフ、かなり恥ずかしかったんじゃないか?」
「……そんなわけないでしょう。エチゼンさんは馬鹿ですか? いいから、早くご飯の用意をして下さい。わたしはとてもお腹が空いてます」
「いや、でもそうやってくっつかれたままだと、作れないんで」
「……1分、いえ……2分だけこのまま動かないで下さい」
そうして3分経ち、クーリエちゃんの顔が接触していた部位の温度もすっかり下がり、俺は夕飯を作り始めたのだった。肉には最低限の味付けしかしなかったが、それはもう極上の味であり、俺とクーリエちゃんは言葉を持たさない動物のように貪り食ったのだった。
「うぅ……またこんなに食べてしまいました。太ったせいでダンジョン攻略中に死んだら、エチゼンさんを恨みますよ……」
「その圧力かけた視線で見るのは止めてくれ……。食い過ぎでちょっと吐きそうなんだよ……そんな目で見られたら吐き気が加速する……」
「2日連続で吐いたら、速やかにエチゼンさんを殺しますよ。治療魔法をかけながら、足の先から頭のてっぺんまで少しずつ輪切りにして――」
「おぼろろぉぉぉぉっ」
あまりに残酷な殺害方法に思わず嘔吐しそうになったが、せっかく頂いた肉を無駄にしたくない想いが新しいスキル『エア嘔吐』を生み出し、俺は限りなく嘔吐に近い行為をした。でも、クーリエちゃんから見ればただの嘔吐にしか見えなかったらしく、2日連続で彼女の悲鳴が響いたのだった。
嘔吐オチなんてサイテー!
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その夜、俺は夢を見た。どこか懐かしい夢。
白いペンキをぶちまけたような真っ白な空間、平衡感覚がおかしくなりそうなその場所に、俺は立っていた。
「ここは……」
俺はここを知っている。夢を見ているようなこの感覚も、夢でしかありえないこの異常な空間を……俺は知っている。半年前にこれと同じ体験をした。半年前、俺がこの世界に来る直前の体験。
となるとここには……
「……ふわぁ。えっと、次は……あー、エチゼンさん? はいはい、エチゼンさんですねぇー、どぞどぞー。……ふあぁ、眠い眠い」
何もなかった空間に、突然普通の会社で使っているようなデスクが現れ、そのデスクと同じ色の回転椅子に座るパジャマ姿の少女が現れた。
少女は俺のことを知っている。俺も彼女のことを知っていた。
「あー……この格好はスイマセン。エチゼンさんで今日の面談は終わりなので、終わってすぐに寝ようと思って着ちゃいました。……ねむいなぁ。いや、一応言っておくと、この前の人の面談までは、ちゃんと制服着てたんですよ」
こいつは――
「制服ってアレですよ、女神の制服。あれ胸きついから嫌なんですよねぇ。サイズ更新の申請しても半年かかるって……成長期なめんなって話ですよー。ねぇ、エチゼンさんもそう思いませんか?」
自称女神の少女は眠そうな目を擦りつつ、俺に話しかけてきた。
そう、俺は半年前、この少女と出逢い……そしてあの世界に辿り着いたのだ。
半年ぶりの再会、聞きたいことは山ほどある。何故俺を無力なままあの世界に放り出したのか、あの世界で俺は何をすればいいのか。
だが、まずはやらなければならないことがある。
――そう
「――そのでかい胸でぶつかり稽古の練習でゴワス!」
俺は女神に向かって飛びかかった。
――エチゼン先生の次回作にご期待下さい!




