おっぱいを司る神様=パイオニア
――俺、エチゼンの朝は早い。
「……んん」
室内に満ちた冷えた空気が頬を撫で目を醒ます。
俺が元いた世界とこの世界では季節の経過がほぼ同じであり、この世界に来た5月から半年が経った今、季節は冬になっていた。
2人分の熱で温まった布団は恋しいが、時刻は既に5時、そろそろ朝食の準備を始めなければならない。
「今すぐイフリート系の神様がハッスルしてくれねぇかな……」
布団から出たら味わうだろう極寒を恨むように祈ってみるが、そんな非現実なことが起こるわけがない。諦めて布団から出ようとして、自分の下寝間着が引っ張られていることに気づいた。
見ると俺の脇の下に潜り込むようにして寝ていたクーリエちゃんの左手が、ズボンを握りしめていた。
改めてクーリエちゃんを見る。整った顔立ちだ。いや整い過ぎたと言ってもいいだろう。この世界がファンタジーだからか分からないが、この世界の容姿レベル(俺基準で)はかなり高い。特にクーリエちゃんは俺が元いた世界で一番可愛いと感じていた女性より、3倍は可愛いと感じる。
いつも睨みつけるようにしているせいで小さく見えるエメラルドグリーンの瞳も最高級の職人の手でカットされた宝石のように美しい、たぶん俺が収集系のサイコパスならさっくり頂戴してホルマリン漬けにして延々と眺めつつ余生を過ごすことになるだろう。
髪も迷宮という劣悪な環境にいる癖に傷んだ様子もなく、その蒼い色は彼女を示す二つ名≪氷雪姫≫に相応しい。
残念なことに顔から下については、成長途中のせいか魅力的な部分は見られず、特に胸は将来が絶望的だ。スッゴイカワイソ。
「……よしっ、絶対寒さなんかに負けないんだからっ!」
恐らく負けるだろうセリフを吐きつつ、布団から出るためにクーリエちゃんの小さなな手を引きはがす――
「……んんっ? んんんんっ?」
手首を掴んで引き離そうとするが、全く離れない。握っている拳を開かせようと拳に指をねじ込む。うんとこどっこいしょ、それでも拳は離れません。両手を使い、もう起きても構うものかと、全力で引きはがす――だが、離れない。さながらゴリラのような握――いや、女の子にゴリラはあれか。さながらワニのような食らいつき(ワニって噛む力1トンくらいあるんだよ)
「おーい、クーリエちゃん。放してくれよー」
埒が明かないので、肩を揺さぶって起こす。
「……むにゃむにゃ。ゴブリンの弱点は……心臓です。心臓を抉れば一撃ですよ、エチゼンさん……むにゃす」
クーリエちゃんの冒険者ワンポイントアドバイスは嬉しいが、多分それ人型のモンスターなら全部当てはまると思う。
どうやら起きたわけではなく、ただの寝言のようだ。毎朝のことだが、クーリエちゃんは朝に弱い。この時間だと大声を出しても起きないし、全身を揺すっても起きないだろう。なんなら顔面にパンチを入れても起きないどころか、俺の拳がおしゃかになるだろう。この起きなさを利用して一儲けできないか考えたが、金持ちのオッサンを呼び込んで悪戯させるくらいしか思いつかなかったので、俺のカルマが《悪》に傾いた時にこうご期待。
「こうなったら仕方がない」
俺は断腸の思いでズボンを脱ぎ、上半身シャツ下半身パンツのみという、可愛い女の子がしたら犯罪的なまでに萌える格好で布団から出た。可愛い少女が眠るベッド脇に佇むパンツ男を見て、すわ犯罪か!と誰かが通報しないかどうかが心配。
それにしても俺がノーパンでなくて助かった。朝から弱点を丸出し、いわゆる背水の陣なんて俺の人生に不要、俺の人生はいつだってインペリアルクロス!(寒さでちょっと頭が混乱してます)
「うごごご……寒すぎる」
ただでさえ寒い今日この頃、ズボンがない分、普段より倍は寒く感じる。寝室を出てトイレを済まし、洗面台に。蛇口を開き出てきた水龍の吐息のように冷たい(ファンタジーっぽい表現)水で顔を洗う。あまりの冷たさに小さく悲鳴をあげ、その報酬とばかりに完全に目が覚めた。
鏡に映る自分を見る。
「うーん、今日もカッコいいよ!」
小学生の頃、近所に住んでいたピノキオおやじって呼ばれていたオッサンから教えられた『毎朝自分の容姿を褒めろ。積み重ねられた自己暗示は、自らの肉体を変質させるッ!』って言葉を馬鹿正直に守っている今日この頃、ピノキオの意味を理解した今でも続けているこの行為。その結果が目の前の冴えない男、モブキャラ中のモブキャラ、アニメの学園物で机に突っ伏して寝てる奴――それが俺だ。ポジティブに考えればその自己暗示を重ねた結果が今の俺の顔であり、オッサンの教えに反していたら今より酷い顔をしていたかもしれない――そう思いつつも彼女いない歴=年齢の今日この頃。
「あの女神、顔くらいちょっとカッコよくしてくれてもバチ当たらんだろうに」
半年前、俺はこの世界に来る直前、女神と呼ばれる存在に邂逅した。その邂逅についてはいずれ語る時が来るかもしれないが、あのアマ、俺に何の特典も与えず、この世界に放り出しやがった。
いや、何か与えてくれたのかもしれないが、何の説明もなかったし、現状俺の人生を豊かにしてくれるサムシングは何もない。次に会ったら無駄にでかかったおっぱいで、ぶつかり稽古の相手になってもらうでゴワス。
「いや、待てよ? もしかしたらチート能力あるのかも……」
《鑑定》スキルを思い出す。この世界に来て最初、自分のステータスを確認しようと思ったが、結局それはできなかった。今思えば、その時は《鑑定》スキルを持っていなかったからではないか。自分へ《鑑定》スキルを発動する、それが自分のステータス方法の確認なんじゃないか?
そう思いつつ、自分に《鑑定》スキルを発動すると……ビンゴ! 俺のステータスが表示された。
名前:エチゼンクラゲ
種族:もしかして『にんげん』
レベル:どていへん
HP:せんりつするほどのひくさ
MP:ってなーに?
ちから:すぷーんおじさん
すばやさ:そうろう
まりょく:あるとおもうならそうなんだろう、おまえのなかではな
攻略難度:いろいろこじらせてるね
保有スキル:履歴書には書けないね
「おろろろろろろっっっ!!!」
やれやれ、俺は嘔吐した(しかも鏡越しにその姿をリアルタイムで見た)。嘔吐するのがここ(洗面台)で良かった……!
それほどまでにショックなステータスだったのだ。つーか、このステータス、おま、マジで……やめてくれよ。
エチゼンクラゲって俺が小学生の時のあだ名……しかもクラスの人気者が突然言い出して、追従するように他のみんなが……終いには好きだったキョウコちゃんまで呼ぶ始末……。
種族は逆に人間以外の何に見えるんだよ、と。レベル底辺って、他に言い方があるだろ。
「おのれステータス……!」
見なきゃよかった。俺は朝っぱらから非常に後悔した。だが、ポジティブに考えてみよう。スキルレベルが低いのが全ての原因なんじゃないか? レベルを上げればもっと正当な評価をされるんじゃないか? レベルが低すぎるせいでフィルターがかかってるのでは? いいや、絶対そうだ。そもそも俺早漏じゃないし、どっちかっつーと遅漏だし。
「……うん、朝食作ろう」
冷たい廊下を抜け、リビングに併設されたキッチンへ向かう。昨夜眠る前に朝食、弁当の準備だけしておいたので、軽く手を加えるだけで朝の準備はおしまいだ。
■■■
フライパンに乗せた目玉焼きとベーコンがジュウジュウと小気味いい音をあげる。
この世界に来て一番安心したのは、食糧事情についてだ。この世界、食べ物については、俺が元いた世界と殆ど変らない。文化面でかなりの違いがあるのに、食料について変わらないのはかなり不思議。
この世界、科学面はあまり発達していないが、そこを魔法で補うというか、発達した魔法は科学と変わらないというか、普通に科学の産物系の食事もあったりする。正直この世界に来たとき、くっそ固いパンとか豆だけのスープを主食にする覚悟はしていたのだが、拍子抜けしたほどだ。
こんがりと焼き色を付けた食パンに、バイト先でおすそ分けしてもらったイチゴジャムをたっぷり塗る。こうして朝食を作っていると、ふと元の世界のことを思い出す。
元の世界で、ウチの両親はかなりの多忙であり、俺が中学に入る頃には朝食と弁当を作るのは俺の仕事になっていた。といっても、朝昼を外で済ます両親の分は必要なく、俺と3つ下の妹の分だけでよかったのだが。
妹はパンケーキが好きでよく俺にねだっていた。誕生日にテレビで見たフルーツとクリームがたっぷり乗ったパンケーキを作った時には、こいつ頭おかしいんじゃね?と思うほど賢明に貪り食っていた。
家族は元気だろうか。両親はいいとして、色々と抜けているところがあった妹のことは少し心配だ。まぁ、容姿は整っていた(というか兄の贔屓目に見ても世界で一番可愛いと思う)し、周りから愛される術に長けていたし、上手い事やっているかもしれない。
「あ、やっべ」
妹のことを思い出したせいか、無意識の内にパンケーキをこしらえてしまっていた。
「食パンとパンケーキでパンが被ってしまったぞ……」
まあいいか。全部クーリエちゃんが食うだろ、成長期だし。
(ある意味)破壊と再生を司る食卓に皿を並べ、調理した朝食を載せていく。
空いた時間でスキルの練習をしていたら、リビングの扉が開いて、クーリエちゃんが入ってきた。
「……ごはんですか?」
右手で眠そうな目を擦り、左手で俺から剥ぎ取ったズボンを持つクーリエちゃん。まだ覚醒していないのか、今装備している『使い古した大きめのシャツ』がずれて胸が際どいところまで見えているのも、『使い古した大きめのズボン』がこれまたずれて下着が見えているのも気づいていない。
「先に顔洗っておいで」
「……みずが冷たいからいやです」
「目ヤニ付いてるぞ」
「とってください」
寝起きのクーリエちゃんは年相応の……というか年齢より幼い姿を見せる。この姿をムービーで撮って昼間に見せたらどんな反応をするんだろうか。俺の悪戯心がむくむくと頭角を現してきたが、もし見せて『こんなのわたしじゃない!』ってぺ〇ソナみたいな展開になったら困るので自重。
渋るクーリエちゃんの手を引き洗面台へ連れて行く。うつらうつらと頭を揺らすクーリエちゃんの顔にぶっかけ(水を)、水も滴るいい女状態で睨みつけてくる彼女から逃げるようにリビングへ向かった。
少し間を置いてタオルで顔を拭いながらクーリエちゃんが現れる。
「おはようございます、エチゼンさん」
すっかりいつもの冷たい表情のクーリエちゃんだった。
「おはよう、クーリエちゃん」
「はい。ところで……朝から何て格好をしているんですか? 正気ですか? それとも趣味なんですか?」
無表情の中に『ドン引き』を浮かべ、俺の格好……パンツの上にエプロンのみ、いわゆるパンツエプロン状態の俺を指すクーリエちゃん。シャツ? ゲロった時に汚れたから洗濯中!
「趣味じゃねーよ。まあ、俺は気にしないから、座りなよ」
「……いえ、どう考えてもわたしが気にするんですが。朝からそんな物見せられて食欲が――」
クーリエちゃんの視線が食卓の上に。
瞬間『くぅー』と可愛らしい音がクーリエちゃんの腹部から響いた。
「……エチゼンさんを視界に納めなければ問題ないですね」
頬を染めつつ、食卓に着く。クーリエちゃんが座るのを見てから、俺も正面に座った。
どちらが言い出すわけでもなく、同じタイミングで手を合わせる。
「「いただきます」」
■■■
パンケーキを2枚平げたところで、クーリエちゃんが口を開いた。
「あの、エチゼンさん」
「よし、おかわりか。ほれパンケーキ追加!」
「あ、どうも。……いえ、そうではなく、ちょっと朝から食べるにしては、量が多いのでは?」
食卓の上には、確かに2人で食べるにしては多すぎる量の朝食が並んでいた。
追加されたパンケーキをペロリと食べつつあるクーリエちゃんを見ながら言った。
「いや、クーリエちゃんは成長期だからもっと食べた方がいい。食べないと大きくなれないぞ?」
「いえ、わたしは回避重視の《忍者》職なので、あまり体が大きくなると困ります」
「HAHAHA!」
「なにを笑ってるんですか?」
「え? 今のファンタジー系特有のジョークじゃないの?」
「違います」
なんだ、結構面白かったのに。パクって『へい、お前さんのワイフ、職業変える予定なのかい?』『いや、アサシンから変える予定はないぜ』『なんだって? それなのにあんなにぶくぶく太って……てっきりオークにでも変えるつもりなのかと思ったよ』『HAHAHA! そりゃいい! つーことは俺は異種姦マニアってわけか!』『業が深いなHAHAHA!』『ま、ガキが出来たんだけどな』『だと思ったぜ。ほれ、さっさと帰りな。今頃俺が送った祝いと品がわんさか届いてお前のワイフがヒーヒー言ってる頃だぜ』『HAHAHA! おまえってやつは……ユーアーベストフレンド!』『アーハーン?』みたいな感じで。
「ま、いいから食え。迷宮でバカみたいにカロリー消費するんだから、そう簡単に太らんだろ」
「それはまあ、そうですけど」
こういう俺の地道な活動(とにかく食わせる)が功を奏し、クーリエちゃんの体にはかなり肉が付いた。太ったというわけではなく、平均的な体型に戻っただけだが。
初めて会った頃の彼女は、それはもう無駄な肉は全てゴミの日に出したと言わんばかりの体つきで、見るところ見るところ骨が浮きまくっていた。料理もできないからか食事もまともに取らず、ただ栄養を補給するためだけに食事を口にしていた始末。今では抱きしめるといい感じに気持ちいい肉付き。
こうして俺のクーリエ・アルシエル育成計画は着々と進みつつあるのだが、問題もある。
「牛乳も飲むんだ」
「……牛乳は苦手です」
「いいから飲め。とにかく飲め。飲んで飲んで飲みまくるんだ」
体型的には成長要素込みでいい具合に仕上がってきたが、胸だけはどうにも成長する気配がない。こうして牛乳を摂取させてはいるが、パラメーターの変化も見られない。もっと努力値を……孵化を繰り返して厳選を……いかんいかん、ゲーム脳落ち着け。
こうなったら異性が揉むとホルモンがどうとかで大きくなるという、あの都市伝説を信じて実行してみるか……? だが、いきなり胸揉ませろって言っても変態扱いされるだけだ。ここは地道に、その都市伝説を噂として広めるか……。
「ごちそうさまでした」
俺がクーリエちゃんファームの構想を練っていると、気づけば食卓上の朝食はすっかり綺麗さっぱりなくなっていた。
「お、全部食べたか。えらいえらい」
「残すともったいないので」
一緒に皿を片付け、キッチンに持っていく。皿を洗い終えた後、食後の紅茶を飲みつつ、まったりする。
猫舌のせいか、紅茶に対して過剰に息を吹きかけるクーリエちゃんが言った。
「今日もギルドに行くつもりですか?」
「あー、まあね。一応募集に誰か釣られてないか確認だけな」
「釣られ……まあいいです。好きにしてください。わたしはエチゼンさんが自分の義務を果たしてくれたら、何も言いません」
義務とは、俺がこの家で行わなければならない仕事のことだ。仕事といっても、掃除や洗濯、料理といった家事のことである。あと最近になって『職場で恋愛系の話はしない』『夜は一緒に寝る』『寝る前にお話をする』などと追加されているのだが、まあ許容範囲だ。
「さて、そろそろ出るか。クーリエちゃんはどうする?」
「わたしもそろそろ出ます。今日は鍛冶屋に寄ってから迷宮に向かうので」
基本的に休日以外の俺とクーリエちゃんは、この時間から別行動をとる。俺はバイトへ、クーリエちゃんは迷宮攻略へ。
クーリエちゃんに弁当を渡し、2人で家を出るといったところで
「ああ、忘れてました」
とクーリエちゃんは部屋を出ていき、1分も経たずに戻ってきた。その手にはパンパンに膨らんだ布袋。
「これが今週分の報酬です」
そう言って袋をドスンと食卓に乗せる。開いた袋の中には、金貨や宝石が溢れんばかりに詰め込まれている。
これがクーリエちゃんが冒険者として貰っている給料だ。魔物から得た魔石を換金、レアな素材を換金、迷宮未踏破部の探索報酬、突然変異した新種の魔物の討伐、その他色々。迷宮の最深部で活動しているクーリエちゃんは恐ろしいほどの高給取りだ。つーか取り過ぎ。これだけで1年は豪遊して過ごせちゃう。こんなもの毎週見てたら、俺、金銭感覚がバカになっちゃうのおぉぉぉ!
俺は震える手でそれを受け取り、生活する上で必要な経費を分けようとした。
「……はい。じゃあまずこの中から家賃と食材費を――」
「いいです。全部エチゼンさんに任せます。どうせわたしは、そこまでお金を使いませんし」
そう言って適当に金貨を握ってぽっけに詰め込むクーリエさん。マジ男前。
「好きに使って下さい。……当然ですが、娼館なんかに使ったら……分かってますね?」
分からん。分からんが、多分アレがアレして、エチゼン子になってしまう可能性がある。アレを一度も使用していないのに、そうなるのはちょっとごめんだ。
報酬を金庫に納め、2人で家の外へ。今日も異世界の空は青く、太陽がキラキラ輝いていた。
「では、行ってきます、エチゼンさん」
「ん、行ってらっしゃい。怪我はしないようにね」
いつも無傷で帰ってくるクーリエちゃんだが、もしかしてということもある。いつか、俺が家で待っていても、クーリエちゃんが永遠に帰ってこない、そんな日が来るかもしれない、そんなことを考えてしまう。
「怪我はしませんよ。《忍者》職のわたしが怪我をした時、それは死を意味しますから」
装甲なんてない、極限まで薄くした軽装をした彼女は言った。たった一人で迷宮最深部に挑む彼女にとって、深部に潜む高レベルの魔物の一撃は死を意味する。文字通り死と隣合わせ。『死』という糸の上を歩く、命がけの綱渡り。
いつも通り無表情で言う彼女の言葉に、俺は何も言えないでいた。
「……」
「……あれ? どうしました? 面白くありませんでしたか?」
「え?」
「いえ、ですから。冗談を言ってみたんですけど。……初めての冗談ですが、つまらなかったでしょうか?」
「えー」
「いや、わたしが怪我をするはずなんてないじゃないですか。だから、死ぬはずなんてない、という冗談なんですけど」
首を傾げつつ、ジョークの解説をするクーリエちゃん。笑えねー。
「いやいや。怪我しないなんて言い切れないだろ。運が悪けりゃいつだって……」
「わたし運もいいので。とにかく、わたしは怪我なんてしません。絶対に。ですからそんな心配は不要です」
念を押すように言ってくる。どうやら俺の心配を見透かしていたようだ。
「それにわたしが死んだら、誰がエチゼンさんを養うんですか?」
冗談めかして……あ、いやこれマジで言ってるわ。
「そろそろ行きます。あ、今日の夕食はクリームシチューが食べたいです」
そう言ってクーリエちゃんは街の雑踏に消えた。
俺は祈った。いるかもしれない神様に。どうかあの少女が怪我なく帰ってきますように、と。
ついでにおっぱいを司る神様に、彼女のおっぱいが少しでも大きくなるように祈りつつ、バイト先へ向かった。