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変態と呼ばれた日

 ――翌朝。


 今日はクーリエちゃんとのお出かけの日である。それも初めての。

 今朝はいつも通り、朝食を食べて出かける準備をしていると、朝食を食べて部屋に篭もったクーリエちゃんがなかなか出てこない。

 暫く部屋の前で待っていると


「先に外で待っていてください」


 と言われたので、言われた通り、家の外に出て待つ。

 出かける準備に時間をかけるなんて……クーリエちゃんもやっぱり女の子なんだな。

 俺は心の中で勝手に『戦闘民族』って称号をつけていたことを素直に謝った。


 さて、お出かけに時間をかけるということは、さぞオシャレをしてくるのだろう。

 クーリエちゃんのオシャレ……楽しみだ。

 もしかしたら、慣れない化粧なんかもしているのかもしれない。

 まだまだ幼い少女が大人ぶって化粧とかしちゃう系のジャンル俺、好き!(どんなジャンルだよ)


 かくいう俺も、クーリエちゃんとのお出かけということで、彼女に恥をかかせない程度のオシャレはしてきた。

 今日来ているのは前にたまたま寄った雑貨屋でティンときて衝動的に購入した――黒のロングコート。

 首元を覆う白いファーが漆黒のコートを際立たせる。

 背中には逆十字アンチクロスの意匠が施され、滅茶苦茶クールだ。

 ただカッコイイだけじゃない。

 何とコートの内側に28ものポケットが付いているのだ。超便利!

 そんなカッコよさとコンビニエンスを両立させたとっておきのファッションは――今日が初お披露目だ。

 このオシャレコートを見たクーリエちゃんの反応が、今から楽しみ。


「それにしても遅いな……」


 俺が家を出てから、かれこれ20分は経過した。

 暇つぶしがてらに進めた、俺の脳内ストーリー『eternal tactical zone』が一気に3話も進んでしまった。

 全回で敵幹部『悪魔男爵』の異能である女性化ビームを食らった主人公の刹那が女性化してしまい、遂に生理現象に襲われトイレに行くハメに。さあ、女性になって初めてトイレに行く刹那の運命やいかに! うおおおお! 早く! 次回『え!? 座るって……どういうこと!?』の執筆を――


「――お待たせしました」


 脳内で4話目を執筆しかけた俺にストップをかけたのは、クーリエちゃんの声だった。

 残念だが次話の更新は、まだ先になりそうだ。


 振り返ってクーリエちゃんを見る。


 そこには、お出かけ用にふんだんにオシャレをしたクーリエちゃんが――


「では行きましょうか」


 ――いなかった。

 

 いつものノーマルクーリエちゃんだった。

 ノーマルクーリエちゃんとはつまり、いつも通りのクーリエちゃん。

 お仕事に向かうときの格好――つまりは戦闘服だ。

 やたら生地が薄くて、ところどころ風通しが良さそうな暗殺者スタイル。

 

「え……なにその格好……」


「はい? ……どこか変ですか?」


「いや、変っていうか……普通じゃん! いつもの格好じゃんか!」


 俺がそう言うと、クーリエちゃんは『何だ言ってんだコイツ……』みたいな顔で俺を見てきた。


「普通の格好で何か問題でも?」


「お出かけファッションは!? こう……いつもとギャップがあって俺をキュンってさせる、いいとこのお嬢様みたいなフリフリしたドレスは!? もしくは木陰で本とか読んでそうな麦わらワンピースの深窓の令嬢ちゃまはどこ!?」


「ごめんなさい、エチゼンさんが何を言っているか、全く分かりません」


 勝手に期待して勝手に愕然としている俺が悪いのは分かる。

 でもさぁ! この格好はねーよ!

 『今からちょっと皇帝暗殺してきますねー』みたいなこの格好はねーよ!

 俺今からこの格好の子と肩並べて歩かないといけないの!?


「せめて! せめて他の格好をしてくれないかな!?」


「他の……ですか? 他といっても、わたしこれ以外には……パジャマしか持ってないんですけど」


「マジで?」


 言われてみれば……我が家の家事は俺が全部担っているわけで……。

 つまりはお洗濯、そしてその洗濯物を収納するのも俺の仕事なわけで……。

 クーリエちゃんの箪笥は、今着ている戦闘服がズラっと並んでいるわけで……。

 よく考えると、それ以外のパジャマ以外の服を見た記憶がないわけで……。


「え、マジで他に服ないの? 実は俺が知らない床下とか屋根裏に秘密のクローゼットがあって、そこにフリフリしたかわゆいドレスがいっぱいあったり……」


「ないです」


 ピシャリと言い放たれた。

 

 どうやらマジで、お出かけ用どころか、お仕事用の服しか持って居ないらしい。

 とりあえず今日最初に行く店は服屋に決定だな。


 ん? 服に時間をかけたわけじゃないなら、どうしてこんなに支度に時間がかかったんだ?

 そう聞くと


「武装の選択に少し手間取りました。できるだけコンパクトな物を選んで、身につけていたら思いのほか時間がかかって……」


 そう言って、短いスカートをヒラリと捲り上げた。

 露になった太ももには投擲用らしき小さなナイフが太ももを覆うようにして、身につけられていた。

 おっ、前見た時は枯れ枝みたいに細い太ももだったけと、いい感じに健康的なお肉が……って違う!


「ノーウェポン! ノーアサシン! 今日は遊びに行くんだよ? 武器はいらねーよ!」


「……ですが、突然ダンジョンから魔物が偶然逃げ出す可能性も……」


「あるの!?」


 そんな可能性があるんだったら、俺も普段から武装しなきゃいけなくなる。


「まあ……恐らくはないですけど。一応念のため……それに、何か刃物を装備していないと、何だか落ち着かなくて……」


 とかちょっと照れながら言うクーリエちゃんは可愛いけど、発言の物騒さが完全に可愛さを相殺していた。

 武器持ってないと落ち着かないとか……最早病気だよそれ。いわゆる職業病ってやつか? 極まった社畜サラリーマンはいつ会社に呼び出されてもいいように、スーツを着て寝るって聞いた

ことがあるけど……クーリエちゃんもその領域に行っちゃってるのか?


「と、とりえあず武器は家に……ん?」


 ――ふと、視線を感じた。


 辺りを見渡すと、すぐ近く、お隣さんの家の扉が少しだけ開いていて、そこから視線を感じた。

 この好奇心に溢れた視線は――間違いなくヤツだ。

 ヤツとはつまりアイツのことであり、ある意味俺の天敵とも呼べるあの少女だ。

  

 だが、見られて困ることはない……そう思い堂々としていたが、よく考えると今、クーリエちゃんはスカートを捲し上げて俺に見せ付けているわけで、これって世間的にはかなりヤバイ光景じゃなーい?


「わああああい!? ダウン! クーリエちゃんスカートダウン!」


「ちょっ、なんですか……! こ、こんな人の目があるところで、どこ触ってるんですか!」


 慌ててクーリエちゃんのスカートを下ろそうとするが、勘違いしたクーリエちゃんが抵抗をしてくる。

 

「いいから! スカート下ろして!」


「は、はぁ!? 嫌です! 何を考えているんですか! ばか!」


 スカートを下げようとする俺と必死で抵抗するクーリエちゃん。

 そうこうしているウチに、騒ぎを聞きつけた近所のマダム達が、ワラワラと家から出てきて、遠巻きにこちらを囲み始めた。

 マダム達の言葉に


 『朝から痴漢……』


 『変態……』


 『警備隊……』


 『オレもされたい……』


 といった言葉が混じり始めたので、俺は明日からのご近所付き合いを悲観しつつ、できるだけ正体を隠そうと顔を右手で顔を隠した。

 そして左手でクーリエちゃんの手を掴み、マダム包囲網に向かって走った。


「あっ、ちょっと……エチゼンさん! ……もう」


 先ほどまで馬鹿みたいな力で抵抗していたとは思えないほど、簡単に手を引かれてくれるクーリエちゃんに感謝しつつ、一番包囲が薄そうな場所を見定めて、マダム包囲網を何とか突っ切った。


「くそっ……明日からどうすればいいんだ……!」


 ああ……近所では心優しくて人付き合いのいい好青年で通ってたのに……。

 今朝だけで少女のスカートをずり下ろそうとする変態になっちゃったよ……。

 万物は流転するっていうけど、ちょっと流転しすぎじゃね?

 こうなったら、実は俺には双子の兄がいて、その兄が今朝の奇行に及んだことにしよう。

 その場合『朝から少女のスカートをずり下ろす変態兄』を持つ弟いうレッテルを貼られるわけだが……近所付き合いを続ける為だ。仕方ない。

 ご近所からハブられちゃうと大変だからな。回覧板とか回してもらえなくなるし。


 俺はクーリエちゃんの手を引きつつ、変態趣味の兄の詳細な設定を考えながら、商店街に向かった。




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