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公募ガイド「小説虎の穴」 第22回 『UBASTE』

作者: あべせつ

第22回課題

近未来小説(近い将来、世の中きっとこうなるだろうと予測した説得力ある小説)



『UBASUTE』           あべ せつ


21××年。地球の人口はついに、その許容量を突破した。

二十一世紀半ばより人口の爆発的な増加にともなう様々な弊害(たとえば食糧や領土やエネルギー資源の不足など)が懸念されつつも各国ともに問題を先送りにし、具体的な産児制限対策を取らなかった。いや、むしろ戦乱や貧困や高齢化や宗教的理由などにより、対策を取ることができなかったのである。

人口の減少は国力を弱める。特に新しい世代の出生率を低めれば、民族としての血が絶えることに繋がってしまう。

さらには人命尊重の風潮が、各国の首脳陣やマスコミの口を閉じさせていた。

産めよ、増やせよ、地に満てよ。

そうして現在、地球上のありとあらゆる土地は開発し尽くされ、地上に地下にと可能な限り伸ばし掘り下げビルを建てたが、到底間に合わず、山々を切り崩し湖や池はおろか海の80%までが埋め立てられる惨事になっていた。

地球連合は科学を駆使して食糧の生産や、空気や海水から真水を作る技術をフル稼働させてなんとか人命を維持してきたが

自然を破壊しつくした報いで、今はもう残り少なくなった海水や空気は、人類全体を支えきれるほどの残存量は維持できなくなっていた。あと何年もせず、人類は酸欠か渇水で絶滅することが目に見えてきた。

こうなって始めて、地球連合は70才以上の高齢者の死刑制度を導入した。地球人口の7割に達した高齢者に後進への道を譲ってもらおうという法律である。

・・・・・・

導入から半年後。地下15階の一室。

タツヤは鍵を開けて真っ暗な部屋の中へ入った。

『おじいちゃん、おじいちゃん、どこ?』

闇の中に人の動く気配がした。

『タツヤか』

『おじいちゃん、ご飯持ってきたよ』

少年は国から支給された「乾パン」とあだ名される総合栄養食と水を、その人影に渡した。

『タツヤの分はどうした』

『うん、お腹空いたから先に食べちゃったよ』

そう言い終わらない内に少年の腹が鳴った。

『一緒に食べよう』その人影が言った。

少年はソファーの陰に隠れて座る祖父の真横に行き、正座をした。「乾パン」は小さく一人分にも満たない。老人はそれをほんの少しだけ千切って口に入れ、残りを丸々全部、少年に渡した。

『おじいちゃん?』

『タツヤ、おじいちゃんはここでじっと座っているだけだからお腹は空かないんだよ。お前は成長期なんだから、しっかり食べなさい』

漆黒の闇の中、祖父の慈愛に満ちた声が響いた。少年が夢中で乾パンを頬張る気配を感じながら、老人はあの時の騒乱を思い返していた。

死刑制度が導入されたとき、世界中はパニックになった。

ある者は海外逃亡をしようとし、 ある者は隠れ、ある者は戸籍を金で書きかえようとしたが、すべて無駄に終わった。

一国だけの措置ではなく地球連合の取り決めだから、世界中どこにも逃げ場はなかったのである。

食糧と水は国からの配給制となり、六十九才以下の人数分しか配られて来なくなった。若い家族のいない老人たちには回って来ないし、仮に家族がいても、成長期の孫たちのギリギリの食糧を取り上げることになる祖父母たちは、自宅から出て『山』へ向かった。むろん現代においては山などは存在していない。当のむかしに切り開いて平地になってしまった。

山とは各々の地区で一番高い高層ビルのことを差していた。

そこに「国の機関」が作られていた。

むかしむかしの日本でも飢饉の時に老人を山へ捨てたという伝説があった。その『うばすて山』からの連想なのであろう。

自ら山へ行けば、国から褒賞が出る。残された家族に割増しされた食糧が配給されるのだ。家族想いの老人たちは皆、覚悟を決めて山に向かった。地球連合は死神を向かわせなくとも、自主的に老人たちが山に来るように仕向けたのであった。


『俺もそろそろ覚悟を決めねばならんな』

少年の祖父も二週間前に七十を超えた。

誕生日を迎えると同時に食糧の配給が止まった。

本来であればすぐにも山へ行かねばならないのであるが少年には両親がいない。天涯孤独にさせる不憫さに今まで隠れていたのであるが、もうそろそろ限界が見えてきた。

誕生日から1ヶ月以内に山へ行けば褒賞が孫に残される。これ以上がんばっても、こんな一室の闇の中に息を潜めているだけじゃあ、生きているとは言えない。何より孫が痩せていくのを見るのはつらい。タツヤは賢い子だ。地球連合も子供たちは宝として大事にしてくれるらしい。それなら、なんとか生きて行くだろう。

横で眠る少年を起こさぬようにと老人は静かに立ち上がった。      


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