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監査

作者: さきら天悟

「再来週、監査がある。来週からちゃんとした手順でやるからな」

主任の男は5人の部下に宣言した。

正社員の男2人と契約社員の男2人、女1人に。


「松本、カギの管理とちゃんとしろよ」

主任は20代後半の契約社員の男に言った。

松本は顔をしかめてから、「はい」と返事をした。

他部署から預かった重要な書類を保管する方法のことだった。

書類のファイルはキャビネットでカギをかけて保管しなければならない。

ここまでは当然のことだろう。

しかし、そのカギを使うごとに台帳に記録するのが正式なルールだった。

そのファイルは全員が使用し、一日何度も閲覧しなければならなかった。

面倒な作業であるため、今はその日の最後に使用した人が台帳に記入していた。

一番ファイルを多く使用する松本に注意したのだった。



朝礼が終わり、それぞれが仕事に取り掛かった。

はあ~、松本がため息をつく。

「面倒くせいなあ~」

後輩の三矢に話しかける。

「昼飯、食えないですね~」

今でさえ忙しく、週1、2度、昼食を取れない時がある。

もちろん、正式の手順はカギの管理だけでなく、いろいろと沢山ある。

二人は同時にため息をついた。

「なぜ、社員が昼飯を食えないことが監査で引っかからないか不思議だよな~」

「本当ですね」

松本の意見に三矢は同意した。

「でも」

三矢は何か思い出した。少し顔が晴れやかになった。

「あいつらにも監査が入りますよ。厳しくやって欲しいですね」

「そうだな。やつらも困るといい」

と松本が言うと、三矢はニヤリとした。



「お前ら、ちゃんと監査しているのか?」

監査部に対する監査が始まった。

「指摘した問題の件数が少ないじゃないか。何を見ているんだ?」

監査部の部長は監査が終わるまで、取締役たちの前で直立不動になっていた。



部長は監査部に戻ると、部員たちに言った。

「確実に指摘できる項目を洗い出せ。

もっと細かい手順を守らせろ。

来年は今年の3倍の件数にしろ」

「ハイ」と部員らは大きな返事をした。



はあ~、三矢はため息をついた。

すると、後輩の安田もため息をついた。

「今年は大変だった、去年の方が楽だった」

三矢は、年上であるが後輩の安田に話しかけた。

先輩の松本はさらに過酷になった仕事に不満を漏らし、

半年前に会社を辞めていた。

「来週、あいつらにも監査が入りますね。いい気味だ」

と言うと、安田はニヤリとした。


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