表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

旧友はバカである。


はぁ・・・・


古寺前。


俺は師匠のいる古寺へと足を運んでいた。


理由は言うまでもなく痣のことだ。



いつものように人っ子一人いない寺の庭を通り抜け

ちょっぴり冷たい戸に手をかけた。



この向こうにはきっと師匠はいる。


その時、俺はどんな顔をすればいいのだろうか?


師匠は一体、どんな顔をするのだろうか。



考えるだけ余計にいろんなことが絡み合い

すべてまとめて悪い方へ引きずって行ってしまう。



だからもう考えるのはやめだ。


考えるな!感じろ!

ってどっかの誰かも言っていた。



よし。行くか。



俺は力を指先に込めて戸を左へと動かす。

ガラガラガラ~



いつものように重たい戸は開けた。



部屋の暗さに目が慣れるまで数秒。



そこにいたのは師匠だった。


花瓶を片手に廊下で目を丸くして立っていた。



一瞬、昨日の返り血を受けた師匠の顔とダブって体が固まる。

静かに笑っていた師匠に


やっぱりあれは現実。


血も男も何もかも


夢だとどんなに良かったことか、嘘ならどんなに良かったことか


だけどすべては本物。


どけど・・・やっぱり



「師匠、おはようございます!」


精一杯の笑顔で笑って言った。



どんな師匠も師匠に変わらない

ただ、その場所が違うだけ


俺には師匠のところ以外に今は居られる場所はないのだから



それが予想外だったのか師匠は少し言葉を選んでいるような間を開けて


「お、おはよう・・・じゃな。政治」


いつもと同じとは言わないが昨日よりは優しく師匠も笑ってくれた。



よっかた。

いつもとはちょっと違うけど師匠だ。



「師匠。実はですね・・・」


俺はこの後、あの庭の見える客間で師匠に夢のことと傷のこと、これからのことをすべて話した。


昨日の白奈という男の素性など気にならないと言ったら嘘になる。

だけどその時の俺はそれほど重大なことだとは思わずに



ただ、白奈というやつがいて昨日、師匠に殺された。



それだけの事実だけで十分だと思える自分に正直、驚いたぐらいだ。




「そうか。夢がのう・・・」


師匠は俺の腕にある薄い痣をまじまじと見つめる。


「呪い・・・とかですかね?」


怖いな。

だっていだもの。


「いや、あの場であやつに人を呪うことはできんよ」


「そうですか!よっかた」


緊張が一気に切れた。


「なんじゃそんなに心配じゃぁったのか?そもそも呪いとはそんな速達にできんもんじゃよ」


ちゃぶ台の上のお茶を手にする。


「睨んだだけで呪いとかできないだ」


「まぁわしもそっちはわからんが・・・呪いとはちゃんとした儀式とそれそうの代償が必要なんじゃ。それに『人を呪わば穴二つ』。呪いなんかするもんじゃない」



『人を呪わば穴二つ』


聞いたことあったな。


人を呪うんだったら返り討ちを考えて自分の墓穴も掘る。

だから穴が二つ必要だっけ?



「じゃあ。この痣は・・・?」


「ん~。見たところ外傷じゃないのう。中からじゃ。多分、邪気にでも当てられたのだな」


「邪鬼?鬼ですか?」


師匠は笑った。


あ、いつもと同じ笑顔だ。


「漢字が違うわい。鬼は気持ちの気じゃ。邪気とは・・・まぁ悪い気持ちじゃな。悪意のある気。あまり体にはよくない」


「それでこんなことに・・・?」


「いや、それと心の負担。多分、思い込みにおぬしの力も加わってこうなったのじゃな」


具現化・・・


師匠の話していた力によって現実化するもの



あれ?

「力?」


俺にそんなファンタジーな力が身に着いた思えはないのだが


「そうじゃ・・・。お前は強くなったのじゃ。力が強まっておる」


いい知らせなのか・・・

いや。これは嫌な知らせと取っておこう。


「まぁ生活は今までとそんなには変わりない物にできるはずじゃぞ」


「それは・・・よかったのかな?」



俺は服を整えた。


まぁ特に変わりないのならばいいか。



ふと見た外ではもう蝉は鳴かなくなっていた。


つい昨日まではあんなに忙しく鳴いていたというのにやめる時は呆気ないという程にすっきりと止んだ。



「政治よ・・・なぜ、戻ってきたのじゃ」


不意に声を掛けた師匠は客間から庭が見える。


そこにある庭は昨日の惨劇がなかったかのように静かにそこにあった。


血痕もなく何もなく静かすぎるぐらいに



「それは・・・わかりません」


「そうか・・・。よかったよ。おぬしが戻ってきてくれて。」


師匠は遠くを見ていた。


自分の中ではここに来る前に出ていた答えを語るにはあまりにも師匠は堂々としていて語るに語れない。



こんな小さな覚悟など、師匠にとっては笑い話なのだろうか。


師匠は何の躊躇もなくあの男を殺した。


一体それはどんなに多くの物を背負ってどんなに固い覚悟や厳しい選択をしてくればなれるのだろうか。



今の俺には全くわからない。


「師匠・・・」



「そうじゃ。思い出したわい」



そういうと師匠は立ち上がって客間を出て行った。


きっとそれは俺の意を師匠が読んでのことだろう。



もう暑さもなくなってきたな。


そう庭を見ながら思う。



あ。


池の近くに小さな土の山とその上に刀が一振り挿してあった。



あの男の墓であろうか。


もしそうであったのならここで静かに眠ってほしい。



また夢にでも出てこられたらたまらない。


俺はそんな庭に両手を合わせ一礼をした。



そういえば・・・昔はよくこの庭で遊んだっけな。



急に蘇ってくる昔の記憶。


あの頃は一人で家にいるのもつまらなくて師匠と二人で・・・



あれ?


なにか昔。

そこにはあと一人誰かいたような。


他に誰か・・・



浅比ではない。

ましては琴音が来るはずはない。


「政治よ」


そこには師匠が長い木箱と大きな木箱を持っていた。


まぁいっか。


どうせ大した昔の思い出ではないだろうし



「師匠。それは浦島太郎みたいにどっちか選べってですか~?」


俺は笑った。


今はこれが俺の日常なんだから。


多少のことはあったがこれが俺の人生だ。



「いや。今回はおぬしに両方ともやろう」


そういって師匠は俺の前に二つの木箱を置いた。


俺は気になって近くへとすり寄る。


「まずはこれじゃ」


師匠は大きい方の木箱を開けた。


一瞬、ふたの板についた埃が辺りに薄く飛ぶ。


中には古臭い本が何冊かと何か意味不明な文字が書かれた札などが入っていた。



「な、なんですか?これ」


「単なるお守りじゃ」


師匠は笑いながら長い方の木箱をとった。



今の師匠の意図が全く読めん。


いつもなら少しはわかるものなのに


「そっちは杖でも入ってるんですか?」


俺も笑いながら言った。


「これは杖よりももっといい物じゃよ・・・」



刀だ。




師匠がゆっくりと開けた長い木箱には一振りの刀が綿と共に入っていた。



全体的に黒い鞘と、鍔と柄には赤い模様が入っていて所々に金の装飾品が施されている。


いかにも高そうなものだ。



「模擬刀じゃないんですよね?」


「いいや。ちゃんとした刀じゃ。名を・・・何と言ったかのう?業火斬・・・いや邪鬼牙?」


なんだか中二病くさい名前だな・・・


それとも本当にそういう物なのか?

そしたら何かの名刀だな。


だけど・・・


今の師匠を見る限りにわからない。


「まぁ刀ですね」


「そうじゃの。刀じゃ。おぬしにやろうこの刀とお守りを」


そういって古臭い木箱に綿と共に刀を戻した。


「またなんでですか~。その心が知りたいですよ師匠!」


師匠は少し首を捻った。


「ん~。おぬしを信じとるからじゃな。できればお前にはかかわってほしくはないが・・・」


少し本題に師匠は触れた。

「かかわってほしくない・・・。それって師匠の言った『こっちの世界』ですか?」


そういうと突然、師匠は俺の頭をぐちゃぐちゃに撫でた。


その手は大きく、昔はよくつぶされてしまうかと思ったものだ。


「師匠~。誤魔化さないで下さいよー」


「わしが言ったのは・・・きっとその刀をおぬしが抜かなければわかることぞ」


「師匠・・・?」


「あれ?おぬし今日は勉学をする日ではなかったか?もう昼になるぞ」



やっぱり気づいたか・・・


「はい、はい、行けばいいんでしょ~」


今日は平日。


健全な高校生は学校に行っている時間だ。



「その通りじゃよ。刀はここに置いていくから後で取りに来なさい。」



師匠はこういうとこに厳しんだよな~


一日ぐらい休ませろっての!



「じゃあ。また後で来ます!」


俺はすぐに立ち上がって客間を出た。




そして廊下を抜けて靴を履きかえて玄関に手をかけた。



すると


「そうじゃ。政治。おぬしがまたわしの様な老いぼれの元に帰ってきてくれてたこと・・・ありがとうなぁ・・・」



客間の方から師匠の声がした。


顔は見えない。



だけど多分、師匠は泣いていた。



そんな気がする。



帰ってきてくれて?

当たり前ですよ!


だって俺の居場所はここなんですから。



そう心に呟いて



俺は少し弱い昼の日差しを浴びながら玄関を開けて飛び出した。






古寺の長い石段を下って日陰の多い小道をゆっくりと歩いた。


もうこんな時間じゃ、どう頑張ったって遅刻だ。


だったら俺は楽して遅刻の方がよっぽどマシだ。



俺はいつも通りに大通りに出ていつも通りに学校へ向かう。



だがその日の通学路はいつも通りでないことが一つだけあったのだ。



「おいこらガキ。なめてんじゃねぇぞ?オラ、謝礼だ。慰謝料だ。ささっと払えって言ってんだろ?」


昔も今もきっと未来も変わることのない脅しが真昼間の通りで響いた。


数人の不良に囲まれている顔は見えない哀れな青年がいた。



「おら聞いてんのか聞いてんだよ!このクソ!」


背の高い不良が蹴った青いポリバケツが勢いよく倒れ、中の缶が俺の足に当たって微かに残ったいつのかわからない中身が裾に飛ぶ。



最悪・・・


中学時代の俺ならばきっと中坊だろうが高校生だろうが大人だろうが刺青者だろうが文句の一つでも言ってやったものだが、高校入ってからは静かに生きている。


というよりは面倒事はごめんだ。


それに・・・


師匠があの男を殺してから俺と他人はもっと関係のない物になってしまったような感じだ。



ごめんよ。青年



「あの・・・お前らは馬鹿なの?それでも日本人か?文法がめちゃくちゃだ」


その声は不良の中から不意に聞こえた。



バカはおまえだろ!


声には出さずに心の中で言った。


「あん?テメーなめてんのか?寝言は寝て言いやがれ!」


その通りだよ青年。

逃げるかするんだ。


手伝ってあげるから。



「お前ら・・・ここの出身じゃねぇだろ?」


「あん?」


って・・・あれ?


「あん。あん。うっせんだよ!このトコヌマで小遣い稼ぎは禁止してんの知らねぇよそ者が!」



ああ。

この声はあのバカか。



「知るかそんなん!早く出すもん出せ!」


「だから・・・!!!!!」


俺が通りすぎるのとちょうど時を同じくして不良の固まりが二メートル以上、空中へと綺麗に弾き飛ばされる。


「この雑魚どもが!二度とトコヌマに足踏み入れんな!次こっちの者に手ぇ出したら、この『屍の龍』が相手になってやるぞ、馬鹿ども!」


「ひっひ!ヤバいぜ兄貴!こいつあのクソ中の浅比だ!」


それを引き金に男どもが弾けるように各々、猛スピードで逃げ走って行った。


「二度とくんな!は!」



青年は茶色の髪の毛を振り、道路の排水溝へと唾を吐き捨てた。



ヤバい、ヤバい。

アイツに声かけなくてよかったー


いつまで中二病やってんのか・・・

何が『屍の龍』だ。


俺はひっそりとアイツにばれないよう大通りを進む。


「あ!てぇめ」


そんな・・・



「お・・・よう、浅比」


俺は振り返りながら一年ぶりにアイツと目を合わせた。


「政治!『潰し神』か!久しぶりだなぁ。おい!」



なにが『潰し神』だ・・・


「お前さあ。俺ら確か二年前に絶交してたよな・・・?」


「そうだったか?もう覚えてないや!てか、ほんと久しぶりだ!」


浅比は大声で笑いながら背中をどつく。


全く何もかも変わっていない。


「お前はこんな真昼間から不良つぶして何やってんだ?学校は?」


「あ?それをそのまま金属バットで打ち返してやるよ」


この達者な口も変わらない。


「ああ、俺は今からだ。」


「そっか。お前は確か所二高だっけ?」


「ああ。」


「愛想ねぇーな。流石は『潰し神』って恐れられたお前だな。俺は所沼中央だ。まだ現役か?」


浅比は拳を握りながら言った。



「ふざけんな。お前みたいに中二病やってねぇーの。何が『屍の龍』だ。恥ずかしくて生きていけない」


「あっそ。またお前とタッグ組みたかったぜー。立ち話もなんだ、久しぶりに俺の家よってか?」


「これから学校―!!!」


「あ、待て!」


逃げるが勝ちさ!

俺は浅比が後ろを向いた瞬間の隙をついて猛ダッシュ。


アイツは足が遅いからな。

それにあと何時間、話が続くかわかったもんじゃない。




30分後。

2-3組教室前。



めんどくさい・・・


学校に着いたはいいが一番最初に思うことだ。


それに浅比から逃げるために走って来たこともあって汗でワイシャツが濡れる。


まだまだ、夏なんだな・・・



ふと意識してみれば微かに蝉の鳴き声が聞こえる。


さっきは完全に止んだと思ったのだが


でも仕方ないか。



俺は覚悟を決めて教室の後ろのドアを重たく開け室内へと足を踏み入れた。



今。


一瞬、気のせいかと思うけど廊下の奥の方に黒髪の女子が立っていたような。



「遅れました~」


一目で見るにどうやら自習のようだ。


生徒がはしゃいでいる。


クラスのみんなが振り返ったが俺だとわかるや否やつまらなそうに前を向きなおした。


まぁ俺が遅刻することは日常茶飯事だからな。



ふと、さっきの女が気になってもう一度、廊下を見る。



だけどそこには誰もいなかった。


まぁいっか。



床は木製、壁はコンクリに白のペンキ。

所々に落書きがされる。


俺は五月蠅い教室の後ろを歩き

いつもと同じ窓側の後ろの席を目指した。




あれ?


横日が眩しい教室に小さな白い頭。



前の方の席に知らない後ろ姿の男がいる。


そいつは辺りが黒い頭なのに一人だけ白、いや灰色に近い髪色だ。



誰だ?


髪は肩を過ぎるほどに長く制服を着ていなければ女と見間違えそうだ。


バッチ俺のタイプの人になっていたかもしれない。

男じゃなかったらだがな。


外国人かな?




そんなことを思いながら席へと座り、肩にかけたバックを机の横にかけた。



「なあ。そこの女子。あの男は誰だ?」


俺は斜め前の席に座っていた丸メガネの女子に尋ねた。



女子は少し戸惑ってから


「今日来た転校生です・・・名前は山田・・・古太郎さんでしたかしら。」



偽名かよ!

そう心の中で言ってやった。


銀行口座の手続き書類の例に山田太郎だ。


古がなければきっと心ではなく、声に出てしまっていただろう。



女子はそんな俺に少し冷たい目線を送って

頭を下げてから逃げるように自習課題のプリントへと向かった。



「あ、ありがとう・・・」


そんな声は彼女には届かなかっただろう。



ここで俺は嫌われ者だ。


基本、周りの連中とはしゃべらず、そして目つきが悪い。


そんで、人魂なり何かなり。つまり連中には見えないものを避けると変人扱い。


他者には突然、廊下の真ん中で方向転換をしているように見えるそうだ。


当たり前だが、こっちにそんな自覚はない。

目の前にある異物を避けているだけなのだからなんとも寂しいことだ。



そしてこの高校入学当初になんか絡んできた先輩を二人ほど絞めてしまったのであるから

結果としてヤバくて変人で不良。


それが今の俺のレッテルだ。



これで浅比との関係がバレ、しまいに中学の時のことが流れればもっと悪評が集まるだろう。



まぁ今はそんなことより


転校生か・・・


こんな時期に珍しいな。


普通だったら夏休み明けだろう、もうその日からは二週間は過ぎている。



・・・・友達になれるかもな。


転校生はなんか特殊能力を保持していると相場が決まっているのだ。

俺の持論だが。



校内にチャイムが鳴り渡る。


それと同時に生徒が教室からドッと流れ出る。



もう終わりか。


俺が来たのが四時限目なので次は昼休み。


さっきの連中はきっと購買部に向かったのだろう。



「そういや朝飯食ってねぇー」


一人つぶやき教室を出ようと席を立つ。



ふと斜め前の方に目をやると灰色の頭が睡魔に負けたのか一人、自分の席で突っ伏している。


そりゃあ、転校初日で友達いっぱいとはいかないよな。


いや、もしそうだったら全力で嫌ってやる!

俺なんかもう二年たつのに友達なん・・・・



あれ?


転校初日ってもっとこう、女子に質問攻めにされたり男子に好きな奴聞かれたり・・・

もっとワイワイガヤガヤする一日になるんじゃないか?




「んー」


昼飯か転校生か


俺の頭の中で二つの選択肢がぐちゃぐちゃ回る。




「なあ。そこの転校生!外国人か?」



選択は転校生


俺はできる限りのハイテンションでその転校生に話しかけてみた。


何よりも初めが肝心!



伏せた灰色は小さく頭を揺らすだけで顔は見せない。



転校初日から爆睡って・・・

そりゃ引かれるぞ?転校生。


まぁそんな転校生をさて置いといて、それ以上に気になる周りの目線。


クラスに残る連中は男子、女子構わずに冷たい目線が痛い。



そんなに俺が人としゃべったらダメか・・・?


なんか心が傷つく。

いや、ここは怒ってもいいところだ。



そんなことに気を取られている間に転校生はゆっくりと体をお越した。


長く綺麗な灰色に染まる髪を振り上げた。



肌はとても白く、柔らかそうなほっぺは少し赤い。

目は鋭く尖っているもどこか丸みのある表情。


女じゃねぇか・・・・


「あ、あの・・・外国からの人ですか?」


彼のすべてに見とれてしまって

何とも丸みのある質問になってしまった。


「何を言っているのだ貴様は?殺されたいのか?」



え?


え・・・っと。


「え?」


まさかの不意打ちだ。


こんなにも『え』って発したのは小学校の国語の授業以来だ。

それに言動と声にギャップがあってなお応える。



声が何とも女らしい



今更だがあの周りの冷たい目線は俺がしゃべることではなく

この男としゃべることへの目線だったのか・・・


きっとこの様子だと自己紹介の時もこんな感じで言いやがったな。



「あ、いやな。あれだ・・・その髪の色がな・・・」



ダメだ。

もうダメだ。

何かがダメだ。


また寂しい一人のままだ。


俺もこいつも。



「何わけのわからないことを言っておる!我の髪の色は漆黒の・・・まさか貴様・・・」


突然、男がわけのわからないことを言いだして一人で錯乱する。



どうした?どうした?


慌てふためきたいのはこっちだって!



「何色に見えておるのだ?」


急に冷静になった転校生は普通の質問をしてきた。



「は、灰色・・・かな?」


は!


俺はその質問のもう一つの意味を知った。


もしかして地毛?

あの灰色の髪は染髪じゃなくて地毛だったか?


すると気にしていたのかも・・・


俺が霊感体質をコンプレックスにしているように彼は灰色の髪をコンプレックスだったら



俺は何と愚かなことを言ってしまったのだろうか。



すると男は動かなくなった。

なにか、大変な真実を知ってしまったように。



やっぱり。

「あの・・・その灰色の髪、かっこいいぜ。それになんかスゲーいい」


これだ。

確かに第一印象はかっこいいではなく綺麗だったりしたけれど嘘は言っていないはずだ。




ガンッ

突然、鈍い音と後頭部に半端じゃない痛みが走る。


なんか後ろに誰かいたのか・・・


「ちょっとこい。」


気づくと男は意識朦朧の俺の襟をつかんで持ち上げる。


なんて力なんだ。

それに今の痛みで・・・体が動かない。


今まで、それなりに強くてヤンキーみたいな奴らに喧嘩吹っかけられてきたがこんなの初めてだ。


こりゃ喧嘩というより・・・


師匠の殺しだ。



転校生は俺をそのまま掴んでクラスを出て行った。




屋上前の踊り場。



この男が知ってか知らずかこの場所は俺のお気に入りだ。


屋上は普段鍵がかかっていて誰も来ないため屋上行の階段のこの踊り場は俺しか来ない。



よく授業をさぼってここで昼寝をしたものだ。



しかし今回はそうはいきそうにない。


「貴様!」


転校生はワイシャツを掴んだまま乱暴に俺を壁に押し付ける。


またもや後頭部がコンクリートにあたって脳が揺れる。



抵抗しようにも俺の体は動かず、まさに今日見た夢のようだ。



「な、なんだよ・・・?」


「貴様は何者だ?言え!さもないと・・・」


男は懐から一本に先の尖った鉄の杭を取り出して俺の喉元に突き立てる。



本物かよ・・・


ますます師匠の様なエモノの使い方。


そして昨日の男の末路が再び脳裏に浮かぶ。



あの血の臭い。


鉄くさい血の臭いがこの杭からする。



それは元々の杭の匂いなのかそれとも長年染みこんだ匂いなのか考えたくもない。


「やめろ!お、俺は!」


ズボンの右ポケットから生御手帳を男に見せた。


これ以上喋ったらこいつに喉を杭で刺されそうだったから。



男は警戒しながら俺の出した生徒手帳に目をやる。


生徒手帳には一年の時の顔写真と二学年という身分証明。

そして名前と住所。


この手帳から俺が普通の学生度ということはわかってもらえると思う。


なんたってこれから俺が『見える』事なんてわからないのだから



転校生は見てる間も俺の喉元に数センチ離して抑えるのだからかわいくない。



少しでも隙があれば足で杭を蹴飛ばし、逃げるだけ。


この校内の事なら転校生よりもずっと詳しい。


それに俺は体力と足になら自信がある。なんたって浅比に勝てる。



見せた生徒手帳を転校生はまだ見つめている。


「か・・・か、カミだ?き、貴様は神だったのか!?」



この男は馬鹿だ。


どうやら神田をカミダと読んだようだ。


「カンダと読む!山田君・・・頼むからその危ない物を下してくれ・・・」



俺はしゃべる度に喉仏に当たりそうで当たらない杭の先を親指と人差し指で少しつまんだ。



男は少し顔を曇らせてから間をあけて、不意に何かを思えだしたように


「あ、私は山田だ!」


「何言っているんだ。お前以外に誰がいる転校生」


どうやら話はできそうだ。


「す、すまぬ」


男はすぐに杭を俺の喉元から放して隠すように制服の内ポケットにしまった。



そんな男は顔を赤らめ下を向く。


次の更新はまた数日か・・・

それとも数か月かw


まぁストーリーは今の4倍ストックがあるので気長にどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ