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赤色のセカ







「すまぬな・・・。これがこっちの。わしのいる世界なんじゃよ・・・」


師匠は俺の方を向き寂しそうな顔をして笑った。



俺はただ見えるだけだ。


師匠も同じ。



なのに・・・


「師匠・・・」



異界の者が見え、多少のことは何とも思わない。

例えそれがどんなに悪だとしても。


でも・・・



あれ?

師匠がこの男を殺すことは・・・


『本当に悪なのだろうか?』




暗い。


真っ暗だ。



俺は一人、林の中に立っていた。


この林は・・・古寺の林だ。



そこに一人きり。


心にあるのは恐怖よりも違和感。



「あ、師匠!」


ふと振り返ればそこに師匠がいた。


日本刀を片手に持ち、木にもたれ掛っている。



「師匠?」


師匠は何かを口にするもそれは声にはなっていない。



ただ口が動いた。


【すまぬ】と




今度は師匠の陰から突然、男が現れた。




そう。

この男は死んだ。


師匠から出た何かによって喰い千切られて


男もまた、日本刀を片手に掴みこちらをただその光らない目で見つめていた。



「何者だ・・・?」


男は俺に問いた。



俺は・・・何なんだ?


改めて聞かれると名前以外は特にない俺。


そんな俺を師匠はただ見る。



「お前は・・・死んだ」


そう男に俺は言った。



「ああ。お前のせいだ」


そういった男素早く手を上げた。



あれ?


男が持っていた刀はいつの間にかなくなる。


何処だ?



【ここだ】


不意に何処からか声が聞こえるが林のざわめきでかき消される。



刺さる刃。


動けない。


気が付くと俺の脇腹に光る一本の光。

その光は消えることなく重たく俺の動きを奪った。


どうやら刺されたようだ。



体の異変はすぐに俺から自由を奪った。



不意にくる眩暈、体の硬直。


重くなる体は重力で地面へと倒れる。


倒れた衝撃で光る刃は俺の肉へとさらに食いこむ。



だがその腹に痛みはなくただ地面に赤く温い液体が流れ出す。



男はそんな俺に歩み寄り襟をつかんで持ち上げる。



なんて強さだ。


そのまま男は腹に刺さる刀を力のままに引き抜いた。


血しぶきが微かに飛んで俺の体は後ろの木へと大きくぶつかりる。


「やめ・・・」


考える間もなく口に出た言葉は届くはずもなく


俺は目の前で光る刀を振り上げていた。


「え?」


スッと何かが切れる音。


次には鈍い音と寒気。


「え?」


フラっと体重が左側に傾き倒れそうになった。


咄嗟に体制を立て直すが同じこと



おかしいな・・・


上手く立てない。



気になってふと右を見ると


何かない。


視界を染める黒い赤。

そして白い何か



ない。


そこにあるはずの

俺の腕・・・



気づくと男の足元に俺の左腕が指を曲げて転がっていた。



傷口から黒い血。


必死で腕の生えていた場所を片手で抑える。


「あ・・・腕・・」


でも。


指の間から黒い血が止まることなく流れ出す。


「と、止まれよ!・・・・うあ・・」


そんな俺を男は血の付いた刀を片手に眺める。


「た・・すけ・・・く・れ」


意識が・・・

痛くもないのに。



男はまた刀を振り上げる。


や・・・め・・て・・・く・・れ。

スッパ


今度は首から腹にかけてと傷口を抑えていた腕を浅く切りつける。

傷口からは血。


首からは大量の血が噴き出るのが視界に入る。

腹は無くなったかのような感覚になる。



血が流れ出る。


黒い血が。


痛くはない。


だけれどなくなって行く。


何か大切なものが傷口から血と共に



それが何より・・・恐ろしい。



これが死か


死にたくない。


死ぬのは嫌だ。


底のない暗い。

暗すぎる底に落ちていくような感覚。


ついには思考も回らなくなり


残るのはただ一つ


怖い。



そんな俺を男はただ見つめていた。



「お・・・お前は・・・・・俺・・・か」



意識と感覚がなくなっていく中、必死の思いで傷だらけの手を伸ばした。


「そうさ。俺は・・・お前。」


やっぱり・・・な。


男の顔が気づくと俺の顔だった。


「なん・・て。・・・ひ・・・でぇ・・・顔だ・・な」


「だろ?これが俺だ」


俺は笑っていた。


血の付いた刀を振りあげて。




「うわっぁ!!・・・うっ」


白と黄色と少し緑の光が顔にあたる。


眩しい・・・



「夢か・・・」


俺は自宅のベッドの上にいた。


外では雀が鳴いている。


触る下布は微かな汗でしっとりと濡れ、掛けたはずの掛け布団はどこかへ行ってしまった。



嫌な夢。



笑う男

喰い千切られる男の体

師匠に消えた黒い塊

地面に落ちた右腕

振るわれた刀

燃え上がる肉塊

赤黒い血の雨

血の臭い

血の色

流れ出る血


切り落とされた俺の腕

転がる右手

傷口から流れる血

首筋から噴き出た血

視界の赤

動かない体

止まらない血

消えゆく意識

なくなる何か

男の顔

俺の顔

赤い黒い血

死。



脳裏に昨日のことがフラッシュバックして吐き気がする。



「最悪だ・・・」


俺は再びベッドへとねっ転がった。



嫌な夢・・・


昨日のことは現実だよ・・・な?


どうしても実感がわかない。



当たり前か、だって目の前で人間が死んだんだ。

しかも喰い千切られて。


普通の人なら一体、どんなことをするだろうか?


怯える?錯乱する?それとも笑い飛ばすか?



・・・それより先に近くの交番にでも駆け込むのだろうか?



俺はあの時に警察や法的機関のことをすっかり忘れていた。


そういや師匠は大丈夫なのだろうか?


男が死んだ。

理由はどうにせよ、死に方がどうにせよ


結果から見れば白奈という男を師匠は殺した。



これって殺人容疑。師匠は犯罪者?


なんだかそんな感じがしない。


この力・・・これは法律の外の何か・・・もっと別な世界なのかもしれない。



こんなことを考えている俺はおかしいのかもしれないな。


ふとそう思う。



「『これがこっちの世界』・・・か」


師匠がそんなことを言ってた。


人を殺す。

殺し合う。


幽や言霊のある世界。


そして師匠のいる世界。


俺はそんな世界に足を入れているのか。


いつかあの夢のように殺される。


そんな気がする。



「実感・・・・やっぱりないな」



眩しい。


いつもと変わらない窓から差し込む朝日が。


そんな光に手を伸ばした。



もう、昨日までの日常にはきっと帰れないのだろう。


「今日は学校休むかな~。」



今は状況を整理したい。


師匠のこともこれからのことも


「・・・・あれ?」


ふと視界の端に入ったのは伸ばした腕の小さな違和感



傷?


いや痣か



俺の左腕に細く長い一本の薄く黒い跡があった。


「いつの間に・・・寝てるときかな。・・・まさか」


嫌な感じがする。


とっても嫌な。



俺は不安に駆りたてられ腹の服をめくってみた。


「マジかよ・・・」


嫌な予想ほど当るというがまさかここまで


腹にも細い薄く黒い痣があった。


そう。まぎれもなく男に刀で切られたあの場所に



「呪い・・・かな?」


他にも夢と同じ場所に痣があった。



そんな非科学的なーって笑い飛ばしてみたいものだがそうは問屋が卸さない。


これは師匠の所に行くべきだな。



俺にはもう師匠のところにしか居場所がないのだから。




『これがこっちの世界』


俺も行きますよ。


そっちの世界に



俺は服を着替えて師匠のいる古寺へと

死のある世界へと向かった。




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