捕まった最強の先輩忍びを助けに行ったら「潜入の足音が大きい」と減点されました
地下牢の湿った冷気が、忍びの肌を刺す。張り詰めた沈黙を破ったのは、濡れた石畳を擦る足音でも、忍び寄る鎖の音でもなく、かすかな衣の擦れ合う音だった。
影が揺れ、天井の梁からひらりと舞い降りたのは、黒の忍び装束に身を包んだ後輩の葵だった。彼女の視線の先には、壁に太い鎖で繋がれ、全身に傷を負いながらも意識を保っている先輩の桜がいた。
「……葵? おバカ!来いとは言っていないでしょう」
血の混じった息を吐きながら、桜が眉をひそめる。声音には厳しさが滲むが、その瞳には驚きと隠しきれない安堵が揺れていた。
「先輩を置いて逃げるわけにはいきません。……それに、私の『初仕事』の採点、まだ終わっていませんから」
葵は口元を布で覆ったまま、いたずらっぽく目を細めた。彼女の手には既に、見張りの牢番から盗み取った鍵の束がある。カチャリ、と静寂に金属音が響き、手枷が床に落ちた。
自由になった腕をさすりながら、桜は苦笑を漏らす。
「満点どころか、減点よ。潜入の足音が少し大きかったわ」
「厳しいですね。でも、反省会は城を脱出してからにしましょう」
葵が肩を貸そうと手を差し伸べた瞬間、牢の外から大勢の足音が近づいてきた。敵の警備に見つかったのだ。重い鉄扉の向こうで松明の光が揺れる。
「走れますか、桜先輩」
「愚問ね。誰に向かって言っているの?」
桜は壁に掛かっていた短刀、京極政宗をひったくると、弱々しかった立ち姿を一変させ、鋭い殺気を放った。葵もまた、懐から煙玉を取り出す。
「行きますよ、先輩!」
葵が足元に煙玉を叩きつけると、真っ白な煙が狭い地下牢を一瞬で満たした。混乱する敵の叫び声を背に、二筋の影が暗闇の壁を蹴り、夜の天井へと駆け上がっていく。
月に照らされた城の瓦屋根の上、二人は並んで風を切った。追手の声を遠くに聞きながら、葵は隣を走る背中にそっと微笑みかけた。




