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追い込まれた偽聖女

 アオリは魔具を使用し、聖なる力を後天的に手に入れた。


(ここまでは、予定通りね。あとは……)


 意気揚々と姉の暮らす王城まで乗り込み「自分こそが真の聖女だ」と名乗りを上げ、陛下にお目通りを願い出る。


「何用だ」

「姉様がハズレ聖女と呼ばれるほどに不完全な障壁しか生み出せないのは、ラシリネが偽物だからよ」

「なんだと?」


 ここで「何を馬鹿なことを」と吐き捨てるような人間ではなくて、助かった。

 国王もこのままでは姉を聖女にした責任を追及され、自分の進退にかかわると自覚しているのだろう。


「ラオイドル公爵家の次女であるこのあたし! アオリこそが、真の聖女よ!」


 魔具を使って姉の生み出した穴だらけの障壁を塞げば、彼は瞳を輝かせて喜んだ。


「おお……! これこそ、神の奇跡だ! 今すぐあの女をこの国から追放し、貴様を我が国の聖女として迎え入れよう!」


 アオリは国王の決定を、冷めた目で見つめていた。


(こいつ、聖女のことをなんにも知らないのね……)


 聖なる力による防御壁は本来、任命式を終えてからでなければ発揮できない。

 己が姉の張り巡らせた障壁を塞いだ時点で、聖女がどういった存在なのかを知る人間であれば真っ先に違和感をいだいていた状況だ。

 なのに、この男はこちらを「偽物」と罵るどころか「本物」と崇めた。


(それだけ、姉様が役立たず聖女ってことなんでしょうけど……)


 なんとも言えない複雑な感情をいだきながらその場に佇んでいると、あっという間にこの場へ連れてこられた姉の追放劇が始まった。


「アオリ……」


 彼女からしてみれば、この状況はまさしく青天の霹靂であったに違いない。

 己の力不足によって生じた勘違いとはいえ、ラシリネこそが聖なる力を持って生まれた真の聖女なのだから。

 まさか10年も経ったあとに妹が「自分こそが本物だ」と名乗り出て、聖女の座を奪い取ろうとするなど夢にも思わない。


「この国を、お願いね……」


 姉も長い間ハズレ聖女と呼ばれ続け、疲弊しているのだろう。

「これはきっと何かの間違いだ」と声を荒らげることもせず、素直に陛下の決定を受け入れた。


(いいご身分よね)


 去りゆく姉の背中を睨みつけながら、アオリは思う。

 こちらの都合も考えず勝手に行動して計画をめちゃくちゃにした挙げ句、彼女を諦めなかったダリウスによって永遠に幸せになる権利を手に入れたのだから。


(どう転んでもあいつに愛されている限り、姉様は幸せになれる。それに比べて、あたしと来たら……)


 どれほど望んだところで白馬に乗った王子様に選ばれることはなく、危険を犯してまで姉の身代わりとなって尻拭いをする羽目になった。


(あの女さえ、いなければ……)


 アオリは姉が妬ましく、そして羨ましくて仕方がない。

 だが――。

 その気持ちを本人にぶつけてはならないと考えられる理性だけは、まだ残っていた。


(姉様に消えろ、なんて心ない言葉をぶつけてみなさい。きっと、あの男に消されるわ)


 ダリウスに対する姉への執着は、異常の一言に尽きる。

 一体、ラシリネのどこに彼を狂わせるような魅力があるかまでは不明だが……。

 そういうものだと受け入れるしかない。

 反論したところで、幸せになれるとは限らないのだから。


「ようこそ、我が王城へ! 聖女アオリよ、これからこの国を守護する障壁を、展開してくれ!」

「ええ、もちろんです。陛下。おまかせください」


 こうしてアオリは任命式を経て、アデラプス王国の聖女となった。


(姉様の解任式をしないままで、本当にいいのかしら……?)


 そんな疑問を、脳裏に思い浮かべながら。


 *


 ――あれから数日の時が経つ。


 ラシリネの解任式を終えずに彼女を追放したからか。

 これまでアデラプス王国の領土には、姉が作り出した不完全な障壁とアオリの魔具によって生み出された防護壁が展開されていたのだが……。

 ある時を境に、姉の張り巡らせた透明な防御壁がパリンと音を立てて砕け散った。


「なんだ、一体!?」

「これは、どういう事だ!?」


 王城内は一時期パニックに陥っていたが、その様子を見ていたアオリはすぐにわかった。

 姉が無事にダリウスの庇護下に入り、解任式を執り行ったのだと。


(ここからが、勝負どころよ……)


 あの男から受け取った魔具の効果は、永続的ではない。

 道具が破壊されたり代償を差し出せなければ、聖なる力は使えなくなるのだ。


(どうにかして、この地位を確固たるものにしなければ……!)


 それからアオリは、国王へ必死に取り入った。


「陛下ぁ~!」

「おお、アオリ。今日も麗しいな」

「えへへ~。ありがとうございますぅ」


 最初のうちは「なんであたしがこんな奴に媚を売らなきゃならないわけ?」と吐き気を催していたが、若い娘にベタベタと引っつかれたら、悪い気はしないのだろう。

 デレデレとすっかりアオリの虜になっている姿が印象的だった。


(あとは……)


 己にとって一番避けたい出来事は、偽聖女だと露呈することだ。

 アデラプス王国に魔獣が侵入してこないように、ダリウスから受け取った魔具を使って獣を強制的に退けた。


(あら? 魔具を使ってから、魔獣が黒いオーラを纏ったような気がするけど……。きっと、気の所為よね)


 アオリはさして気にする様子もなく、陛下からの寵愛を受けたのをいいことに自由に王国内をふらふらと歩き回っていた。

 その結果、想定外の出来事に見舞われることになると気づけぬまま……。


 *


「へ、陛下! 大変です!」

「何事だ。騒がしい……」

「つ、追放したはずのハズレ聖女が! エヴァイシュ帝国の、聖女に!」

「なんだと?」

「それも、完璧な障壁を展開しております……!」


 ダリウスの治めるエヴァイシュ帝国は、長年聖女不在の地だ。

 障壁を張り巡らせて領土を守る者が現れるなど、夢にも思わない。


「この目で確かめるぞ!」

「はい!」


 国王は慌てた様子で物見櫓へ向かい、望遠鏡を覗き込む。


(話が違うじゃない……!)


 肉眼でもはっきりとわかるほどにオーロラのように光り輝く完璧な防御壁を姉が展開させたと知り、アオリは狼狽えた。


(あの男は、姉様との結婚を望んでいたはずでしょ!? 聖女になったら、その願いは叶えられないはずなのに!)


 2度目はアオリの活躍によって成功したが、3度目はダリウスが選択を誤り、失敗してしまったとでも言うつもりなのだろうか? 


(これじゃ、あたしが偽物だってバレるのも時間の問題じゃない!)


 作戦が成功して「ああよかった」とほっと胸を撫で下ろしていたら、今頃人生が詰んでいた。

 アオリはここにはいないダリウスに向けて怒りを募らせると、望遠鏡を覗き込むのを止めた国王の様子を窺った。


「へ、陛下……」

「ふむ。確かに、彼の国で障壁は張り巡らされているのは事実のようだ」

「ええ。そうね……。まさか帝国に、新たな聖女が誕生するなんて思いもしなかったわ……」

「精進せよ。アオリなら、きっとできる。期待しているぞ」

「は、はぁ……」


 陛下は可愛くて仕方のない孫娘を見つめて優しく諭すと、満足げに室内へ戻って行った。


(はぁ? 何が、精進せよ、よ! こっちは限界まで、頑張っているんですけど!?)


 アオリは人気のなくなった物見櫓で、内心怒り狂っていた。

 姉が聖女になったせいで、何もかもが台無しだ。


(なんで姉様は、あたし達の気持ちを無視して聖女になるわけ!? 大人しく普通の女の子でいてくれたら、随分楽なのに……!)


 ラシリネが生み出した不完全な障壁より、自分が魔具を使って展開した防護壁のほうが優秀だ。

 国民達は誰もが新たな聖女の誕生を祝い、祝福を送ってくれた。


 なのに――。


 姉が隣国でアオリが絶対に真似できないほどに強力な防壁を展開してしまった。

 これから己は、生涯彼女と比べ続けられるだろう。


(ハズレ聖女呼ばわりなんて、冗談じゃないわ! このままじゃ、あたしも姉様みたいに追放されちゃう!)


 それだけは絶対に避けなければならないが、自分の力だけはどうしようもなかった。

 アオリが偽聖女を名乗れるようになったのは、ダリウスの差し出してきた魔具のおかげなのだから……。


(こうなったのは全部姉様の身勝手な行動と、あいつによる判断ミスのせい! きちんと責任を取ってもらわなきゃ!)


 憤慨を隠しきれない少女は、いても経ってもいられずにこっそりと自国を抜け出した。

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