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嫉妬心を爆発させて

 アデラプス王国で行われた1度目の就任式とは比べ物にならないほど、たくさんの人達の前で障壁を展開するのはとても緊張した。


 スノーエルが夜遅くに誤って扉へ頭突きをしてしまい倒れた事件をきっかけに、陛下との関係性は入る少しずつ今まで通りに戻りつつあるが、まだ完全とは言い難い。


(このまま時間が解決してくれると、いいのだけれど……)


 就任式の成り行きを後方で見守るダリウスの表情は、言い争いの時と同じだ。


(私が聖女になるのを了承したつもりはないと怒っているのであれば、難しいかもしれないわね……)


 今の自分ができるのは、彼に素晴らしい聖女だと思ってもらえるような障壁を領土全体に張り巡らせることくらいだろう。


(神様。どうか、今度こそ……。私に完璧な防御壁を生み出す力を、お与えください……!)


 ラシリネの祈りは天に通じた。

 両手を広げたままゆっくりと胸元へ動かす度に、キラキラと眩い光と一緒に魔物を退ける透明な壁が領土を包みこんだ。


「我が帝国にも、聖女様がやってきた!」

「これで我々は、魔獣に苦しめられることはない!」

「一生安泰だ!」


 この様子を見ていた民は歓喜の声を上げ、新たな聖女の誕生を褒め称えた。


(よかった……。みんなが、喜んでくれて……)


 ラシリネはハズレ聖女という汚名を返上することに成功し、ほっと胸を撫で下ろす。


(あとは、たった一言だけでいいの。陛下が私に賞賛の言葉をかけてくだされば、それだけで満足なのに……)


 ダリウスの顔色は優れない。

 この帝国を守護する聖女になれてよかったと喜びを露わにしている自分の反応が間違いだと責めるように、不機嫌そうなオーラを醸し出していた。


(陛下はやはり、納得していないのね……)


 彼の同意を得ずに就任式を行い、聖女になったことを謝罪するべきなのだろうか。

 それとも、今まで通りに接するべきなのか――。


 何度も考えて悩んだ末に出した結論は、後者だった。


「生涯、最善を尽くせ」


 彼はぶっきらぼうにこちらへ向かってそう言い放つと、足早に式典会場をあとにしてしまった。


(その気になれば触れ合えるほどに近づいた距離がまた、離れて行ってしまったわ……)


 聖女になりたい。

 そう強く願ったせいで、陛下との間に見えない壁ができてしまった。


「わふ?」


 その寂しさを埋めるように、近づいてきたスノーエルを抱きしめる。


「聖女にならないほうが、よかったのかしら……」


 金色の瞳を潤ませて涙を滲ませた直後、事の成り行きを見守っていた神の言葉が脳内に直接響いた。


『それは違うぜ』

「神様!」


 こちらが喜びを露わにすれば、神獣の身体を借りた男は呆れたように声を発した。


『あんたが聖女になったおかげで、エヴァイシュ帝国は魔獣に苦しめられずに済む。私の査定も上がって、皇帝の役に立てたと自己肯定感が満たされると来たら、いい事ずくめじゃねぇか!』

「ですが……。陛下は、この状況に納得がいかない様子を見せています……」

『あんたが悲しまねぇように、きちんと説明してやったんだがな……。あいつ、真面目な顔をして案外頭の出来は悪いのかもしれねぇな』


 獣の身体を借りて陛下を馬鹿にする発言をした神のありがたい言葉を聞き、ラシリネは金色の瞳を釣り上げて怒った。


「陛下は、素晴らしい殿方です! たとえ神様であろうとも、悪く言うのは許しません!」

『お、おう……。この程度の言葉で憤慨するくらいなら、もっとあいつを全身で好きだってアピールしたほうがいいぜ?』


 今までは「陛下には自分以外の想い人がいる」と勘違いしていたせいで遠慮し、昔馴染みと言う関係性から外に出ないように配慮をしてきたつもりだ。


 神は「誤解が解消された今、そうする理由はない」と言いたいのだろう。


 しかし、聖女となった自分にはそう出来ない問題が起きている。


「あなたの怒りを買い、完璧な障壁を穴だらけにするわけにはいきませんから……」


 触り心地のいい神獣の毛並みを優しく整えるように撫でつけてやれば、神の呆れた声が響いた。


『まだ、そんなことを言ってんのか……。あのな。私はあんたらの仲を引き裂……』

「聖女様!」


 彼は何かを言いかけたが、ピタリと言葉を止める。

 見覚えのない王立騎士団員の男性達が複数人、こちらに向かって声をかけて来たからだ。


(神様の声は、私にしか聞こえないもの。不審に思われる前に、配慮してくださったのね……)


 神が言いかけた言葉は気になるが、短時間で何度も神降ろしを繰り返せば、器にも負担がかかる。

 スノーエルを家族の一員として認めているからこそ、無理強いなどできなかった。


(気まぐれに神様が姿を見せた時、聞けばいいわよね……)


 ラシリネはそう納得してから気持ちを切り替えると、不思議そうに己をじっと見つめる神獣とともに、見知らぬ騎士団の面々と対話を試みる。


「わふ?」

「我が帝国は長きに渡り、聖なる力をその身に宿した女性に見初められず、己の武力を行使し続けられなければ死にゆく定めでした。しかし……!」

「あなた様が聖女としてこの領地を守る覚悟を決めてくださったおかげで、我々王立騎士団の負担が減りました!」

「本当に、ありがとうございます!」


 彼らは王立騎士団を代表して、わざわざお礼を言いに来てくれたらしい。


(王族の皆様以外から、こんなふうに面と向かって感謝されるのは、初めてだわ……)


 こういう時、どんなふうに接すればいいのだろう?

 ラシリネは理由もわからぬまま、恐縮した様子で彼らに頭を上げるように告げた。


「陛下のお役に立ちたくて、しただけです! お礼なんて……!」

「失礼ですが、陛下とはどういったご関係なのですか?」

「噂では、ご寵愛を受ける花嫁候補だとか……?」


 王立騎士団の面々から代わる代わる問いかけられ、顔を真っ赤にして狼狽える。

 周りからそう思われている喜びと羞恥心で、いっぱいになったからだ。


(だ、駄目よ……! 私は陛下から、距離を置かれている最中ですもの! ここでしっかりと否定をしなければ、ダリウス様の機嫌を損ねてしまうわ……!)


 ラシリネも、これ以上彼と険悪な雰囲気になるのだけは避けたかった。

 だからこそ、力いっぱい否定したのだが……。


「ち、違います……!」

「そうでしたか! それを聞いて、安心いたしました!」

「我々にも、チャンスがあると言うことですね!」


 この返答は、どうやら悪手だったようだ。

 彼らは満面の笑みを浮かべて、こちらに意味深な視線を向けてくる。


「この帝国に、陛下へ楯突こうというものはおりません」

「ダリウス様の恐ろしさは、この領土で暮らす誰もが重々理解していますので」

「しかし、彼のものではないというのならば話は別です!」

「聖女様をお慕いする輩が、山程お目通りを願うでしょう!」

「グルゥウウ! わふっ! わふーん!」


 こちらが困惑の色を隠せぬまま呆然と彼の話を聞いていると、真っ先に胸元で大人しくしていたはずの神獣が王立騎士団員に向かって敵意を見せた。

 スノーエルがこんなふうに吠えるなど、己に危害を加えようと目論む魔獣と対立した時以来だ。


(黒いオーラは、見えないけれど……。まさか、彼らにも取り憑いているのかしら……?)


 ラシリネは金色の瞳に怯えの色を含ませ、探るような視線を男達に向けた。


「わ、私はかつて、ハズレ聖女と呼ばれていたのですよ……? たくさんの殿方から愛を囁かれるなど、ありえません……!」

「何をおっしゃいますか! 我々は、あなたをお慕いしているというのに……!」

「そうですよ! 見て見ぬふりなど、しないでください!」

「どうか、この想いを受け取って……!」

「ひ……っ」


 4本の腕が、一斉に己の身体に向かって伸ばされる。

 喉元から声にならない悲鳴が上がり、慌てて胸元で両手を組んだ。


(怖い! 近づかないで……!)


 その祈りに応えるように、スノーエルが地を蹴った。


「わふ!」


 その直後、ラシリネを取り囲んでいた2人の男が同時に倒れ伏した。

 神獣が攻撃を加えたのは、1人だけだ。

 もう片方を傷つけた人物は一体誰なのか。

 それを確認するよりも早く、勢いよく腰元に逞しく鍛え抜かれた腕が回る。

 ぽすんと抱き寄せられた時には、地を這うような怒声があたり一面に響き渡っていた。

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