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決意

 ラシリネはまさか、ダリウスが想いを寄せる人間が自分など思いもしなかった。

 驚きを隠しきれない様子で、問いかける。


「わ、私……ですか……?」


 しかし、いつまで経っても「それはあなたの気のせいよ」という言葉が聞こえてくることはなく、彼女は呆れたように詳しく説明してくれた。


「ラシリネちゃんがこの国を守護する聖女になったら、結婚できなくなる。ダリウスはそれが嫌で、拗ねているのよ」

「あ、ありえません……! 陛下が私を救ってくださったのは、ただのご厚意で……!」

「息子はずっと、あなたをアデラプス王国から救い出す機会を窺っていたの。あちらが自ら手放してくれた時は、自らラシリネちゃんを迎え行くほどに喜んでいたわ」

「あの場所に陛下がいらっしゃったのは、偶然ではないのですか……?」


 こちらが理解できずに疑問符で頭がいっぱいになっている間、皇太后は「ここで完全に誤解を解いてみせるわ」と言わんばかりに闘志を燃やす。


「あの子は自分で伝えるから黙っていろとよくこちらを脅すけれど、ダリウスに任せていたら一生想いを通じ合わせられないわ。やっぱり、わたくし達がしっかりと解説をしてあげなくちゃ……!」


 彼女の話を聞く限り、どうやらダリウスの想い人がまだ見ぬ女性ではなく自分だと言うのは、本当のようだ。


(陛下の想い人に悪いからと、身を引く必要なんてなかったのかしら……?)


 ラシリネは彼の意見を聞き入れることなく一方的に「聖女になる」と宣言したのを後悔していた。


(真実が明らかになったところで、今さらこの国を守護するのを止めたいですなんて、言えないわよね……)


 彼と相思相愛なのであれば、ダリウスに対する想いを内に秘める必要がなくなる。

 声を大にして、大好きだと伝えてもいいのだ。

 その場合は神の意思に背くことになるため、聖なる力は失われる。

 最悪の場合は、天罰が下るだろう。


(黒いオーラを纏った魔獣は、聖なる力を持つものではないと浄化できない……)


 ラシリネが己の幸せを優先すれば、今まで通りこの帝国に防壁を張り巡らせる聖女がいない状態で迫りくる魔獣と交戦する羽目になる。

 彼らとの戦いは、困難を極めるだろう。


(陛下と想いを通じ合わせたとしても、その幸せが一瞬だけでは意味がない……)


 やはり自分は民を守るために、聖女としてこの帝国にすべてを捧げるべきなのだ。


「勘違いを正してくださり、ありがとうございました」

「いいのよ。お礼なんて。わたくし達は、2人が幸せになる未来を望んでいるだけですもの……」


 ラシリネは身を引く決意を固めると、彼女に謝辞を送る。

 皇太后は恐縮した様子で口元を綻ばせると、「子ども達の行く末が幸福でありますように」とでも言わんばかりにどこか遠くを見つめた。


「このお話を聞いて、やはり自分はこの帝国を守護する聖女になるべきだと確信いたしました」

「ラシリネちゃん!? どうして……!」

「私は陛下が治めるこの帝国を、守りたいのです。自らの意思を優先し、民を犠牲にするなど……。もう二度と、あのような恐ろしき過ちを繰り返すべきではありません」


 だが、こちらの発言によって、再び彼女の顔色が曇る。

 明らかに「このまま白黒はっきりとつけてきます!」とラシリネが飛び出していくであろう状況だったはずなのに、まさか彼に対する恋心を今まで通りこの身に秘め続けるなど思わなかったのかもしれない。


 皇太后は深い溜息を零したあと、ラシリネへ諭す。


「あなたは、今まで充分にアデラプス王国へ尽くしてきたわ。罪滅ぼしのために我が帝国に献上しようなんて、思わなくていいのよ?」

「私が障壁を張り巡らせることで、陛下の負担が少しでも減るのなら……。きっと、そのほうがいいんです」

「ラシリネちゃん……」


 ここまで言葉を尽くしても頑なに考えを変えない以上、自分では説得できないと考えたのだろう。

 彼女は悲しそうに赤紫色の瞳を伏せたあと、一縷の望みをかけて願望を口にした。


「もうすぐ、就任式が行われるわ。それまでに一度、息子と腹を割って話をするべきよ」

「お気持ちだけ、受け取っておきますね」

「駄目よ! きちんと、ダリウスと向き合って!」

「これ以上険悪な雰囲気に、なりたくないのです」


 大好きな人の母親が、己のためを思ってアドバイスをしてくれたのだ。

 できることなら、叶えてやりたかった。


 しかし――自らの歩むべき道が真っ暗闇だとわかっている方向へ進んで後悔した経験のある自分は、もうしたくないと思ってしまったのだ。


 だからこそ、誠心誠意謝罪をすることしかできない。


「せっかく相談に乗って頂いたのに……。申し訳ございません」

「誤解を正しても、あなたの意思は変わらないのね」

「はい。私は陛下のために、この帝国の聖女となります!」


 彼女に頷いた金色の瞳に、迷いはない。


(1人で悩んでいた時よりも、この帝国を守りたいと思う気持ちが強くなった気がするわ……)


 ラシリネは満面の笑みを浮かべ、赤紫色の瞳を悲しそうに伏せた彼女と、スノーエルを連れて別れた。


「ダリウスはあなたが聖女になるのを、望んでいないのよ……」


 前皇后が苦しげに口にした言葉に、気づかぬまま……。

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