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第七話 火床の子、火縄を抱えて戦場へ

 冬の朝。

 吐く息は真っ白で、頬を刺す風が痛いほど冷たかった。

 けれど戦場の空気はもっと冷たくて、もっと熱かった。


 織田の旗が並び立ち、太鼓が「ドンドン」と腹に響く。丘の上に並ぶ兵たちの視線は、皆、村木砦へと向けられていた。


 その中で――十二歳の少年・鉄之助、通称「鉄坊」は震えていた。

 背中に抱えているのは……火鉢である。


「……よりによって、火種係!?」


 火縄銃に火を移すための、命より大事な火を守る任務。

 これが彼の初陣の役目だった。


(おいおい! 俺は“火床の子”であって、“火縄の子”じゃないんだぞ!? 炉の火を守るキャラ設定なのに、なんで戦場でまで火床ネタを背負わされるんだよ!)


 父・蔵六はきっぱりと言い切った。

「鉄之助。火を絶やすな。お前の火は兵百人の命を背負っている」


「ひゃ、百人分!? 父さん、その例えが重すぎるんだけど!!」


 しかも父自身も、ただの鍛冶屋では終わらなかった。

 彼が任されたのは――信長に鉄砲を渡す小姓を補佐する役。

 薬の詰め方、火縄の長さ、銃身の点検……。小姓が失敗すれば主の命に直結する。そこで鉄を知り尽くす鍛冶屋が選ばれたのだ。


(副操縦士どころか、主君の命預かるメカニック!? いやいや父さん、戦場デビューにしてハードモードすぎる!)



 その隣には、兄・与一の姿があった。

 まだ若いが、手にはしっかりとした短槍。


「俺は鉄砲隊の補佐だ。弾薬や道具の運搬もするし、突撃の時は予備兵として槍を持って前に出る」


 涼しい顔でそう告げる与一に、鉄之助は思わず目を丸くする。

(え……兄上、カッコよ! 俺なんか火鉢係なのに! 完全に“キャンプの火守り”感覚だぞ!?)



 砦に矢が降り注ぎ、最初に攻めかかった兵たちが退いてくる。

「なんで動かないんだ!」

「やっぱりうつけか!」

 陣中にざわめきが広がる。


 鉄之助も不安げに父を見上げた。

「父さん……信長様、どうして突撃させないの?」


 蔵六は細い目をさらに細めて、砦を睨む。

「……あの御仁は、勝ち戦の刻を感じ取っているのだ」


(か、勝ち戦の刻!? 父さんカッコよすぎるよ! でも俺は“火が消えそうな刻”しか感じてないんですけど!?)



 そして、信長の号令が響いた。

「鉄砲――構え!」


 銃身が一斉に砦へと向けられ、鉄之助の手も震える。

「や、やばっ! 火鉢落としたら俺、戦犯確定じゃん!」


 「放て!」


 轟音。大地が震え、砦が煙に包まれた。

 耳がキーンと鳴り、火鉢を抱えた鉄之助は尻もちをつきそうになる。


「ぬぅ……これが、未来を切り開く音か」父・蔵六は低くつぶやいた。

(未来を切り開く音!? いや俺には鼓膜を切り裂く音にしか聞こえないよ!)



 やがて敵の矢は弱まり、味方の士気は一気に上がる。


「総攻撃だぁぁぁ!!」


 槍を構えた兵たちが突撃の陣を組む。その後方で与一が深呼吸をした。

「鉄坊、俺は行く。火を絶やすなよ」


「兄上……気をつけて!」


 鉄之助は必死に声を張り上げ、火鉢を抱えたまま兄を見送った。

 その火が絶えぬ限り、信長の鉄砲は撃ち続けられる。

 そして与一の突撃も、その火に支えられているのだった。


(火床の子から、今は火鉢の子……。俺の初陣、なんか方向性おかしくない!?)


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