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第二十八話 清洲鉄砲会議 ― 火花と団子と胃薬と

えっ? なんだって? 今回? もちろんコミカル回さ!!

 清洲の一角、城下の大広間。

 いつもなら武将たちが出入りするその座敷に――今日は刀ではなく、鉄砲を抱えた鍛冶衆が並んでいた。


 庄三郎、美濃鍛冶の棟梁、熱田鍛冶の親方、そして鉄之助と与一。

 見守るのは丹羽長秀。背後の柱には「火気厳禁」の札。

 その前で丹羽は胃薬の包を開きながら、深いため息をついた。


「……まさか“鉄砲会議”なんてものを開くことになるとはな」


 鉄之助が恐縮したように答える。

「殿のお言葉です。“三者の力を合わせよ”って……」


「合わせるどころか、火花が飛びすぎて城が燃えそうだ……」


 見れば、向かい合う美濃と熱田の棟梁が、すでに腕を組んで睨み合っていた。

 空気はすでに火薬の匂いがする。



「まず議題! 銃身の角度三度問題!」

 美濃の棟梁が声を張る。

「この三度を保てば弾は遠くへ飛ぶ! 距離の試し撃ちでも証明済みだ!」


「はっ、机上の空論だ!」

 即座に熱田の親方が反撃する。

「角度を寝かせれば湿気が溜まる! 火蓋が腐る! お前らは山じゃなく畑で撃つのか!」


「湿気対策はそっちの課題だろうが!」


「精度が悪い銃身で何を言うか!」


「何だと!」


 丹羽のこめかみに青筋が浮いた。

「落ち着けぃ……! ここは清洲城だぞ……! 撃つなよ……!」


 与一が小声でぼそっと言う。

「兄上、あれケンカですか? 議論ですか?」

「どっちでも同じだ……」庄三郎がため息をつく。



「次の議題! 火薬の分量!」

 熱田の親方が紙を叩く。

「これまでは五分詰めだが、七分まで増やせば威力が上がる!」


「爆ぜて終わりだ。銃がもたん!」

 美濃の棟梁が即答。

「実戦で使うものだぞ。壊れて兵が死んだら誰が責任取る!」


「責任? そっちが弱い銃を作るからだ!」


 また口論。丹羽が天を仰ぐ。

「胃が……胃が焼ける……!」



 鉄之助は恐る恐る手を挙げた。

「えっと……火蓋の角度ですが、湿気よりも“火花の流れ”を優先してみてはどうでしょうか」


「火花の流れ?」

「はい。撃ったとき、火がまっすぐ入るより、少し斜めに流れた方が安定します。……たぶん」


「根拠は?」

「感覚です。でも、父が言っていました。“鉄は目で叩くより、心で見るものだ”って」


 会場が一瞬静まる。

 庄三郎が静かに頷いた。

「図面も大事だが、叩いた音を聞け。鉄は鳴く。鉄之助の言ってることは理だ」


 熱田の親方が唸る。

「……“鉄が鳴く”、か。ふん、坊主のくせに言うじゃねえか」


「坊主じゃなくて鍛冶屋です!」与一が口を挟む。

「それに、現場で撃つの俺ですから! どんな角度でも当てます!」


「お前は撃ちすぎなんだよ!」丹羽が怒鳴る。



 その時、障子がすっと開いた。

 椿が顔を覗かせる。

「みんなー、休憩ー! お茶と団子の差し入れ持ってきたよ!」


「神だ……」丹羽の顔が一瞬で緩む。


 机に並べられた団子の串に、小さな札がくくりつけてある。

「なんだこれは……“火除祈願”“湿気退散”“腹痛平癒”……?」


「祈りの団子です!」椿が胸を張る。

「火と水と胃に効くように、ちゃんと三種盛り!」


「助かるが……胃にって……」


 庄三郎が団子を取って匂いを嗅ぐ。

「……なんか香りが強くないか?」

「ちょっとだけ清洲の酒を練り込んであります」

「酒!?」


 丹羽の顔が引きつる。

「おい、まさか――」



 数分後。


 広間には団子の香りと笑い声が満ちていた。

 完全に酒気を帯びた“鉄砲談義”である。


「俺の角度はぁ~三度じゃなくて四度半だぁ!」

 美濃の棟梁が団子の串を銃口に差し込みながら叫ぶ。


「寝かせすぎだ! 湿気で団子が腐る!」

 熱田の親方が絡む。


 与一は火縄に団子を刺して走り回る。

「団子弾だ! 当たったら腹減らなくなるぞ!」


「撃つなぁぁ!!」丹羽の悲鳴。


 庄三郎が笑いながら肩を叩いた。

「まあいい。口は悪くても、腕は確かだ。これなら清洲の鉄砲、他国に負けん」


 鉄之助も笑う。

「はい。父が見てたら、きっと笑ってます」


 その瞬間、蝋燭の火がふっと揺れた。

 蔵六の霊が腕を組んで《こいつら、本当に団子で鉄作る気か》の顔。

 光忠の声が響く。

「まあまあ、平和な火花も悪くないさ」


(うるさい……)と蔵六。



 夜も更け、机の上には設計図と団子の串が散乱していた。

 丹羽が突っ伏したまま呻く。

「……報告書、倍どころじゃない……胃が終わる……」


 椿がそっと背中を叩く。

「丹羽様、“報告書が自然に消えますように”ってお祈りしましょうか?」

「やめろォォ!!」


 その瞬間、どこからか火花が散り、団子の串が「ぱちん」と弾けた。

「ほら、燃えた!」

「だからやめろと言っただろぉぉ!!」



 翌朝、清洲城天守。

 信長は丹羽の報告書を手にして目を細めた。

 紙面には「角度論争」「団子実験」「酒気帯び議論」の文字。


「……くだらぬ。だが、悪くない」


 側近が問う。

「殿、彼らをどうなさるおつもりで?」


「放っておけ。火と鉄は喧嘩しながら強くなる」


 信長の目が、城下の煙を見つめた。

 煙はまっすぐ天へと伸びていた。


「――あの火が、いずれ戦の夜を照らす。あれが尾張の“新しい刃”になる」


 朝日が差し込み、工房の屋根から昇る白煙を照らした。

 清洲の空に、鍛冶の音が再び鳴り響いた。


次回、 第二十九話 稲生へ続く道 お楽しみに! 評価&ブクマも励みになります!

【次回更新】このあと21時予定!

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