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第二十七話 柴田勝家、誤解される男

もちろんコミカル回です!m(_ _)m

 ――清洲の空は今日も快晴。


 鉄之助たちの工房では、火床が静かに唸っていた。

 庄三郎が炉に風を送り、与一が火縄銃の銃身を磨く。

 そして鉄之助が、鍛え上げた刀身を持ち上げたその瞬間――


 「どけぇぇぇぇい!!」


 地鳴りのような怒声が響いた。


 入口で仁王立ちしていたのは、腕太く、眉濃く、

 “怒りの化身”のような男。


 ――柴田勝家である。



 与一が反射的に跳ね上がる。

「ひっ……! お、鬼が来た!!」


「鬼じゃねぇ! 柴田様だ!!」


 庄三郎が青ざめた顔で頭を下げる。

「お、お初にお目にかかります! このたびは――」


「お前らが鍛冶衆か」

 低い声が響く。


 勝家の腕は丸太のよう。

 鋼をも叩き割りそうな手で、火床の柄杓をつかんだ。


「ふむ……悪くない匂いだ。だが、ぬるい」


「ぬ、ぬるい!?」


「火がなまくらだ。戦場では、敵が息をする間に鉄を打たねばならん」


 鉄之助が思わず口を開く。

「す、戦場で鉄を打つ人いませんけど!?」


「……俺は打つぞ」


「何を!?」


「敵の兜をな!」


 どっ。

 与一がこっそり後ろに隠れる。



 勝家は炉の火をじっと見つめていた。

 鉄之助は小声で囁く。

「……兄上、なんか、怒ってます?」


「いつもこういう人なんだ」庄三郎が答える。

「武人の中でも、特に“真っすぐすぎる”人でな」


 与一が耳打ちする。

「真っすぐっていうか……融通が溶けてるな」


「聞こえておるぞ」


 三人、同時に正座。



 勝家は炉の前に腰を下ろした。

「俺は見に来ただけだ。……殿の新しい兵器を作る工房だと聞いた」


 鉄之助が頷く。

「はい、信長様の御命で、鉄砲と刀を鍛えております」


「そうか」

 勝家はじっと鉄之助を見つめた。

「お前……子どもか?」


「はい、十三です!」


「……その歳で火を扱うか。いい度胸だな」


 勝家の目が鋭く光る。

「だがな、火は人を焼く。気を抜けば、すぐに命を奪う」


「心得ています」


「ならいい。……その心があれば、戦も鍛冶も同じだ」


 鉄之助は思わず背筋を伸ばした。



 そこへ与一が、ちゃっかりと火縄銃を構えてきた。

「柴田様、これ、撃ってみます?」


「……ほう。お前らが作ったのか」


「はい! 清洲式、爆音仕様です!」


「爆音?」


「ええ、“撃つ前から敵が逃げる”のが売りです!」


「……撃て」


「えっ!?」


「撃ってみせろ。俺が的になる」


「はぁぁぁ!? 死んじゃう!!」


「かすり傷なら我慢できる」


「いや我慢しないでぇぇ!!」



 その瞬間、庄三郎が割って入った。

「ま、待ってください! 与一! 火薬の調整がまだ!」


 しかし与一の手は止まらない。


「いきまーす!」


「やめ――」


 ――ドカァァァンッ!!


 轟音。

 煙。

 屋根がちょっと揺れた。


 煙が晴れると、勝家は顔を黒くして立っていた。


「……悪くない」


「どこがぁぁぁぁぁ!!!」


「耳が鳴る……が、敵もこうなるなら悪くない」


「ポジティブすぎる!」



 その日の夕方。

 勝家は、火床の隣で正座していた。

 鉄之助が手ぬぐいを渡す。


「これで顔、拭いてください」


「うむ」

 勝家が無言で受け取る。


 炉の火がぱちりと鳴る。

 その奥に、微かに蔵六の影。

(……息子、よくぞ今日も生き延びたな)


 光忠が横から茶々を入れる。

「おい蔵六、あの武骨なやつ、お前に似てるぞ」


(似てない! 俺はもうちょい愛嬌ある!)



 勝家は炉の光を見つめたまま、ふと呟いた。

「……いい火だ。真っすぐ立っている」


「え?」


「炎ってのはな、打つ者の心で形を変える。

 今のお前たちの火は、まっすぐだ。迷いがねぇ」


 鉄之助は驚いて顔を上げた。

 勝家は不器用に微笑んでいた。


「だが、あまり燃やしすぎるな。火は人を強くもするが、壊すこともある」


 その言葉に、鉄之助は小さく頷いた。



 帰り際、与一がこっそり声をかけた。

「柴田様、また撃ちに来ます?」


「撃つ? ああ、今度はもっと近くで」


「近くぅ!?!?」


「お前らの覚悟を見ておきたい。……殿のもとで戦う日も近い」


 勝家はそう言って立ち上がった。


 その背に庄三郎が声をかける。

「柴田殿。あなたのような人がいれば、殿は安心です」


 勝家は少しだけ照れくさそうに振り返った。


「……口がうまいな。丹羽の真似か?」


「いえ、心からです」


 勝家は頬を赤くして、そっけなく手を振った。


「……火、絶やすなよ」


 工房の扉が閉まる。


 外は夕焼け。

 炉の火が、勝家の背を照らしていた。



 夜、工房の奥。

 与一が笑いながら言う。

「なぁ、柴田様って怖いけど、いい人だよな」


「……うん。真っすぐすぎるだけだ」鉄之助が答えた。


 炉の奥から、火花がぱちり。

 蔵六が小さく火を弾く。


(あの無骨者、気に入ったわ……)


 光忠が笑う。

「お前と違ってモテそうだな」


(余計なお世話だ)


次回、 第21話 清洲鉄砲会議 ― 火花と団子と胃薬と お楽しみに! 評価&ブクマも励みになります!

【次回更新】本日19時予定!

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