第二十三話 父、怨霊でござる
コミカル回、しばらく続きます!
――この世に声がないというのは、不便なもんだ。
話したくても話せず、呼ばれても応えられず、
息子がピンチでも「そこ叩くな、焼きすぎる!」とも言えぬ。
おかげでこのところ、出番がまるでない。
火床の隅、煤けた影がふてくされたように丸まっている。
亡霊・蔵六。齢四十一、死してなお頑固な鍛冶屋である。
御前試合の夜から、ずっと無言のまま放置されていた。
鉄之助も与一も庄三郎も忙しく、誰も振り向かぬ。
――おい、そこに俺いるぞ。
……ちょっとでいい、話しかけろ。
……なに? “気のせい”だと? 気のせいじゃねぇ!
いくら火花でアピールしても伝わらない。
「おう、今日も寂しそうじゃねぇか」
背後から低い声。
振り向けば、屈強な髭面の親父――光忠である。
「またいじけてんのか。お前、最近すっかり“背景専属怨霊”じゃねぇか」
蔵六、火花で《うるせぇ》の意。
「ハハッ! 喋れねぇのに態度だけデカいな! さっさとネタにされてこい!」
光忠は腹を抱えて笑いながら、手を叩いた。
炎がゆらめき、鏡のような火面が現れる。
「ほれ、お前の息子の回想タイムだ。今日くらい主役やらせてやる」
⸻
試しの刀 ― 清洲城にて
映し出されたのは清洲城の大広間。
幼い鉄之助が、信長の前で一振りを差し出している。
背後で丹羽長秀が、検査官のように腕を組み見守っている。
(お前、緊張しすぎだ……もうちょい肩抜け)
蔵六がうずうずと手を伸ばすが、もちろん届かない。
信長が刀を抜き、じっと刃を見つめる。
会場の空気がぴんと張り詰めた。
そして――
「悪くない火だ。鍛えは若いが、刃文が生きておる」
その一言で、蔵六の魂がパチンと光った。
(見たか! 殿が“火”を褒めたぞ! 火だぞ!)
火床の火が一瞬跳ね、光忠が慌てる。
「やめろ! 現世まで発火する気か!」
蔵六、胸を叩きながら火花で《うちの息子だ!》と主張。
「わかっとるわ! 顔に書いてある!」
信長が刀を納め、短く言った。
「…うむ。良い。これを我が佩刀のひとつとしよう」
丹羽が横で頷き、鉄之助の手が震える。
蔵六の目が細くなった。
(……よかったな鉄之助)
⸻
鉄砲試作 ― 未練の火、再燃
そしてあの夜。
鉄之助が与一と共に、鉄砲の構造を改良していた。
銃身の温度を測り、湿気を避け、火蓋に工夫を加える。
蔵六、もう座っていられない。
炉の端でウロウロしながら、火花を散らす。
(そうだそうだ、それだよ……角度はな、三度下げるんだ……そう!)
光忠が耳を塞ぐ。
「やかましいなあ……火花のモールス信号、眩しくて見えねぇ!」
与一が試射。
轟音。
弾丸がまっすぐ飛ぶ。
蔵六、全身から青い光。
(っしゃあああああ!!)
光忠が苦笑する。
「おい、発光しすぎ。夜空に浮かび上がってるぞ」
(いいだろ! 親バカ上等だ!)
光忠が大爆笑。
「……お前、刀の親父なのに、死後は鉄砲の守護霊か。筋金入りだな」
⸻
御前試合 ― 信長の言葉、父の名
場面が変わる。
清洲の大広間。御前試合の緊張がよみがえる。
熱田、美濃、そして鉄之助。
鉄之助が父の工夫を継ぎ、鉄砲用の火蓋に革を巻く姿。
蔵六は画面に顔をくっつけて見ている。
(おおお、それ俺が昔試して……湿気で爆ぜたやつだ!!)
光忠が呆れ顔で言う。
「どーせ失敗談だろ。死ぬ前にも似たことやってたじゃねぇか」
(うるせぇ! “改良”って言え! 息子が仕上げたんだ!)
与一が撃つ。
ドン――ッ。
標的が貫かれる。
二発、三発……割れない。
蔵六、感極まって拳を天に突き上げる。
(いったぁぁぁ! やったぞ! 火が暴れねぇぇぇ!)
信長が壇上から静かに言う。
「蔵六の子、見事だ」
蔵六の霊体が一瞬停止した。
(……呼んだ? 今、俺の名、呼んだよな?)
光忠がニヤニヤ笑う。
「おう、呼んでたぞ。“蔵六の子”って。えがったな」
蔵六、無言で号泣。
光忠が肩をすくめる。
「やれやれ。泣き上戸の怨霊だな」
⸻
父の名、再び
夜、鉄之助が炉の前で呟く。
「父さん……俺、やっと火を怖がらずに打てたよ」
蔵六の霊がふっと現れ、後ろに立つ。
言葉は出ないが、胸を張る。
(知っとる。全部、見てた)
火がぱちりと鳴る。
鉄之助が顔を上げる。
「……今、笑った?」
蔵六は炉の奥で静かに頷き、火床に手を添えた。
(火は受け継がれた。まだ成仏せんがな)
光忠が背後から声をかける。
「お前、また居残りか。ほんっとに火が好きだな」
蔵六は火花で答える。
《俺は鉄砲が好きなんだよ》
「知っとるわ!」
二人の笑い声(片方は音なし)が、青い火床に響いた。
次回、 第二十四話 丹羽長秀、報告地獄 お楽しみに! 評価&ブクマも励みになります!
【次回更新】明日17時予定!
第9回 アース・スターノベル大賞に応募してみました!その勢いで39話までは執筆しました!ブクマと評価増えれば1日の投稿回数上げちゃうかも (´・ω・)チラッ




