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第十二話 朝の火床

 朝の工房。火床にはまだ赤い炭火が残り、じりじりと音を立てていた。

 ふいごを押す鉄之助の横顔には、眠気と焦燥が入り混じっている。


 そこへ庄三郎が現れた。

「鉄之助」


「兄上……」


「父上の工房は俺が継ぐ。それは決まっている。だが――お前はお前の道を探せ」

 庄三郎は火床を見つめながら、静かに言葉を続けた。

「俺の影を歩くな。自分で背負うものを見つけろ」


 鉄之助は息をのんだ。

 その背後で、光忠の霊がニヤリと笑い、囁く。

(言え……坊主。今こそ口にするんだ……)


「……っ!」

 鉄之助は腹の底から声を張り上げた。

「お、俺は……日の本一の刀匠になる!!」


 工房に一瞬、静寂が落ちた。

 庄三郎は驚いたように目を細めたが、すぐに口元に笑みを浮かべる。

「……そうか。ならば手を抜くなよ、鉄之助」


「は、はいっ!」


 その瞬間、鉄之助の心臓はバクバクだった。

(や、やべぇ……完全に光忠に言わされた……! 俺、これ本気でやらなきゃいけないやつじゃん!?)


 工房の空気が少し落ち着いた、その時だった。

 ――ガラリ。


 障子が遠慮なく開き、派手な衣をまとった椿がすたすたと入ってきた。


「ちょ、椿さん!? 勝手に工房入って来ないでよ!」

「坊や、今の聞いたわよ」

 椿はにやりと笑い、腰に手を当てて鉄之助を見下ろす。

「日の本一の刀匠になる、ですって? いいじゃない。あたし、応援してあげる」


「え……ほんとに!?」


「……ただし祈りはタダじゃないわ。銭と酒で払ってもらうけど♡」


「うわ出たぁぁ! やっぱり銭! 絶対言うと思った!!」

「だって坊やの未来に投資するんだから当然でしょ? 先立つものがなきゃ、夢も祈りも叶わないわ」


 庄三郎は呆れたように腕を組む。

「……お前、村に居着く気か?」

「居着く? もう居着いてるわよ。昨日からこの村に土地を押さえたんだから」


「はぁぁ!? なにそのフットワークの軽さ!!」

 鉄之助は頭を抱えた。


「安心しなさい坊や。借金はしてるけど、利子はそんなにエグくないわ」

「エグいのかよ! “そんなに”って何基準だよ!」


 その時――工房の戸口から、母・お咲が顔を出した。


「……あら、随分と賑やかね」

「か、母さん! これは、その……」


 椿がすっと前に出て、にこやかに深く頭を下げる。

「ご挨拶が遅れました。渡り巫女の椿と申します。以後、お世話になります」


「……お世話になります?」

 お咲は目を細めて首をかしげた。


「はい。坊や――いえ鉄之助さんのお側で、舞と祈りをもってお役に立とうと思いまして。ですから、この村に家を建てることにしました」


「はぁぁぁ!? お母さん今の聞いた!? 俺、何も了承してないからね!!」

「なるほど……祈りで支える、ね」

 お咲は意外にもすんなり受け入れたように頷いた。


「えっ!? 母さん、なんでそんな落ち着いてるの!? 普通止めるとこでしょ!」

「だって、あなたも独り立ちするには支えが必要でしょ? 鍛冶は刃を打つだけじゃない。心を打つ人が傍にいるかどうかで変わるものよ」

「母さん、もうちょっと慎重になろうよ!?」


 そこへ、与一が道場帰りで工房に顔を突っ込んできた。

「おーい! 鍛冶場がうるさいから見に来たら……って、誰!? 妖艶な人が立ってるんだけど!?」


「自己紹介遅れました。椿と申します。ここに家を建てる予定です」


「家を建てる予定って……旅の巫女の言葉じゃないだろ!」


 庄三郎は顎に手を当てて静かに答える。

「……いや。父上を亡くした我が家に、祈りを添える者がいるのは悪くない。むしろ家の柱になるかもしれん」


「兄上までぇぇぇぇ!!」


 鉄之助は頭を抱えて座り込み、叫んだ。

「ちょっと待って! なんで家族全員あっさり受け入れてんの!? 俺の意見ゼロじゃん! これから工房どうなるの!? なんか心霊と借金と妖艶が一気に押し寄せてるんですけどぉぉ!!」


 光忠の怨霊は、腕を組みながら薄ら笑いを浮かべた。

(坊主……こうして刀工の道は、意外な“家族”に支えられて進むものよ)


「いや光忠! それまとめっぽいけど、支えって方向おかしいから!!」


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