【誕生日記念】君がくれた彩り
誕生日記念です。
誰が誕生日かって?
私です。
☆恋愛ジャンル初挑戦☆
「楓佳、今日の放課後ヒオン行かない?」
私を呼ぶ声に、振り向いた。
――私の通う高校の近くにある商業施設、ヒオン。
近い、涼しい、いろいろな店舗がそろっている、という三拍子で高校の生徒に人気なのだ。
「いいね~、ついでに夜ご飯も食べよ」
そう、話しかけてきた彼女――冴に返事をした。
カバンを漁ってお金が入っていることを確認する。
ふと顔を上げると、午後からの時間割が目に入った。
さっきまで退屈に思えていた文字列が、輝いて見えた。
◇ ◇ ◇
キーンコーンカーンコーン
終業時刻を知らせる鐘が鳴り響く。
「冴、ヒオンでなにしようか~」
私はわくわくしながら話しかける。
「そうだね、なんか買い物する?服とかどう?」
「それいいね~!」
私たちがそう話していると。
「楓佳、学級日誌置いておくね」
「ありがとう、蒼生」
名簿が一つ前で私の友達である男子、蒼生が話しかけてきた。
すると、冴がはっと思い出したように口を開いた。
「ねぇ蒼生、今日ヒオン行くんだけど、空いてる?よかったらみんな誘っていこうよ」
「あー、ごめん。今日予定あるんだよね。ちょっと買い物しないといけなくて」
――じゃあ仕方ないか。
冴と校門をくぐった。
◇ ◇ ◇
ヒオンにつくと、平日の午後にもかかわらず混みあっていた。
「――フードコート並んでるね」
「食べれそうにないかぁ……」
どうやら今日は一律で料金が安い日だったらしく、到底食事にありつけそうにはなかった。
そしてセール日のため、ゆっくり買い物できる雰囲気でもなさそうだ。
「しょうがないなぁ……ナピタ行く?」
「まぁ、しょうがないかな……」
――ナピタも商業施設だが、ここから高校を挟んで反対側なのだ。
◇ ◇ ◇
暑い中を歩き、ナピタへと到着した私たちは、服を見ていた。
「あ、このワンピースどう?めっちゃ似合うと思う」
「それいいねー。使えるわ」
結局冴が数着の服を買い、フードコートへと歩き出す。
ヒオンとちがい、さすがに混んでいないだろう――
そう思った矢先。
――見てしまった。
斜め前の服飾店で、女の子と楽しそうに話す蒼生の姿を。
「……え?」
「どうしたの?」
冴が心配そうに顔を覗き込んでくる。
私は、今見た光景が信じられずに座り込んだ。
――なんで、蒼生が女の子と一緒にいるの?
――なんで、あんなに楽しそうなの?
――なんで、私はこんなにショックを受けているの?
ふらふらと立ち上がり、口を開く。
「ごめん冴、用事思い出したから、帰るね」
「え?ちょっ……」
戸惑ったような声が後ろから聞こえてきたが、それに気を配る余裕はなかった。
私はそのままエスカレーターを下り、呆然としたまま家へと戻った。
◇ ◇ ◇
――なんで、こんなにもショックなの?
私の頭の中で、いつまでもフラッシュバックしている。
たかが、クラスメイトが、友達が女の子といただけじゃないか。
なのに、それなのに――!
◇ ◇ ◇
その日から、世界は彩りを失ったかのようだった。
視界はすべてモノクロで、聞こえる音は驚くほど平坦で。
楽しくない、うれしくない、いら立ちもしない……
ただただ、過ぎていくだけの時間だ。
冴は相変わらず心配そうな瞳を向けてくる。
だけど、それにすら何も思えない。
世界は、輝きを失った。
◇ ◇ ◇
家の日めくりカレンダーをめくる。
もう完全に習慣になったその動作を、働かない頭がなけなしの力で指示している。
いつもなら紙をめくり、ごみ箱に捨て、次の動作にとりかかる――のだが、今日は違った。
「楓佳 誕生日」
大きな誕生日ケーキとともに、書かれたその文字。
「そっか、誕生日か……」
いつもなら前日からLINEを確認して、わくわくした気持ちで新しい日を迎えるのに――
相変わらずの彩りのない世界で、私は生きていた。
◇ ◇ ◇
学校につくと、数人の友達が祝ってくれた。
必死に微笑みを浮かべ、うわの空でお礼を述べる。
――あぁ、いつまで続くのだろう
急に心細くなって、思わず冴と手をつなぐ。
数秒たって離すと、手には紙が握らされていた。
『放課後、展望台で
蒼生』
視界の端が、輝きを取り戻したような気がした。
◇ ◇ ◇
展望台は、昔から私たちの大切な場所だった。
出会ったのも、話したのも、いつだって記憶はそこにある。
そんな慣れた道を、私は今駆け抜けていた。
「いってらっしゃい」
そう見送ってくれた冴に感謝している。
私に手紙を握らせたのも冴。
ずっと気遣ってくれたのも冴。
――ほんとに助けられてばかりだな。
展望台に向かう階段を駆けあがると、そこには先客がいた。
「蒼生……」
「やっほ」
蒼生は、今日もそこにいた。いつもと変わらない笑顔で。
「ここ、座って」
言われた通り、彼の隣に座る。
ひたすら無言な私を、見守ってくれている。
「お誕生日、おめでとう」
「――あ、ありがとう」
そういえば、今年蒼生には言われていなかったっけ。
「プレゼント持ってきたんだ。受け取ってくれる?」
蒼生はそう言って大きな紙袋を出した。
ゆっくり開けると、きれいなワンピースが顔を出した。
「わぁ……」
「こういうの似合うんじゃないかと思って」
「どこで買ったの?――もしかして、ナピタ?」
私がそう言うと、蒼生は少し驚いたように目を見開いた。
「知ってたの?」
「っ……うん、冴と出かけた日に……。蒼生と、しっ、知らない女の子が買い物しているところを……!」
私がそう絞り出すと、蒼生があちゃーというふうに額に手を当てた。
「――本当は男二人いたんだけど、その時トイレいってたかも……」
――なぁんだ。
霧が晴れ、彩りが戻った。
「楓佳、僕は君を大切に想ってる」
「――!わ、私も……!」
自然と結ばれた手が、こんなにもたくましい。
二人で顔を合わせ、ふっと笑う。
涙のせいだろうか。展望台から見た景色は、隅々まできらきらと輝いて見えた。