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2章

 はぁ⋯と息を吐く。のどかな朝。私は通学路―になるであろう道を歩いていた。

 今日は私立春山高等学園の入学式であり、私が3年間勉学と部活動に励む予定の高校の入学式でもある。

 

 学園近くの道を歩いていると、これまた同級生になる可能性のある新一年生の皆がキャッキャウフフと楽しそうに通学している。


 きっと小学、もしくは中学時代からの知り合いであろう。大変元気でよろしそうにしている。


 ⋯まぁ、私はこの高校になんとなく入学している身分であるため、昔からの知り合いなんて生徒はあまりいないわけだけど。


 この高校に入学した理由は、ホントになんとなくだ。特に家から近いだとか、ブレザーが好みだとかでは無く、ただなんとなく。⋯あと、中学時代の同級生が入学しなさそうな、と言う理由もあるかな。


 それに、学園近くのこの坂道。ランニングには最適な上り坂だ。恐らく、遅刻ギリギリの生徒を何人も沈めてきたであろう。この心臓破りの坂をとうとう破る人物が現れる、いや、私が破ってやる⋯何だか入学が少し楽しくなってきた。


 多分、人生で5番目に楽しそうな笑みを浮かべる中、後ろから声がしたので、通学路の端に避けた。


 すぐ後ろからクスクスと笑い声がした。⋯もしかして声が漏れてた?⋯平常心だ、平常心⋯

「あー、やっぱりだ!!」

 いきなり声が聞こえた。⋯何だろう。私は聞き耳を立てることにした。

「昨日以来じゃん!!」

 なるほど、昨日以来と⋯

 

 ―すると突然、声の主は不服そうに声を上げた。

「⋯ちょっと、無視しないでよ。」

⋯へ?


 私のすぐ左に目をやると、さっきの声の主―日向妃菜が、不満げに私を見下ろしていた。


「んもー、さっきから声かけてんだけど。」

ごめん、ごめん。考え事してて⋯

 私は動揺を隠しつつ、返事をした。だって誰か分かんなかったんだもん。

 どうやら着ている制服から、一緒の高校に入学していたらしい。⋯信じられない事にマジで。


「妃菜っちー、この娘って?」

さっきまで話していた片方の女子が日向妃菜に問いかける。―それはそうだ。この場面では、私が知らない奴である。⋯ちょっと心が砕けそうです⋯


「この娘は若奈君乃。」

 日向妃菜は、私を指さしながらそう答えた。

「確か、初めて会った時ってランニングウェア着てたよね?」

 続けて日向妃菜。良く覚えているな。⋯いや、覚えているか。

 頷くと、日向妃菜は嬉しそうに尋ねた。

「じゃあ、入る部活は決めたの?」

 首を横に振る。入学式も行っていないのに、部活動を決めているなんて、いささか早とちりが過ぎるのでは?


「じゃあ陸上競技部入ろうよ!」

 日向妃菜が嬉しさ倍増で声をかける。そういえば、彼女はもう入る部活を決めているんだっけ。


「やっぱり時代は陸上競技だよねー!」

 さらに続けて日向妃菜。だから、どうして人の言う事を待てないのか。


「ごめんねー。まだどの部活に入るか決めてないよね。」

 見かねて、片方の女子はバツが悪そうに助け舟を出す。恐らく日向妃菜の暴走を彼女がケアしているのであろう。マジ感謝です。


「それに陸上競技にも色々種目があるんだって、さっき説明したばかりじゃん?」

 片方の女子は半ば呆れ顔で日向妃菜に問いかける。もしかして登校中もこの押し問答を繰り返してきたのか。片方の女子の心労が伺える。

 

「君乃もランニングしてたでしょ?それに、長距離の事詳しそうだったし」

 片方の女子の事は気に留めずそう言い放つ。この野郎は人の苦労だとか目に入らないのか。

「そうなんだ⋯なら、陸上競技部じゃん」

 と、片方の女子。⋯片方の女子さん?何を言っているのかな?

 

「この娘は高橋心和(ここわ)

 日向妃菜が私の事は気に留めずに伝える。

 ちわーすと軽く挨拶する高橋心和。⋯いや、私が一番欲しいのは、挨拶では無くてですね⋯


「でも、私たちがどうこう言える問題でも無くない?」 

 肩まで伸びた髪をまとめてポニーテールにした彼女は、しかし日向妃菜に向き合い、苦言を呈した。


「えー?そんなぁ⋯」

 うなだれる日向妃菜。

「これから私たちの時代だー!とかやりたかったのに⋯」

 そんな事のために私の3年間を決めないで欲しいです。

 

 そういえばと高橋心和が問いかけた。

「君乃さんってなんで長距離走ってるの?」

「そんなの、陸上競技部に入る以外ないじゃん!」

 すぐさま日向妃菜。うるさいバカ。


えーと⋯、クセと言うか、生活の一部と言うか⋯

 人に説明するのは、誠に面倒くさいような⋯何て言えば良いのだろう⋯

「なら、陸上競技部に入るべきじゃない?知識とかもあるんでしょ?」

 続けて高橋心和。確かに人から見れば、知識もあるし、日時的に長距離に触れていれば、陸上競技部に入るべきと言えなくも無いのか⋯ね?


「そういえば、何学科受験したの?」

 困り顔でアハハ笑いしているのを高橋心和が見かねて、話題をそらした。彼女は本当に⋯さっきは少しだけバカにした態度を取ってごめんなさい。


 この春山高等学園には、受験学科が複数存在する。まずは普通科、それから看護学科、そしてスポーツ学科。

 普通科は一般試験御用達で、看護学科は学力が強く要求され、なおかつ体力も要する、いわゆるスーパーつよつよ生徒しか受験出来ない茨の道。

 

そして、私が3年間お世話になるスポーツ学科。ここは中学時代にスポーツ関係で優秀な成績を修めている受験生であれば誰でも入れる。


 私は中学時代の部活でその証明を済ませているので、何ら問題も無く入学出来た、と言うわけだ。⋯まぁ、何の部活でどのような成績を―などと言った説明はするつもりも無いわけで。


 そんなこんなで終始困り顔を崩さなかった私と、そんな顔を見て、さらに困り顔を作った高橋心和―それからバカは正門をくぐった。

 

 これから、さも平均的で普遍的な学校生活を送るんだ―私の心は少しだけ躍ったように思えた。


「早く私たちのクラスに行こうよ!」

 ワクワク顔のバカは私に声をかけた。⋯ん?


あのっ!貴女たちのクラスって⋯

「私も心和もスポーツ学科受験だよ」

 私の目の前でピースサインを作る日向妃菜と、少し困り顔の高橋心和―

 

 バキっ―

 どこかで心が壊れる音がしたが、決して私の心では無いと思いたい⋯いやこれ私の心だ。


 

走れ!若君!!の第2章目となります。

少しでも皆様の目に止まって頂けますと幸いです。

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