89.リハビリ
「本日の生徒会は、終了だ。次は、藤宮との話し合いの日だ。1年生は、白村は参加必須。ガールズは、自由参加だ。広報の仕事をして貰っても構わない」
本日の生徒会活動は終わった。
「詩季くん、車、用意しようか?」
「行きは、大丈夫です。帰りにお願いできますか?」
「わかった。お母さんに伝えるね」
陽葵さんが、スマホでおばさんにメッセージを送っている。
「詩季くん、今日、何処かに行くの?」
「病院に、リハビリに行くんです」
「そうなんだ」
退院後も定期的に病院に、通院している。
「1カ月に1度のペースで通院していますね」
「陽葵さんは、何時も付き添っているんだね」
「そうですね。今の僕は、1人だと何もできませんから」
3人で、下駄箱に行って靴を履き替えて校門前に出る。
病院へは、家への通学路とは逆になるので、春乃さんとは、ここで別れる事になる。
「ねぇ、私も付いて行っていい?」
「どうしたのですか?」
春乃さんが、病院へ一緒について行きたいと言ってくれた。
祖父母的には、僕のサポートとして付いて来てくれる人が増える事は好ましい事だろう。
「詩季くんのお友達として、詩季くんの事よく知っておきたいの」
何とも、心強い一言だろうか。
西原兄妹に始まって、瑛太くんと奈々さんカップルに春乃さんも、僕の事を知ろうとしてくれている事が嬉しい。
「では、お願いしますね。――痛いんですけど、陽葵さん」
春乃さんに、病院に付いて来てもらう事にした時に、陽葵さんに、脇腹を抓られた。陽葵さんの抓りは、まぁまぁの痛さがある。
「むぅ~~」
何だか、春乃さんを敵視している眼を陽葵さんはしている。
何故、場合によっては、陽葵さんは春乃さんを敵視するのだろうか。奈々さんでは怒らないのに。
「陽葵ちゃん。私は、邪魔しないよ?ただ、詩季くんの手助けをしたいの。陽翔くんもそうしているように」
「……イタァ!」
「陽葵さん、友人相手にそんな視線を送ってはダメです」
「はぁ~~い」
優しく陽葵さんのお凸をデコピンした。
陽葵さんは、春乃さんに向けていた視線を無くしたので、病院に向かう事にした。
「白村さん。白村詩季さん、診察室Aにどうぞ」
呼び出されたので、僕達3人は、診察室へと向かう。
ノックをして入ると、見慣れた顔の僕の担当医の方が目の前に居た。
「久しぶりだね。1ヶ月間、何か、変わりなかったかい?」
「やっぱり、日によっては脚の疲労が抜けずに歩くのがしんどい日がありました」
「うむ。そこは、変わらずか。でも、変わった事はあるだろ?」
40代の医師で、診察室の机には、先生の奥さんとお子さんの写真を入れた写真立てが置かれている。
先生からは、何か、面白そうなネタを見つけたと言わんばかりの視線を感じる。
「何でしょうか?」
「これまでは、陽葵ちゃんだけだったのに、今日は増えてるじゃないか!しかも、めっちゃ可愛い女の子!」
なるほど、春乃さんが増えている事を面白がっていたのか。
そして、最後には、「俺の嫁と娘には負けるがなぁ〜〜」と言っているあたり、家族を大事にしている先生なのだろう。
「それて、どっちを正妻にするつもりだい?」
まるで、僕がハーレムを築こうとしていると言わんばかりだ。
僕は、複数の女性を妻に迎えたいという考えは無い。
「先生。訴えられても知りませんよ」
看護師さんが、先生を止めてくれた。
流石に、同僚に止められては、これ以上は動けないようだ。
「それで、複数の女性との交際は、女としては認められないから。詩季くん的にはどっちの子を狙ってるの?!」
あなたも、春乃さんに興味津々なのですね。
味方だと思ったのに、ある種の裏切り行為ですよ。しかも、味方と思わせての裏切りは質が悪くありませんか!?
「2人とも、大切な友人です。そういう目で見ないようにしています」
「う〜ん。本当に鈍感なのか、鈍感の振りをしているのか。苦労するねぇ〜〜」
そう言うと、看護師さんは、陽葵さんと春乃さんの顔を交互に見ていた。
先生の問診を終えると、病院に併設されているリハビリ施設に移動してリハビリを行う。
まだ、以前のように歩くけるようになる事を諦めた訳では無い。
可能性がある限りは、リハビリを続けようと思っている。
先生は、忙しいみたいで、担当の看護師さんが監督としてここに居る。
「詩季くん。肩に掴まって」
杖を置いて、陽葵さんの肩に掴まってリハビリ器具の所に移動する。
春乃さんもサポートしようとしたが、主に、スカートの中を理由に、今は、見学するようだ。
両手を器具に置いて、脚を動かす。しかし、右足は思い通りに動かない。
リハビリ器具の最終点に着くと、手を離して歩くことを試みるが、やはり無理で倒れてしまう。
「詩季くん!」
近くに居た、春乃さんが、いち早く僕に近寄ってきた。
出遅れてしまった陽葵さんは、悔しそうだ。
しゃがんで、手を掴んで立たせようとしてくれる。
しかし、僕は、春乃さんの足元から目を逸らした。
「どうしたの?立つよ?」
「春乃さん。スパッツ見えています」
「今は、その時じゃないよね」
春乃さんの言う事も確かなので、力を借りて立ち上がる。
すると、思い出したかのように、春乃さんは、顔を真っ赤にした。
春乃さんは、いい人だと思う。
「春乃ちゃん、私のズボン履く?そうしたら、詩季くんのリハビリサポート出来るし」
「えっ、でもそうしたら、陽葵ちゃん」
「私は、詩季くんになら、パンツ見られても良いから」
だから、そう言う会話を男の前でするなと、ここ最近何回思ったか。
看護師さんもニヤニヤ顔で僕を見てきている。
と言うか、最近の春乃さん。僕達グループの中で、警戒心が無くなるを通り越して安心しきっているように見てる。
安心出来る存在だと思ってくれているのは、嬉しい限りだ。
と言うか、今は、ズボンを脱ごうとしてる陽葵さんを止めないといけない。
看護師さんが持ってきてくれた杖を手に取って2人の下に移動する。
「すみません。春乃さんにショートパンツ的なのを貸してあげてくれませんか。そして、陽葵さんは、ズボンを脱ごうとしない。僕達だけでなく看護師さんも居るのですよ」




