83.姿が被る
「まぁ、いい。今日のお仕事といこうか」
僕達、1年生3人は、それぞれ指定された座席に座った。
陽葵さんと春乃さんは、庶務の星川先輩を挟んで、座った。
僕は、副会長である松本先輩の隣に座った。
「まず、今日の仕事だが、橋渡と俺で、雑務を片づける。星川は、1年生ガールズに、広報の仕事を教えてくれ。白村の会長補佐は、優花がする」
「会長、なぜ、あなたが、白村に教えないんですか?」
橋渡先輩は、古河先輩に理由を聞いた。
確かに、そうだ。
僕の役職は、会長補佐なのだ。では何故、副会長である松本先輩からお仕事を教わるのだろう。
「あぁ、優花に、俺が白村を教えるとろくな事が無いから私が教えるって……」
「裕大、ろくな事が起こらないのは、白村くんの方だからね」
「……はい」
古賀先輩は、彼女さんである松本先輩に言いくるめられていた。
そこから業務は開始された。
古賀先輩と橋渡先輩は、2人で仕事をこなしている中で、1年生3人は仕事を教わっている。
陽葵さんと春乃さんは、星川先輩に仲良さげに仕事を教わっている。
僕は、松本先輩に生徒会長の仕事を教わっている。
と言うか、会長補佐って生徒会内の序列はどうなるんだ?!
会長補佐の役職名通りなら、会長の下に就く事になる。つまりは、副会長である松本先輩よりも序列が上にならないのか?
まぁ、深く考えても意味が無いだろう。
僕達、1年生3人は、残り少ない任期の生徒会に入った訳だ。
何かしらの考えがあるであろう古賀先輩に誘われて生徒会入りしたのだ。序列に関しては、会長補佐の役職が与えられている僕も、広報(補佐)を務める2人と同序列の生徒会内で1番下だろう。
「飲み込み早いね」
「はい。天才なので」
「そうやって、自分を追い込むのは、悪癖かな?」
「……そうしないと、人間はだらけてしまいますので」
「そうかな?近くに、大事な人が居れば、人間、頑張れる物だと思うよ?」
僕は、松本先輩と共に資料室に来ていた。
松本先輩には、僕が、天才だと自称している理由を読み取れたようだ。
「裕大もねぇ~~私と付き合った最初の頃は、自分に足枷付けて頑張ってたからなぁ~~」
「惚気ですか?」
「惚気半分に警告。白村くん、今のままなら確実にガス欠起こすよ」
こんなにもカリスマ生徒会室として名高い、この人がとも思うが、納得も出来る。
天才と称される人は、見えない所で努力をしている事が多い。
僕みたいに、天才と言葉に出して足枷にするタイプとは、真逆だ。
だからこそ、天才と称される人物は、何の予兆も無くぽっきりとなってしまう事がある。
「裕大は、高等部から生徒会長になった。白村くんみたいに、中等部時代に生徒会をやっていた実績が無かったの」
この学校の1つの流れとして、中等部で生徒会長を務めた人物とその組閣に入っていた人は、高等部でも同じメンバーに役職で生徒会をする事が多い。
僕は、中等部時代から高等部の生徒会に入っていた古河先輩と関りが有ったが、どうやら、高等部から生徒会に入ったようだ。
しかし、古河先輩は、中等部時代の実績は何も無いが、高等部で生徒会長になっている。
余程、見えない所で努力をしてそれを松本先輩が支えていたのだろう。
「対抗として、中等部で生徒会長を務めてた、灰野黒江さんが居たの。中々、勝つのが大変な状況下で、裕大は、ガス欠を起こしたのよね」
僕は、松本先輩と資料室に移動して過去の生徒会の資料を見て話している。
「白村くん。好きな人との初めてが、同情とかでいい?」
松本先輩が、指している事は、ある程度わかった。
恋人とのセックスだ。
好きな人同士が、お互いの愛情を確かめ合う手段の最高段階にある行為だ。
「これは、裕大には話せないけどね。私、裕大と初めてした時は、気持ちよくなかった。むしろ、痛かったから……生き地獄だったかな」
松本先輩曰く、僕の今の状況が、当時の古河先輩と被るらしい。
だから、直接僕と話したいと思い、会長補佐の仕事を教える役を買って出たらしい。
「私と裕大の初めては、彼が挫折した時に慰めの途中でしたの」
松本先輩は、古河先輩との初めとの事を話してくれた。
生徒会室を目指す中で、灰野黒江と言う高い壁に心がへし折れた事。
落ち込んでいた古河先輩を慰めていた時に、抱え込でいたストレスが、爆発したかのように、襲われた事。
当時、交際関係にあったので、何時かはと言う心はあったが、予想外で驚いた事。
途中で、古河先輩は、冷静になって行為をやめようとしたが、ここでやめては、彼の心を傷つけると思ったため松本先輩は受け入れたと。
だが、その時の古河先輩は、自分の欲や感情をぶつけてくるだけで、松本先輩の事は、考えないセックスだったと。
「もちろん、2回目からは、私の事を気を使ってくれるHになったけどね……初めての記憶は消えないから。裕大には、ずっと嘘をついてる」
「なんで、そこまで出来るんですか?」
「裕大の事が、好きだから。女の子はねぇ〜〜好きな男の子には尽くしたくなるんだよ。その為には、嘘も平気でつくよ」
恐らく、僕を生徒会にスカウトすると決めたのは、古河先輩だ。
松本先輩は、僕が生徒会に入った事を利用して何かを伝えようとしてくれているに違いない。
「白村くん。君、好きや人を愛する感情がわからない、ある種の鈍感くんじゃん?」
「まぁ、そうですね」
人の観察眼と言うのは、才能の1種だと思う。
「君の近くには、君を慕っている女の子が居る」
この時、陽葵さんの顔が最初に浮かんだ。そして、春乃さんと奈々さんの顔が浮かんだ。
「最初に浮かんだ、女性の事を君が好きだとしよう。好きな人との初めてのHが私達みたいでいいのかな?」
「…………よくないですね。女性側なら特に」
「正解!」
松本先輩は、右手の親指を立ててグッと表してきた。
「だからこそ、白村くん。君は、人を利用するんじゃなくて、頼る術を覚えるべきだよ」




