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7.髪型

「詩季くん、髪伸びたね」


 陽葵さんは、寝起きの僕の寝癖を直しながら言う。


 恋人関係でも無いのに、ナチュラルに男の子の髪の毛を触っているのには、理由がある。


 脚が不自由な僕が、洗面台で長い時間立つのはしんどいだろうとの事での配慮だ。


 寝癖直しに関しては、リビングに折りたたみの鏡を立てたら出来ると思うのだが、陽葵さんに先程の理由で押し切られてしまった。


「入院中は、散髪に行かなかったからね。伸び放題ですよ」

「散髪には、行かないの?」

「高校の生活が安定するまでと体力が戻るまでは、行けないかもですね。この脚だと」

「じゃ、散髪に行くまでは、私が、髪やったげる」


 どうやら、陽葵さんは、散髪に行くまでの間、僕の髪の毛のセットをしてくるみたいだ。


 変な髪型にはならないだろうが、遊び心を持て余している陽葵さんの事だ、少しばかり拘った髪型になりそうな予感がする。


「今日は、何時起きなんですか?」


 今日、僕は、朝8時に起きている。


 その頃には、陽葵さんが祖父母の家――ではなく、僕の家でもあるこの場所に居たのだ。


「6時に起きたよ。安心して、無理はしないから。生活リズムだから!」


 本当は、無理してますと言わんばかりに、慌てふためいていた。


「本当はどうでしたか?」

「はい。7時30分に起きて急いで来ました」

「無理しなくてもいいのですよ?」

「私が、詩季くんに会いたかったから来たの!髪もしてあげたいって思ったから!無理してない!」

「分かりましたから。よろしくお願いします」

「任された!」


 後が怖くて怖くて仕方が無いが、折角のやる気を見せているのでされるがままに、身を任せてみようと思う。


「はい、詩季くん。出来たよ♪」

「陽葵さん……僕は、男の子ですよ?」

「詩季くん、可愛い系男子だしこの髪型も似合うよ!」


 陽葵さんにされた髪型は、伸び切った左右の2つに分けられてそれぞれの髪を三つ編みにして後ろで1つに束ねられていた。


 ついでに、前髪も結った髪型に似合うように切られていた。


「陽葵さん。僕の髪の毛で遊んでいませんか?」

「べ、別に……この髪型、陽菜も似合うから、詩季くんも似合うと思ったの!」


 陽菜ちゃんに似合うから僕にも似合うと言うのは、謎理論過ぎないかと思う。


「――まぁ、いいですよ。髪まとめたら楽になりましたし、意外にかっこいいかもしれませんね」

「なにぃ~~陽菜のお気に入りの髪型で嬉しくなったの?」


 この女の子は、最初の頃のおしとやかな印象は、どこに行ったのか、今では、隙あらば、僕の事をイジろうとしてくる。


「そうとは、言ってませんが?」

「えぇ〜〜本当かなぁ〜〜?」

「――まぁ、陽菜ちゃんとお揃いなのは、少し嬉しいですね」

「ほんとぉ〜〜素直じゃないんだからぁ〜〜」


 そう言いながら、陽菜ちゃんを撫でるように、僕の頭を撫でてくる。


 これまた気持ちがいいものだからうっとりしてしまう。


「私のなでなでは、良さげですか?」

「不覚ながら」

「不覚とは、なんだ!」


 ペシッ♪


 優しくソフトタッチと言える力加減で、頭をポンと叩かれた。不覚と言われた事に対する抗議を仕草で表したのだろう。


「おやおや、仲良しだねぇ~~」

「静ばぁまで――」

「はい。めっちゃ仲良しですよ♪」


 静ばぁと陽葵さんは、驚くほど仲良くなっている。


 今では、家に来た際には顔パスで即座に入れる位には仲良くなっている。


「それに、どうですか詩季くんの髪型!」

「意外に似合うんじゃない?詩季も陽葵ちゃんにセットして貰って満更でも無さそうだし?」

「静ばぁまで何言うの!」


 静ばぁの一言で、更に、機嫌を良くした陽葵さんからは、僕をおもちゃにしてきそうな雰囲気がある。


 ここは、陽翔くんに助けを求めるべきだろうか。


「へぇ〜〜詩季くん。私に整髪して貰って嬉しかったんだぁ〜〜」


 あぁ、完全にイジりモードになってる。


 本当に、あのおしとやかな陽葵さんを返してもらいたい。


 誰だ、陽葵さんをこうしたのは――


 ある意味、僕だな。


 少しの自問自答をした後に、こう返事する。


「猫ちゃんが、グルーミング好きな理由が、解ったかもしれません」


 猫動画を見ていて、猫同士が頭を舐めあう様子が可愛かった。


 飼い主に、ブラッシングして貰って満足気な顔をしているのも可愛かった。


 その気持ちがよくわかったと思う。


「何それ、私は、猫と同じ扱い?」

「いや、陽葵さんより猫の方が可愛いと思いますよ?」

「へぇ〜〜詩季にゃん?」

「――うぅぅ、寒気がしますね」

「酷くない?!」


 本音を言えば、可愛いの一言に尽きる。


 陽葵さんは、容姿が整っている。


 噂に聞いた所によると、陽葵さんに告白して玉砕した男子は学年の4分の1にも及ぶとか。


 兄の陽翔くんもかなりのイケメンさんで女子人気が高いとか。


 そんな、可愛い女の子である陽葵さんが猫語を喋れば可愛いしかない。


 だけど、それを正直に話せば尚のこと陽葵さんを調子づかせる事になるので黙っておく。


 それに、本家の猫様には叶わないのだ。


「明日から学校だね」


 僕からの返事が貰えなかった事で、陽葵さんが、話題を変えてきた。


「そうですね、明日からですね。入学式は、明後日ですけど」

「それな!」


 明日の学校は、高等部1年のクラ分け発表が行われる。


 クラス発表が行われた後は、自分が所属するクラスメイトとの顔合わせを行った後に、翌日に控える入学式の流れを確認するようだ。


「――久しぶりの登校は、緊張しますね」

「詩季くんも緊張するんだね」

「半年近く欠席してたし、学年も変わる訳だからね。天才の僕でも緊張しますよ」

「でた、詩季くんの天才発言」


 陽葵さんは、冗談で言っている様に思っているが、僕自身、これまでの定期テストでは、幼馴染達に合わせていたので総合順位は、上位には食い込んでいたが、上の下程度には居たのだ。


「同じクラスになるかな?」


 僕が通っている中高一貫校は、中等部は学年ごとにクラス替えが行われるが、高等部からは、生徒の成績などを含めた実力でクラス分けされる事になる。


「陽葵さんも成績良い方ですし、一緒のクラスになるんじゃないですか?」

「詩季くん、成績確認テストどうだったの?」


 僕は、一枚の自己採点を終えたテスト問題用紙を陽葵さんに見せる。


 ちなみに、成績確認テストは、入院中に外出して学校に受けに行ったテストの呼称だ。


「――満点?」

「記載に間違いが無ければ満点ですね」


 陽葵さんは、疑うことは無く頭を撫でて来た。


 陽葵さんと陽翔くんの新しいお友達と一緒に楽しい高校生活を送っていけたらと思う。


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― 新着の感想 ―
[一言] ついでに髪を茶色に染めてしまえば某マクスウェルさんの出来上がりですね。
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