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319.頑張った

 チャプン♪


 浴槽に貯めたお湯が動く音だ。


「おっぱい触る?」

「……そんな簡単に言わないでよ。洗いっこの時に触ったから少し落ち着かせて」


 陽葵と一緒にお風呂に入っている。


 リフォームの際に、お風呂も2人で入る分には窮屈ではない大きさに変えていたようだ。


 お互いに洗いっこを終えて一緒に湯船に浸かっている。


 一緒にお風呂に入るのは、お泊まりの時には定番になりつつある。


 最初に一緒に入ったのは、恋人前提の友人だった時に水着を着てだったか。


 恋人になってから初めて一緒に入った時は水着は着なかった。


 その時は入るまでに、ものすごくドキドキしたっけ。


 今でもドキドキする事には変わらない。


「どうですか。私のムチムチボディは?」

「さ、最高だ、だよ」


 この女の子は、僕が答えにくい事を見越してこう言う質問をしてくるんだから意地悪だ。


「きゃ!」


 仕返しに、陽葵の弱点の脇腹を軽くこちょばした。


 驚いた陽葵は、可愛らしい悲鳴をあげながら身体をくねらせた。


「もう。脇腹はダメ!」

「意地悪な質問をするのが悪い」

「まぁ、でも、私でドキドキしてくれてるのは伝わってるから」

「……ドキドキしっぱなし」


 ドキドキしている事は、伝わっているだろう。


 心音だけでなく身体の反応もそうだ。


 陽葵には、僕がドキドキしている事が伝わっているだろう。


「……ねぇ、詩季。今晩、Hする?」


 お風呂場で陽葵からお誘いを受けた。


 色んな事をやり切った上で大好きな人とイチャイチャする事は、相当、いい物なのは間違いない。


「今日はしなくていいと思う」


 僕は、今はするべきではないと思う。


 この蜜を味わってしまえば、僕自身、また無理をすると思う。


「どうして?興奮しない?」

「こ、興奮するし今もしてるから!」


 陽葵は、わかった上でからかいも込めて聞いてきている。


「で、でもさ、僕自身やり切った達成感があってさ。そこで陽葵とすれば物凄くいい物になると思うんだよね」

「うん」

「でも、それが癖になりそう。だから、また、無理しそうだなぁ〜〜って」


 今回の一件だって相当無理をした。


 だから、陽葵と今してしまえば相当な満足感わ得られそう。そして、その満足感が癖になってしまいそうで怖いのだ。


「確かにね。この前の仲直りのHも相当癖になりそうだったし」

「だからさ、達成感の後のHはさぁ。責任取れる大人になって結婚するまでは我慢しようかなって」

「そうだね」

「も、もちろん。デートとかしてね……そういうタイミングが来たら……しよね?」

「……詩季〜〜それはずるいよ!」


 陽葵は顔で手を覆いながら悶えている。


「詩季。支えるから浴槽の縁に座って」

「ええ?」


 陽葵に押される形で浴槽の縁に座らされた。


「最後までしなくても――でならいいよね」

「ちょ――」


 ご想像にお任せする我慢、甘味な出来事が起こったのだった。



〇〇〇



「春乃ちゃんと陽翔は、仲良くしてるかな?」

「付き合いたてだからね。母さんに聞いたら結構な高級ホテルに泊まらせて貰ってるみたい」

「どれどれ。お部屋、綺麗だねぇ〜〜すごい」


 陽葵は僕のスマホの画面を覗き込んで目を輝かせていた。


「2人仲良く高級ホテルにお泊まりかぁ〜〜」

「一応、僕と陽葵も高級ホテルに泊まった事はあるよ。パーティーで遭遇した時ね」

「あっあったねぇ〜〜」


 懐かしいお話だ。


 あの時は、お付き合いする前だったかそれともお付き合いしていたか。


「あの時は詩季が春乃ちゃんとお付き合いしてるのかもって、私と陽翔くんであたふたしてたからね」

「まだ、話していなかったからですね。黒宮家のこと」

「だから焦ったんだよ」


 一緒の布団の中に入って陽葵は当時の感想を言う。


「どんな感じで焦ったの?」

「失恋しちゃったのかなぁ〜〜って。あの時、私は詩季の事好きだって雰囲気出てたけど、春乃ちゃんは陽翔の事好きか分からなかったし……私の知らない所で出来ちゃったのかなって」

「やっぱり、事前に話さないとダメですね」

「いや、仕方ないでしょ?確か、3日前に突然言われたんだよね。報告出来なくても仕方ないよ」


 陽葵は、僕の頭をよしよしと撫でながら話してくれる。


「なんで、ずっと撫でてんの?」

「彼氏を甘やかしてんの」

「お風呂で十分甘やかして貰ったけど?」

「あれは、私の暴走もあったし……あんなに、可愛い姿見せられて抑えられないもん!」


 あぁ、可愛いな。


 表情豊かな女の子。


 この人とずっと一緒に居たいと思う。


「おやすみ」


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