315.人参
終わった。
父親とは縁を切る選択をした。
「詩季に羽衣ちゃん。お疲れ様」
「琴葉さんの方が辛いでしょ?」
「これは比べるものじゃないよ」
「そうだね」
お互いに疲れた1日になったと思う。
「私はお母さんの旧姓の藤崎かぁ〜〜藤崎琴葉。いい響きかも!」
「へぇ〜〜琴ねぇの旧姓は藤崎なんだ」
「そうだよ」
琴葉さんのお家も両親が離婚する事になった。
僕達と琴葉さんは両親の離婚後は、親権は母親が持つことになる。
「詩季と羽衣ちゃんは丹羽になるのかな?」
白村詩季改めて丹羽詩季。
白村羽衣改めて丹羽羽衣。
「丹羽姓かぁ〜〜詩季にぃどうなるも思う?」
「一旦は丹羽姓になるんじゃない?」
「一旦かぁ〜〜」
一旦は、母さんの旧姓の丹羽になるだろう。
「18じゃないかな」
18歳。
日本国内で成人として認知される年齢だ。
「18歳になるのなんかあるの?」
琴葉さんが疑問に思ったようだ。
「僕が今回の事で動く際に、黒宮家の力をかなり借りました。将来的に、黒宮家の一員になる条件を呑んで。だから、18歳になって高校を卒業したら清孝さんの養子に入って苗字が黒宮になるんじゃないかなぁ〜〜って思ってる」
自分の家族問題で、黒宮家の力を沢山借りた。
借りたものは返さないといけない。
「じゃ、2人とも18になって高校を卒業したら黒宮本家の方の養子に入るの?」
「僕だけにしてもらうつもりです。羽衣は丹羽姓のままで」
黒宮家に養子で入るのは、僕だけでいいと思う。
羽衣は丹羽羽衣のまま、楽しく過ごして欲しいものだ。
「羽衣ちゃん。静かだね」
琴葉さんは、羽衣が僕に付いて行くと言わない事が不思議だったようだ。
「本音は、付いて行きたいよ。けど、詩季にぃがそう決めたのにわがまま言えないよ。それに、私まで養子に行ったら母さんが1人になっちゃう」
母さんの事もある。
「まぁ、藤崎琴葉さんも葉月さんが黒宮傘下の企業の社員さんなので、ある種の関係者ですけどね」
「……お世話になっています」
琴葉さんが頭を下げてきた。
「それにしても……琴葉さん。何で、制服なのかな?」
「だって、詩季や羽衣ちゃんや春乃さんみたいにスーツ持ってないもん」
「真面目だなぁ~~別に私服でもいいのに」
「……周りがスーツなのに私だけ私服だったら悪目立ちするじゃん」
「だったら上が制服で下は体操ズボンにしたら?」
「……詩季。私に恥をかかせようとしてる?」
「そんな事はないよ」
「絶対そんなことある!着替えの途中の姿だよ!私服以上に浮いちゃうよ」
琴葉さんをからかって遊ぶ。
春乃さんは羽衣に尋ねていた。
「詩季くんって琴葉ちゃんとあんな感じなの?」
「うん。陽葵ちゃんに近い性格でしょ?」
「……陽葵ちゃんの方が私に近いけどね。詩季にぃは私が1番だからね」
確かに羽衣の事が第一に考えているがそういう目で見たことは無い。
「でも、琴葉ちゃんは感情表現が苦手だからね」
「あぁ~~詩季くんは恋愛方面の感情の読み解きは苦手だもんね」
「ねぇ、羽衣と春乃さん。僕の悪口言ってない?」
僕の悪口を言っている気がしたので話しかけた。
「悪口は言ってないよ。事実を言っているだけだからね?」
「どんな事が事実だというのかな?」
「人の好意に気づかない所。ねぇ~~琴ねぇ」
「確かにね。ちなみに春乃ちゃん。詩季はね普段はクールなのにこの女は好みでないとかは直ぐに解るんだよね」
一気に3対1の劣勢になってしまった。
女性陣が団結してしまったら男性としては弱い立場になってしまう。
「詩季様。将来は奥様になられる方に尻に敷かれるんでしょうね」
「あはは。そうなりそうですね」
「友人と妹さんに尻に敷かれているんなんてそうなるでしょ?」
「妹は否定しませんが、琴葉さんには敷かれていません」
琴葉さんの尻に敷かれてしまえば陽葵に怒られてしまうので決して出来ない。
「あぁ〜〜そうだ。詩季様」
「何ですか?」
春樹さんは、何か大事な事を伝えないといけないというか伝えるのを忘れていたという表情だ。
「清孝様が、詩季様の言う通り真司郎様を黒宮家の当主に育て上げられるなら養子に入らなくても良いとの事です」
「て事は、失敗したら入らないとダメなんですね」
「まぁ、詩季様なら余裕だろうと」
清孝様は面白い。
丹羽姓のまま黒宮に関わっても良いと言ってくれている。
その条件は、真司郎くんを黒宮家当主に育てあげることだ。
こう言う、人参をぶら下げられたら燃えない訳がない。
「精一杯頑張りますとお伝えください」




