313.白村家
「水本。後は頼んだよ」
「解りました」
井原さんは誠さんを連れて行った。
「さて、次は僕たち白村家の番ですね」
手錠を掛けられて拘束されている父親の前に移動した。
「お久しぶりですね。あなたにとっては目障りな息子の詩季ですよ」
「目障りだなんて思ってない」
「嘘言わないでくださいよ。杖を奪ってこけさせてきたじゃないですか?」
「あ、あれは……」
じどろもどろしていた。
「それに、自分の預かり知らない所で絶縁していた黒宮家と復縁していた事も気にくわないんでしょ?」
「……何で、復縁したんだよ」
「メリットの方が多いのでね。今後は黒宮家の一員として働いていくつもりですよ」
「……頼むよ。黒宮家だけは辞めてくれ。自分のプライベートにまで――」
「それなら話は付けてますよ」
僕が黒宮家の一員として動いていく中で、僕と羽衣のプライベートに干渉しない事は約束させた。
それに、干渉してくるなら母さんが面会自体を良しとしなかっただろう。
「話は変えますけど、何で、誠さんに怒らなかったのですか?」
自分の子どもを傷付けた相手が居たのだ。
母さんは目の色を変えて怒った。
だけど、父親は目をパチクリ。口をパクパクさせるだけだった。
「本当に僕の事家族たと思っていないんですね」
「そ、そんな訳――」
「だったら何で僕を轢いてこんな身体にした誠さんに怒らないんですか?」
「そ、それは、まさか誠がそんな事するとは――」
「数ヶ月ほど前から警察が僕の一件で捜査協力の依頼に来ていました。それをきっかけに葉月さんは未来創造を辞めた。そして、警察の協力依頼を断るように仕向けたのは誠さん」
今この時点で、急に、起こった出来事なら仕方がないと思う。
だけど、様々な伏線は貼られていたのだ。
その伏線を読み解けばいいものだ。
母さんに葉月さんは、その伏線に気が付いていた。
石川くんの父親もさっきこの伏線を読み解いた。
だけど、父親は伏線を読み解こうとしなかったのだ。
「その口で話してよ」
「そ、それは……」
「……」
僕が内容を察して話してくれ欲しそうな表情を向けてきたが応えるつもりは無い。
自分の口から吐かせる。
妥協など許さない。
「自分の口で話しなよ。自分の子供の事だろ?」
陽葵を同席させていなくて正解だと思う。
今の僕の怒りの顔は、陽葵には見せたくない程に醜いものになっているだろうから。
「早く話しなよ」
逃げ道を防ぐ。
早く、本心を聞きたい。
何を考えてそのような行動を取ったのか。
「ねぇ、早く」
怒りの気持ちは持っているし表情や雰囲気には出ている。
だけど、冷静に物事を進めることが出来ている。
「……高校からの付き合いがあるからそんな事すると思えなくて……」
「そうですか」
友情があるから大丈夫だと言うことか。
審判はついたかな。
ただ、まだ足りないな。
「母さんにも聞いたけど、僕が事故に遭って入院した際に何も対応してくれなかったのは何故ですか?」
「……誠が大丈夫だと言ったから」
「健じぃ達が診断書も送ったよね」
「嘘だと思った」
「何で?」
「……」
色々と聞きたい事が山程あった。
「何でさ」
黙り込んだので、再度、問い掛ける。
「2人は詩季に甘いし詩季のわがままに付き合って――」
ブゴォン!
物々しい音が会議室内で響いた。
母さんが、父親の顔面をグーで殴ったのだ。
相当な力で殴ったのだろう。
父親の口からは血が出ている。
「な、何を――んぐぅ」
そして、胸ぐらを両手で掴んだ。
手錠で拘束されているため抵抗出来ていない。
「私のお母さんがそんな大それた嘘に付き合うマヌケと言いたいか?」
「そ、それは……」
「私や詩季は何度もあんたにチャンスをやった。だけど、あんたは家族より友人を取った。この最後のチャンスも棒に振ったんだ。この意味、解るな?」
「ま、まさか……」
「離婚だよ」
母さんから父親に対して離婚を突きつけた。
「今日は書けないだろうからね。後日、弁護士伝いに離婚届にサインしてもらうから。嫌なら、裁判するよ。それと、今後一切の詩季や羽衣への接触は禁止するからそれへの同意の宣誓書も書いて貰うから」
母さんからは絶縁を告げられた。
「し、詩季!羽衣!」
父親は、僕と羽衣に助けを求めるように見てきた。
「……もうお父さんだとは思わないから。ただの種馬」
「そ、そんな……」
羽衣から拒絶をされた。
普段の羽衣からは想像出来ないような単語が飛び出た。
それぐらい怒っているのだ。
「僕も同じく。大事な大事な友人と仲良しこよしやればいいですよ。ただの種馬」
僕も羽衣に同調させてもらう。
「水本さん。お願いします」
「解った。連れて行ってください」
父親を連行してもらう。
一応、公務執行妨害で逮捕されているのだ。




