304.意思確認
「さぁ〜て、皆さんにお集まり頂きましたのは、最終的な意思確認を行いたいと思ったからです」
4月の最終週の土曜日。
高梨母娘が避難先として利用しているホテルに、関係者が全員集合している。
「皆さん。自分の持っている事にケリを付けたいですか?または、その現場に立ち会いたいですか?」
この場に居るのは、強制参加が決定している春乃さんを覗いて、自分達が抱えている過去や凝りと向き合っている人達だ。
「このお話をするという事は、動きがあったんだよね?」
「ご名答です。母さん……ただし、現場に立ち会う意志の無い者には話すつもりはありません」
まず最初に、現場に立ち会うつもりなのかを問う。
そのため、話し合いの会場は高梨母娘の避難先のホテルではあるが別の部屋を用意している。
それも隣室ではなくフロアも別だ。
「まず、母さんは?」
「立ち会うよ」
「羽衣は?」
「私も立ち会う」
母さんと羽衣は、僕と父親の家族としてのケジメを付ける所に立ち会いたい意思を示した。
それに、自分たちも、友情を優先し続ける家族との自分たちが抱いている感情の整理をつけるために立ち会うのだろう。
「続いて、葉月さんと琴葉さん」
「私は参加するよ。琴葉は?」
「私も」
高梨母娘も参加の意思を見せた。
「2人に関しては、今から話す事は口外しないでね」
「わかった。琴葉も大丈夫」
春乃さんに関しては主従関係もあり、お仕事として参加してもらう。
「では、ここからの流れを説明します」
春乃さんはカバンの中からバインダーを取り出して、僕に渡してくれた。
「お家の調査結果だと、未来創造への強制調査はゴールデンなウィークの前に行われるようです」
これまでは「可能性」と言う段階だった。
だけど、詳しい日程が確定したのだ。
「詩季様。ここからは、私も説明に入らせて頂きます」
「よろしく」
説明を春乃さんに交代した。
春乃さんは、強制捜査が行われる具体的な日付けや当日の動きを事細かに説明してくれた。
「1つ質問いいですか?」
春乃さんが粗方の説明を終えたタイミングで、琴葉さんが質問したく手を挙げた。
「……?」
「許可します」
説明をしていたのは春乃さんだが、この場の主催は僕だ。
さらに、この場は黒宮としての仕事モードの春乃さん。
琴葉さんは説明していた春乃さんに質問を要求したが、春乃さんは僕に許可を求めた。
無言で頭を数度傾けて僕の意思を尋ねてきた。
「琴葉さん。質問をどうぞ」
状況を整理できていない琴葉さんに解りやすい合図を出した。
「そ、その……お父さんはどうなるの?」
「その情報は……春乃。もう決定的?」
「そうですね。あの証拠からの調査で決定打を得たみたいです」
琴葉さんの質問を答えるために資料を見ていた。
その記載内容に関して、春乃さんに確認したが、ほぼ確定なようだ。
琴葉さんから提出された証拠類が決定的な決め手になったようだ。
「高梨誠さんは逮捕される可能性は消えていません。むしろ、強くなっています」
春乃さんからの報告書には、「高梨誠の逮捕も予定されている」と記載されていたが、あえて濁した。
数%だろうが同情心があるかもしれないと判断したからだ。
だが、状況が悪くなっていることは伝えた。
「では、私達も遠回しに警察の捜査協力といきましょうか」
警察が強制捜査に入るとしたら、逮捕の予定者が確実に居る日だろう。
しかも、捜査をしたがっている会社にいる可能性があるのなら証拠隠滅を防ぐために居る日を狙うに決まっている。
警察が強制捜査を予定している日は、未来創造が役員会議をする予定の日を狙っているようだ。
なら、僕達からも横槍を入れて重要人物が未来創造に揃っている状況を作っておこうでは無いか。
「では、この日に皆さんで、未来創造に行きましょう。集合は、このホテルで」
近々の流れを決めた。
この場は解散となり、高梨母娘は、自分達の部屋に戻った。
僕達家族と春乃さんは春樹さんが運転する車に乗り込んで帰宅する。
「母さん。この日に、スワングループと未来創造の会談の日程入れて欲しい」
「解った。あの会社は、何とかしてうちとの接触の機会を探っているから飛びついて来ると思うよ」
「だね」
会談の予定を組めば取引の継続を望む彼らは、役員会議なんて放ったらかして、こっちに注力するだろう。
「あぁ〜〜春樹さん。母さんと羽衣をお家に送り届けた後に、とある場所に向かってください。場所は、春乃からメッセージ送らせます」
「かしこまりました」
まずは、母さん達をお家に送り届けるとする。




