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300.高等部へ

「っしゃぁぁぁぁぁがっ――いだぁい!」

「朝からうるさいよ」


 今日から高校生になる羽衣が、テンション高々にそう告げようとすると、近所迷惑を心配した静ばぁに頬っぺを引っ張られた。


「……ごめん」


 僕に怒られるより応えているのは、何だか癪だ。


「詩季にぃ、私、新入生代表の挨拶任されたよ!」

「……?知ってたけど?」

「え、まじ?」

「僕、生徒会長だよ。誰が代表挨拶するかは事前に知らされるって」


 今年から新入生のクラス発表と顔合わせは、入学式と同日に行われる事になった。


 僕たちのように入学式前日に、学校に行かなくても良くなったのだ。


「ちぇ〜〜」


 羽衣は、何だかんだ小生意気に高等部への進学のためのテストで首席の成績をおさめた。


 当然の如く、進学クラスになっている。


 守谷先生いわく、兄妹続けて新入生代表の挨拶は史上初だそうだ。


「しっかり、ズボンも履いたしバッチシ!」

「……僕に報告されても困るんだけど?」

「詩季にぃが、ガードするところはガードするようにって言ったんじゃん!」

「そうだけど、僕に報告する必要性ないでしょ?」


 ピンポーン♪


「おはようございます……羽衣ちゃん。高等部への進学おめでと!」

「わぁ〜〜ありがとう。陽葵ちゃん!」


 陽葵の到着によって、興味が移ったようだ。


「今日から一緒の校舎に登校だねぇ〜〜」


 陽葵はそう言いながら、椅子に座る僕の後ろに移動して髪の毛のお手入れをはじめた。


 陽葵は、羽衣と同じ校舎に登校出来ることが嬉しいようだ。


 これまでは、校門を潜ってからは、別行動だったからだ。


「落ち着きがないなら心配だけどねぇ〜〜」

「静ばぁ。学校モードがあるから安心して!」

「はい。はい。そろそろ、出ないと。私たちは、しずかの運転で学校に向かうから」

「行ってきまぁ〜す!」

「いってきます」


 僕たちは、3人で学校に向かって歩き出す。


「いやぁ〜〜やっと高校生ですよ!義務教育から外れて、やる気が無ければ見捨てられる高校生ですよ!」


 相変わらず、羽衣は饒舌に喋り続けている。


「羽衣ちゃんは、高校生活に楽しみがあるの?」

「生徒会長として働く詩季にぃを見たくねさぁ!3学期は、高等部中を荒らしたそうじゃん?」

「荒らしたとも言えるけど……まぁ、荒れたね」

「2人とも言い方!」

「「すみませぇ〜ん」」


 どうやら後夜祭の廃止の荒れ具合は、中等部にも伝わっていたそうだ。


「中等部でも話題になったん?」

「そりゃ、交流会館で高等部の新聞部の新聞貰えるし……同じ敷地内だから噂は流れてくるよ」


 僕からの問に、情報ルートを詳しく教えてくれる。


「へぇ〜〜それで、中等部ではどんな感じだったの?」

「半々。後夜祭を残しておいて欲しい人と廃止してもよくない」

「半々かぁ〜〜」

「まぁ、最終的な結果と経緯が発覚したら詩季にぃの行いも納得していたけど」

「高等部は、それの10倍は凄かったかも」


 陽葵にとっても、後夜祭廃止の際の荒れ具合は凄かったのだろう。


 僕は楽しんでいた節はあるのは、黙っておこう。


「あっ、琴ねぇじゃん!」

「おはよ。羽衣ちゃん。陽葵ちゃん。詩季」


 学校までの途中の道で、琴葉さんが待っていた。


 特に、一緒に行く約束をしていなかったので、少しばかり驚く。


 羽衣は、琴葉さんと朝の挨拶替わりにハイタッチをしていた。


 昔と変わっていない。


「何か、用事?」

「いや、羽衣ちゃんの高校生活初日だし……そ、その……」

「可愛い妹分の門出は、一緒に登校したかったんでしょ?素直に言いなよ」

「簡単にできないよ!」

「わぁ〜〜琴ねぇありがとう!感謝の気持ちにスカート捲っていい?」

「「ダメにきまってんでしょ!!」」


 そっと、琴葉さんのスカートの下部部を掴んで捲ろうとしていた羽衣を僕と琴葉さんでとめる。


 羽衣から解放された琴葉さんは、頬を真っ赤にしていた。


「琴ねぇ。体操ズボン履いてるでしょ?」

「履いてる = 捲っていいってもんじゃないよ!」


 前言撤回だ。


 以前と比べて。


 陽葵との関わりを持ったからなのか、ハチャメチャ具合が変わっている。


「……陽葵ちゃんの影響?」


 琴葉さんが、僕に尋ねてきた。


「多分、そうだと思う」


 琴葉さんとしては、災難にあったと片付ける事にしてくれたようだ。


 僕と陽葵の後ろで、手を繋いで着いてくる形になった。


「2人は、仲良しになったの?」

「仲直りしたって方が正しい。昔は、本当の姉妹のように仲良かったから。事故の一件で拗れてたけど、昨日和解したからね」

「そっか」


 後ろの方では、今朝の出来事を羽衣から聞いて微笑ましく聞きながらも、原因はお前かと言う雰囲気を琴葉さんは、醸し出している。


 まぁ、そこに関しては見逃して貰いたいものだ。


 学校の校門を潜った。


「羽衣。クラス確認してから自分のホームルームに行くんよ」

「解ってるよぉ〜〜皆、またねぇ〜〜」


 羽衣は、僕たちに手を振って掲示板に自分のクラスを確認しに行った。


 まぁ、新入生代表挨拶をするので、クラス自体は解り切っているのだが。


「羽衣ちゃん。頑張ってくれるかな?」

「頑張るでしょ。だって、生徒会長のお兄ちゃんが生徒会長として特等席で見ている訳だし」

「だねぇ」


 女性陣の話に耳を傾けながら、2年生のフロアに移動していくのだった。


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