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299.有難い

「お久しぶりです」


 出迎えてくれた静ばぁは、琴葉さんを目にすると固まった。


 僕のインフルの際に、顔は合わせているが


 様子を見るに、羽衣は伝えていなかったようだ。


「羽衣とお話がしたいみたいだから連れてきた。羽衣の了解も取ってる」

「う、うん」

「大丈夫。僕は琴葉さんと和解しているから」


 琴葉さんと一緒にお家に入る。


 琴葉さんは、久しぶりに入る祖父母宅に懐かしさも感じているようだ。


「羽衣は?」

「リビングでゲームしてる」

「緊張してんのか」


 リビングでゲーム。


 これは、羽衣の何時ものルーティンでもある。


 だから、緊張していないとも思える。


 だけど、今日に関しては緊張しているな。


 元は姉のように慕っていた女の子だが、あの一件を境に、距離を取ったのだから。


「ただいま」

「おかえり。それと、ようこそ」


 羽衣は、僕の後方に立っていた琴葉さんに家に入ることの歓迎ではないだろう。


 許可をする的な意味合いで、「ようこそ」と言った。


「向かい側に座って」

「うん」


 琴葉さんは、僕と羽衣が隣合って座った向かい側に座って貰った。


「はい。お茶とお菓子」

「あ、ありがとうございます」

「私は、上に居るからね」


 静ばぁは、2階に上がっていって僕達だけの空間を作ってくれた。


「久しぶり」

「うん。久しぶり」

「…………」

「…………」


 2人とも気まずそうな空気が流れている。


 この空気に関しては僕ではなく、どちらかが破らないといけない空気だ。


 決して、僕が握っていい主導権では無い。


「羽衣ちゃん」


 空気を破ったのは、琴葉さんだ。


 主導権は、琴葉さんが握ったと言える。

 

「まずね、詩季くんにした事に対して申し訳ないと思ってるから――」

「それに関しては、詩季にぃが許したんだからいいよ。ただ、私が気持ちの整理を付けられなかったの」


 琴葉さんが持っていた主導権を奪うように、羽衣が話し出した。


「で、でもさぁ、原因は私に――」

「確かにね、琴葉さんが詩季にぃにした事を聞いた時は、怒り狂ったよ。そっちの都合で詩季にぃは日本に残されたのに、酷い目にあったんだから」

「……そうだよね」


 羽衣にとって溜め込んでいた気持ちを抱え込めずに吐き出した。


「でもさ、あの時の琴ねぇを見たらさ。怒りは消えたよね」

「……え?」


 羽衣の琴葉さんの呼び方が、昔の呼び方で呼んだ。


「羽衣ちゃん……呼び方……」

「……あの時に、琴ねぇは変わってなかったんだなぁ〜〜って思った」

「……ぐずっ」


 琴葉さんの中で、ギリギリストップをかけていたストッパーが外れた。


「琴ねぇ。よく頑張ったよ。辛かったよね。私だったら壊れてたかもしれない」


 羽衣自身も色々と考えていたようだ。


 琴葉さんが、自分の家族を告発した事に対して。


 違法行為を告発する事は、正義のある行動だと思う。


 まぁ、その告発がわざとの可能性もある訳だが。


 ただ、今回の琴葉さんの告発は、自分が信じてきた家族に対して。


 羽衣も自分が琴葉さんと同じ立場だった事を考えたのだろう。


 苦しい。


 信じたくない。


 天秤に乗せたくない。


 目を逸らしたい。


 色んな事を考えたのだろう。


「私ね。詩季に酷い事をした。離れたくなくってお母さん達に我儘を言った。なのに、自分の思い通りな恋愛が出来なくって、勝手に怒って突き放して――」


 琴葉さんの懺悔なのだろう。


 学校で、僕たちの和に入れた時から抱えていたのだろう。


「――その後も、自分にとって都合の良いように解釈して……詩季本人に言われんまで気が付かなかった」


 泣きながら話している琴葉さんを羽衣は、背中を摩ってなだめている。


 パァン!


「前向きに行きましょう」


 僕は手を叩いた。


 羽衣と琴葉さんの注目は、僕に集まった。


「……色々な事が繋がって今があります。後悔するならしなければ良いだけとの話なので。後悔したからこそいい経験が出来たと思えばいいんです」


 琴葉さんは、羽衣からティッシュを受け取り涙を拭いていた。


「人々は、難しい事が有ることを有難いと思うんです。難しい事があるからこそいい経験。無難よりは将来に役立つでしょう」


 ここから話を伸ばすことは可能だ。


 だけど、今は、話を端的にまとめないといけない。


「これで、過去の精算は終わり。皆で、今を見ていきましょう!」


 これで、僕と羽衣との間に出来ていた壁は無くなった。


 ただ、あの2人は、新クラスでどうなるのか。


「ちなみに、羽衣の高等部の制服姿の写真」

「うわぁ〜〜可愛い!学年カラーは、赤だったよね。何だか、羽衣ちゃんらしいね!」


 琴葉さんに、羽衣の高等部の制服姿の写真を見せた。


「明日、高等部の入学式だからね」

「1年遅れではありますが、同じ舞台に足を踏み入れまする!」


 羽衣が胸を張った。


「ちなみに、昨年の中等部の体育祭は、陽葵の体操服借りてたから1人だけ赤色中で目立ってた」

「確かに!物凄く目立ってるね!」

「えっへん!」


 何故か、さらに羽衣が胸を張った。


「明日から同じ校舎なんだねぇ〜〜敷地は一緒だったけど」

「だねぇ〜〜私は、愛しの詩季にぃと一緒に学校に行くのだ!」

「お兄ちゃん大好きを隠すつもりないんだね」

「そりゃ〜もう。自慢の兄ですから」


 目の前に広がるのは、姉妹のように仲良かった頃に戻った2人だ。



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