296.次期当主
「どうなることやぁ〜〜らぁ〜〜」
「どうなることやぁ〜〜らぁ〜〜」
屋敷の一室。
人が少ない地域のため、夜中になると星空を見る事が出来る。
「何か楽しそうね」
「誠子か」
「何か、清孝が不気味な声出してるから魂が抜けたのかなぁ〜〜と思って」
「勝手に、旦那を殺すな!」
星空を眺めながら今後の事を考えていると、長年のパートナーである誠子が入ってきた。
息子の聡の影響で籍は別々だが、事実婚的な感じで一緒に生活している。
「次期当主は決まりました?」
俺も今年の誕生日で70代に突入する。
歴代の当主が引退して当主の座を譲った年齢の平均が、74.3歳。
俺もそろそろ引退の歳ではある。
だが、問題点として、次期当主候補が育っていない。
「……本来なら聡に次期当主の教育を施していたい時期ですもんね」
「……出て行ったからな」
黒宮家の歴代の掟というか家のルールで、黒宮家を継ぐのは長男または長女と決まっていた。
聡には双子の姉が居たが、姉は高校に進学する際に家から出て行った。
だから、聡に、この家を継がせるべく教育などに熱を入れたが、聡のプライベートに必要以上に干渉しすぎた。
それに反発した聡は、家から出て行ってしまった。
次男からは、当主になるべき教育をしてこなかったので、私たちは、孫たちに期待していた。
「……血筋的にも……あなたの直感的にも……詩季くんに一目置いているんでしょ?」
誠子にはバレているか。
「一目置いていないと取引先にデータを取りに行ってもらうなんてことしないもんね」
「……時間がないからな。俺としても80までは頑張るつもりだけどな」
これまで、真司郎や剣に次期当主として期待して育ててきたが、期待通りの成長曲線を描けていない。
「……それで、小夜の子どもはどうなの?」
「ずば抜けていると思うよ。だけど、顔が広がり過ぎているからダメだ」
高校入学を機に家から出て行った長女。
長女にも子供がいるが、色々な意味で、当主に据えるのは難しいだろう。
「でもさ、詩季くんは当主に興味無さそうだね」
「……真司郎を次期当主に推しているみたい」
「だよね。あの2人仲いいもんね」
次期当主として一目置いている詩季は、黒宮家の一員になる気はあれど、当主になるつもりは無さそうだ。
むしろ、仲良くなった真司郎を当主として推薦しているまである。
「……私的にさ、当主としての器を持っているのは、小夜の子ども。詩季くんもそれに近いもの持っているけど、タイプ的にはナンバー2」
「よく見ているな」
誠子は、俺が持っている評価をそのまま言ってくれた。
「何回も言うが、小夜の所の子どもは目立ち過ぎだ。政治家にはなれるだろうが、家の当主は無理だ」
「となると、候補は居なくなるよね。そうなると、1番能力のある詩季くんなんだよね」
「そうだ。だけど、本人が自分はナンバー2タイプの人間だと自覚してしまっている」
詩季は、影武者タイプの人間だ。
自分から積極的に表に立って指揮を取れるタイプじゃない。
詩季自身に、人を引っ張る上でのカリスマ性が無いのだ。
だからこそ、自分自身が1番上に立った時に苦労する道を想定しているのだろう。
「清孝はさぁ、詩季くんが真司郎くんを形だけの当主にして2番手で引っ張ろうと考えていると思ってる?」
「そうだとは、思うけど。誠子は違うのか?」
誠子との間に認識の違いが出た。
「カリスマ性のある人間は、その反動で無能な人間も集めてしまう。だけども、カリスマ性を維持する本能的に、その無能な人間までも抱えてしまう事になる」
「だから、そのサポート役が必要なんだろ?」
「詩季くんみたいな、ナンバー2タイプの子はね。人を見る目は確かだよ」
「……!!」
誠子の評価を聞き椅子から立ち上がった。
次期当主の人材をどうするかで頭が一杯だった事も影響しているのだろう。
こんなにも簡単な事を見落としてしまっていた。
「人を見る目がある詩季が推した人物は、器があるかもしれないな」
「そういう事」
「なら、もう少し見ていようかな。聡への断罪ももうすぐだしな」
「やっぱり、断罪されるのね」
誠子は、悲しそうにしている。
俺らだって自分達の失態を実の子どもに断罪されたんだ。
聡は、同じ事を繰り返したんだ。
親は子に似るとも言われるが、こんな所は似なくてもいい。
子どもに断罪されるなんて。
「でも、それが1番聞くんだよ。それで効果がないならもうどうしようもない」
「……そうだね」
「あいつは理想を見すぎたんだ。友情があれば何でも解決すると勘違いしたんだ。それが、大きな間違いだと今でも気が付いていない。言っちゃ悪いが、頭がお花畑な連中だ。警察組織すら舐め腐っている」
「逮捕、されちゃうの?」
誠子の心配も解る。
「高梨誠は間違いなく逮捕されるだろうな。もし、高梨誠の逮捕の際に、警察を妨害するなどの行為をしたら逮捕になるだろうな」
「そう……」
「あぁ〜〜もう。俺らよりもヤバい事しているじゃねぇかあいつは。理想を追いすぎなんだよ」
耐えきれずに、書斎の中で大きな声を出した。
理想を負うことは、悪い事では無い。
むしろ、いい事だ。
だけど、理想を負いすぎた結果が、今の結果だ。
警察組織までもが動いている。
黒宮の力を使えばもみ消すことは出来るだろうが、もう一方の事で下手に動けない。
いや、これ以上動けば、黒宮家が崩壊する事だって有り得る。
「流れに身を任せるしかないな」




