295.アイアンクロー
「じゃ、じゃぁ〜〜ん!」
羽衣は、高等部の制服を身にまとってクルクルと回っている。
「じゃ、じゃぁ〜〜ん!!」
余程、嬉しいのか、自分自身で効果音を付けて喜びを表している。
何だか、僕に対して圧力を感じるが知った事ではない。
「じゃ、じゃぁ〜〜ん!!!」
段々と声が大きくなっている。
「借りていた中等部の服を返さないとダメだからまとめたよね?」
「おいコラァ。可愛い妹が、高等部の制服姿を疲労してんだろ。感想の1つ位述べろやぁ。あぁん?」
羽衣が胸倉を掴んで、僕に語りかけてくる。
何処でそんな汚い言葉を覚えてきたのか小一時間使って問いただしたい。
まぁ、アニメの中のキャラクターのセリフを引用しているのだろう。
母さんに祖父母は、そんな後悔を案の定微笑ましく見ている。
「苦しいんだけど?」
「妹が新しいぃ〜〜制服姿をお披露目したんなら、兄として言うことあるよな。あぁん?」
「わぁ〜〜かわいい〜〜かわいい〜〜」
「んでぇ、棒読み何だよ!気持ちを込めろ。気持ちを!」
「妹に……首を……締められています……助けてくださいぃ……ウッ!」
「何で、そこだけ気持ちを込めるんだよ!」
母さん達は兄妹漫才を見て、お腹を抱えて笑いだした。
羽衣は、解放してくれた。
「ふぅ〜〜三途の川が見えた気がしますよ。暴力的な妹を持つと大変ですね」
「そんなに強くしてないでしょ?」
「でも、可愛い妹に胸倉掴まれるのは、首を絞められるのと同じなんだよぉ〜〜」
「そこの可愛いは、感情を込めるんだ!」
羽衣は、悔しそうな表情だ。
「羽衣。詩季がからかって来る時は、どんな時だっけ?」
「母さん!」
突如として、母さんから助け舟が入ってしまった。
すると、羽衣はニマニマしだした。
「可愛かったんだぁ〜〜だから、意地悪したんだぁ〜〜」
「……むぐぐっ」
待ってましたと言わんばりに、ニヤニヤしながら、僕の頬を突っついてくる。
「素直に、可愛いと言えば良いでは無いか!まぁ〜〜素直じゃない所も、詩季にぃさんなんだけどぉ〜〜」
羽衣が反撃してきている。
ちょいとばかり、イライラする。
「羽衣。感想を伝えるから」
「待ってましたァ!」
羽衣は、僕と目線を合わせてくれた。
何とも兄想いな妹だろう。
「グハァ!」
「高等部の制服、可愛いよ」
褒めてもらえると思ってワクワクしていた、羽衣の頭をグリグリしてからアイアンクローをお見舞いした。
「か、可愛いって、褒める、態度じゃ、ない」
「普通に言われるのは、嫌なんでしょ?」
母さんは、「兄には敵わなかったか」と勝敗判定がなされた。
「ぷはぁ!」
解放された羽衣が隣の椅子に座った。
「まぁ、可愛いよ。しっかりガードする所はすること」
「解ってるよぉ〜〜過保護だなぁ〜〜」
羽衣は、納得したように腰掛けた。
「陽葵ちゃん、今日、取りに来るの?」
「もうすぐ来ると思いますよ?」
ピンポーン♪
母さんが、出迎えに行ってくれた。
「お邪魔しまぁす。って、羽衣ちゃん、高等部の制服似合ってるね!」
「でしょ!詩季にぃ、素直に褒めてくれないんだよぉ〜〜」
「えぇ〜〜素直に褒めた方が良いんだよ?」
「……うん」
陽葵に注意されると弱い。
「あぁ〜〜陽葵ちゃんには素直に従うんだぁ〜〜」
「うっさい。バカ妹」
「バカとはなんだバカとは!」
僕と羽衣が兄妹喧嘩していると、陽葵は母さんに挨拶していた。
母さんも陽葵の事を気に入ったようだ。
段々と仲良くなっている。
「陽葵ちゃん。借りてた制服返すね」
羽衣が、借りていた制服を陽葵に手渡した。
「うん。役立ったなら良かったよ」
「このまま持っていてもいい?」
「……?全然、大丈夫だけど?何で?」
「いやぁ〜〜詩季にぃが、陽葵ちゃんの着ていた制服でにお――んぎゃあ〜〜いたぁぁい!」
羽衣の頭の両サイドでグーの手をしてグリグリ攻撃を味合わせた。
「いたぁいよ――ぐふぁ!」
後ろからのグリグリ攻撃に対して、抗議しようとこちらを向いてきた羽衣に、再び、アイアンクローをお見舞いした。
「に、2回、目……」
「羽衣ちゃ〜〜ん。言っていい事と悪い事あるよねぇ〜〜?」
「す、すみません……」
「よろしい」
アイアンクローから開放された羽衣は、頭を軽く振っていた。
「痛くしすぎた?」
「いや、丁度いいマッサージだったよ」
「そっか」
頭を振ったのは、力を入れ過ぎた事が影響したと思ったがそうでは無かったようだ。
「2人、相変わらず仲良いですね」
「そうだねぇ〜〜母親として兄妹仲良いのは本当に助かるよ。陽葵ちゃんもこの前は、家で詩季と仲良しだったんでしょ?」
「そ、それは、は、はい……」
今度は、母さんが陽葵に何か吹き込んでいそうだが、いい大人なので大丈夫だろう。
「そっか。仲良しはいい事だよ。まぁ、何かあれば大人の私が責任をとるから」
「は、はい。私達も自分達の年齢に合ったお付き合いをしていきたいと思います」
「いいね!」
母さんの中で陽葵の評価が、さらにあがったようだ。
「詩季から聞いていると思うけど、将来的には、あそこで2人で住んでもいいからね。そこは、詩季と良き相談して」
「は、はい」
何はともあれ、両家共々、いい関係性を築けていけそうだ。




