293.エンターテイナー
「やっほぉ~~い!!」
「わあぁ~~!!」
動物園に併設されている遊園地なので、ジェットコースターもそんなには大きくない。
だけど、僕と陽翔くんを除いた4人が楽しそうに乗っている。
「陽葵と奈々楽しんでるな」
「ねぇ~~。陽翔くんが絶叫系苦手とは驚いたよ」
「……陽葵のせいだよ」
ジェットコースターに乗る際に、僕は係員の人に止められた。
それを好機と見たのか陽翔くんもジェットコースターに乗るのを辞退したのだ。
「何かあったの?」
「……中等部1年の時に家族旅行で東京の大きなテーマ―パークに行ったんだよ」
中等部1年の時の夏休みに家族旅行に行った際の東京の大きなテーマ―パークで起こったようだ。
テンションが上がった陽葵によって陽翔くんは振り回されたそうだ。
断ろうにも、陽菜ちゃんもテンションが上がっていたこともあって断れなかったと。
テンションハイマックスの陽葵と陽菜ちゃん姉妹の手によって絶叫系に振り回されたようだ。
その際に、桜さんにストップが掛かるまで振り回されたことがトラウマのようだ。
「あはは。陽葵らしいね。ていうか、当時の陽菜ちゃんの年齢的に乗れる乗り物なくない?特に、絶叫系だと」
「……うるうるとした目で、見られたら断れないだろ?」
「絶叫系が苦手になった理由の半分は自分自身にありませんか?」
「……ノーコメント」
陽翔くんが強制的に話を遮ったタイミングで、ジェットコースター組が降りてきた。
「おかえり」
「ただいま。楽しかったよ♪」
陽葵が僕の近くに歩み寄ってきてくれた。
小さいとはいえジェットコースターに乗れたことが楽しかったようだ。
楽しそうな陽葵の表情を見て僕の楽しいと思える。
「次、何処行く?」
「それなんだけどねぇ~~さっきの係員の人がメリーゴーランドなら皆で乗れるって!」
奈々さんからの情報を聞いて、メリーゴーランドに向かう。
券売機で乗車券を購入して列に並ぶ。
並んでいなかったので、今乗っている人との入れ替わりで乗れるだろう。
「どうぞぉ~~」
係員の案内があったので、何処に乗るかを選ぶ。
「お馬さんに跨るより椅子に座れる所がいいよね」
「うん」
僕と陽葵は、かぼちゃ柄で中に椅子がある所に入った。
「私たちもいい?」
僕と陽葵が向かい合って座ったタイミングで奈々さんと瑛太くんが入って来た。
定員が4人なので問題はない。
陽葵が、僕の隣に移動してきて向かい側に2人が座った。
「どうしたの?」
「いやぁ〜〜私達が乗ろうと思った所に、ちっちゃい子どもが興味を示してね。そこは、お姉さんとして譲らないとね!」
「それは納得!」
小さい子どもと乗りたい所が被ってしまったようだ。
後から乗りたいと思った子どもが別の所を探そうにも、ほとんど埋まっていたので友人の僕達が乗っているここに目をつけた奈々さんと瑛太くんが子ども達に譲ったのだ。
「ごめんねぇ〜〜カップル水入らずだったのに」
「いいですよ」
「それでは、動きまぁ〜す」
係員さんのアナウンスの後に、メリーゴーランドは動き出した。
「おっ、はるのんと陽翔くん発見!」
春乃さんと陽翔くんは、隣同士のお馬さんの乗り物に乗っていた。
「おぉ〜と、先頭は陽翔馬!続いて、春乃馬が追っている!さぁ、解説の詩季さん。この勝負はどちらが勝つと思いますか?」
「――このしょうもない茶番から降りていいですか?」
「んなぁ!解説がやる気が無いとは盛り上がらない!」
メリーゴーランド内で、競馬でも出来るわけがなかろう。
「勝敗に関しては、2人が乗っているお馬さんがどちらが前方に固定されているかで、勝敗が決まるでしょう」
「うわぁ〜〜冷めるわぁ〜〜」
「瑛太くん。あなたの彼女さんではありますが、手刀お見舞いしてもいいですか?」
「うむ。許可しよう」
「――あばば。彼女を売るなぁ〜〜」
と、流石に人様の彼女さんに手刀はお見舞い出来ないので振りだけして黙らせた。
「いやぁ〜〜久しぶりにメリーゴーランド乗ったけど楽しかったぁ〜〜」
「ねぇ〜〜」
グループ内のモチベーター的立ち位置の陽葵と奈々が楽しそうにしている。
それに釣られるように、皆が笑顔になっている。
「お姉ちゃん!」
「おっ、さっきの少年少女じゃん!」
「さっきは、譲ってくれてありがとう!」
「ありがとうございます!」
奈々さんが乗り物を譲ってあげた少年と少女がお礼に来てくれたようだ。
少年が代表してお礼を言って、少女が続いてお礼を言った。
奈々さんは、しゃがんで視線を合わせて2人の頭を撫でてあげた。
「偉いのぉ〜〜お礼言えて。私の彼氏さぁ〜〜お礼が適当でのぉ〜〜」
おいコラ。
無垢の少年少女に何を吹き込もうとしてやがる。
後方で親御さんが見守っているようだが、微笑ましく眺めている。
「えぇ〜〜お兄ちゃんそうなの?お礼はしっかり言わないとメッ!だよ」
瑛太くんは、少女から注意を受けてタジタジになっている。
「わぁ〜い。叱られてやんのぉ〜〜」
「「やんのぉ〜〜」」
あぁ、なるほど。
これは、奈々さんなりに子供達が楽しめるための催しなのだろう。
普段、強めのツッコミを入れる瑛太くんが大人しそうにしているから、奈々さんの意図を理解しているのだろう。
「じゃ楽しめよぉ〜〜」
「「バイバァーイ!!」」
子ども達は、親御さんたちと別の遊具に向かって行った。




