291.4人
「あれ?2人ともお仕事?」
本来なら修羅場となるだろうこの場面。
僕と春乃さんの特殊な関係を知っているからこそ、穏便に済んでいるとも言える。
「陽葵ちゃんと陽翔は、お買い物?」
「うん。お母さんに夕ご飯のお遣い頼まれて」
これが、本当のお遣い何だと思う。
夕ご飯に必要な材料を子どもにお願いして、買ってきて貰ってお駄賃をあげる。
これが、普通だと思う。
僕と春乃さんの場合は、会社に訪問してデータを貰い一件事に特別報酬を貰っている。
ちなみに、桜宮はアルバイト禁止たが家族経営の商店のお手伝いに関してはアルバイト扱いでは無いようだ。
だから、春乃さんが僕の従者として働いている事も僕が黒宮家の一員として働いている事も、家族間のお手伝いと分類されている。
まぁ、分類せざるを得ないのかもしれない。
僕自身からは話していないが、学校の上層部である幹部クラスの人には、伝わっているのかもしれない。
「そうなんだ」
「サラッと質問に質問で返されたけど、2人はお仕事?」
「高額報酬のお遣い」
「そ、それは、あ、怪しいやつ?」
「列記とした実家ルートのお遣い」
社会問題となっている働き方をすれば、清孝さんを始めとする黒宮家の重鎮達が、マスコミを前にジャンピング土下座をしないといけなくなるだろう。
ジャンピング土下座は、言い過ぎだが。
分かりきった冗談を僕が言ったのに、陽葵は乗っかったあたふたしてくれるから面白い。
「お遣い終わったから、遅めの昼食を食べに行こうとしてたところ。春乃さんには、福利厚生でご馳走する予定」
「そうなんだ」
西原兄妹と僕と春乃さんで向かい合っているが、2組のカップルだ。
「陽葵は、もう食べたん?」
「食べた」
「スイーツは入る?」
「甘い物は、別腹!」
「なら、一緒に行きますか?」
「いく!」
「では、2人とも行きましょう!」
後方で、「俺の意思は?」と言いたそうな陽翔くんは、強制的に着いていかせる。
それと同時に春乃さんは、頭を抱えながら1本の電話を入れたのだった。
〇〇〇
「ごゆっくりどうぞぉ〜〜!」
「ありがとうございます」
店員さんに個室に案内されて、しっかりとカップル事に向かい合って座った。
すると。
「ねぇ、バカ主人。急に、人数増やさないでくれる?2人で予約してたし、黒宮以外の人とご飯するなら個室にしないといけなくなるんだけど?一応、スーツなんだから!」
防音が聞いた部屋に、春乃さんのお怒りの声が響く。
「いやぁ~~会食に人数が増えるのはよくあることじゃん?」
「そうだけどさぁ。せっかく、勤務時間終わったのに同じような事をさせんの!」
春乃さんは、勤務時間外に普段の勤務をさせられた事に対してご立腹な様子だ。
「いいじゃん。タダ飯食べられるんだから、それ位」
「むぎぃぃ」
春乃さんは、悔しそうな表情になっている。
「それにさ、お互いの彼女・彼氏と会ったのに2人でご飯はまずくない?」
「……あ!」
春乃さんは思い出したかのように、陽翔くんに謝っていた。
陽翔くんは、ペコペコと頭を下げて誤っている春乃さんを宥めていた。
「……時折、自分の人格が解らなくなるんですよね。黒宮家としての白村詩季。黒宮家の一員としての白村詩季。多分、春乃さんも同じなんじゃないの?」
「……それだね」
僕と春乃さんに共通している部分がある。
黒宮家と関わりだしたのは、春乃さんが先だが1年以内だ。
真司朗くんや剣くんのように10年以上関わっているわけではない。
「プライベートの時に黒宮家の時の人格が影響するときもあれば、逆もあるんだよね。あっ詩季くん。私、これ」
春乃さんは見ていたメニューの中で、予告通りお高めのメニューを僕に注文するように伝えてきた。
僕も食べたいメニューをタッチパネルで注文した。
「2人もスイーツ注文してください」
陽葵と陽翔くんにタブレットを渡してスイーツを注文してもらう。
2人が注文を終えたタイミングで、4人で雑談を始める。
「無理してないか?2人とも」
陽翔くんが心配してくれた。
陽翔くんが何を心配しているかは、察している。
陽葵も同様に心配そうに見てくれている。
「ぼちぼちだねぇ~~春乃さんを巻き込んでいるのはごめんだけど……」
「……私としても、詩季くんが働いてくれればたすかるからねぇ~~お父さんのお仕事の関係でね」
ある種の利害関係の僕と春乃さん。
「黒宮家を継ぐの?」
「継ぐかどうかは考え中。血筋的には継がなきゃだめなんだけど。僕はナンバー2的なタイプの人間だからね」
この先の人生で、黒宮家内で働こうとは思っている。
コネだと言われても仕方がない。
言わせないだけの結果を残せばいいだけの話だ。
だけど、当主になるかならないかは別問題だ。
「でも、将来的に陽葵に頼り切りになるようにはしないつもりだから」
「そっか」
「そこは、ご心配なく」




