282.サバを詠む
コン♪コン♪コン♪
「はぁ〜い!」
「白村詩季です」
「どうぞぉ〜〜」
中の人から入室の許可を貰えたので、部屋に入る。
春樹さんは少しドライブをすると、僕たちを降ろして何処かに走っていった。
「おはようございます。葉月さん」
「詩季くん。おはよ。琴葉はちょっと待ってね」
「はい?」
そう言えば、琴葉さんが居ないと思った。
バタバタ、バタン!
奥の部屋から、上が制服のポロシャツ下が体操ズボン姿の琴葉さんが出てきた。
「お、おはよ!詩季」
「おはようございます」
「琴葉!何て、格好で出てきてんの!急いで、スカート履きなさい!」
「ごめん〜〜」
琴葉さんは、急いでスカートを履いて葉月さんの隣に座った。
「琴葉さん。今日は学校行く用事があるの?」
「ないんだけど、詩季が住吉さんと一緒に来るの聞いて、制服は着ないとなぁ〜〜って」
色々あったが、琴葉さんはあまり変わっていない。
何処か抜けていて、たまに斜め上方向の行動をする。
「別に、私服でいいですよ?わざわざ、体操ズボンスカートの中に履いてまで」
「癖なんだなら仕方ないでしょ?中学からずっと履き続けてんもん!」
何時以来だろう。
琴葉さんとこんなにも明るくお話が出来ているのは。
桜宮の中等部に入った辺りか。
幼馴染間でギスギスしだしたのは。
まぁ、ギスギスしなくても、琴葉さんとのお付き合いは上手くいかなかったと思う。
だって、スカートを履くと言う一種の着替えの工程を見たが、琴葉さんには興奮しなかった。それは、中等部時代から変わらない。
「タイツも履いてないけど寒くない?」
「私、タイツ嫌いなんだよね。何か、感触が苦手で」
「女の子にも色々あるんですね」
葉月さんは、僕と琴葉さんのやり取りを微笑ましく見ている。
「葉月さん。どうしたんですか?」
「いやぁ〜〜ねぇ。私たちが変に介入しなければ、関係が壊れる事は無かったのかなぁ〜〜って」
親としての罪悪感だろうか。
以前の母さんと同じようか表情をしている。
「お言葉ですが、多分、詩季様は琴葉さんに対して女性としては、見ていないと思います。恐らくは、岡さん達含めて保護対象的な感じかと。琴葉さんは、自身の行いを悔いて反省した。だから、再度、友人としての交流を良しとしたのだと思います」
春乃さんは僕が言葉に詰まると予想して、このタイミングでサポートを入れてくれた。
「そうだよね。私とHしようとしたけど無理だったもんね。西原陽葵さんとは出来たんでしょ?」
「うん。ごめんね」
「謝らないで。私の詩季との接し方に問題があったんだし」
色々と踏み込んだ過去のお話をした。
ある種の通過儀礼的な物だと思う。
お互いが持っているわだかまりを無くすための。
「話を戻しまして。本日訪問しました理由として葉月さんの今後のお仕事に関してですけど」
「う、うん」
コン♪コン♪コン♪
「は~い」
「詩季様、連れてきました」
「どうぞ~~」
部屋に、春樹さんと1人の女性が入って来た。
「み、美沙さん!?」
「葉月さん。お久しぶりです」
世間は狭いとも言うのか。
それとも、黒宮家が沢山の人脈を持っているというし、美沙さんもその一貫なのかもしれない。
「こちらは、住吉美沙さん。こちらの春乃の母親でありセクハラ親父の春樹さんの妻です」
「……えっ?!」
葉月さんは驚いている。
「え、え……えぇ~~」
「お母さん。どうしたの?」
葉月さんの動揺している姿を見て葉月さんも戸惑いを見せている。
ちなみに、後方でセクハラ親父と紹介された春樹さんは唇を噛みしめている。
その隣は、美沙さんが春樹さんの肩に手を置いて怖い雰囲気を出していた。
「美沙さん」
「詩季様。どうしたの?」
「美沙さん。幾つ、サバ詠んで未来創造で働いていたんですか?」
「サバを詠んでいたなんてぇ~~ただ、新卒の受付嬢として働いていただけですよ?」
「20歳もサバを詠める容姿ですもんね。まぁ、勤務態度には問題大ありですけどね」
「あっ気づいてた?」
「受付嬢しながら社長を務めている会社の仕事をしていたでしょ?」
葉月さんは、僕と美沙さんの会話を聞いて頭の中を整理させていた。
「葉月さん。整理できましたか?」
「う、うん……年上だとは思わなかった……」
母さんや葉月さんは、38歳でギリギリ30台だ。
一方の美沙さんと春樹さんは同い年だが、45歳。
「葉月さん。ごめんなさいね。黒宮家からの意向もあって受付嬢として潜入していたんだ」
「そうなんだ」
僕は、持って来ていた書類を見せた。
「葉月さんには、母さんと同じ所で働いてもらうことになります。その際に、黒宮家に推薦してくれたのは美沙さんです」
「そ、そうなんだ……」
母さんだけの推薦だと弱かっただろう。
だけど、そこに美沙さんが加わった事が大きい。
「お世話になりたいと思っています」
「よろしくです」




