281.介して
「へぇ~~お付き合い開始できたんだねぇ~~」
翌日、黒宮家関連の用事のため春樹さんの運転する車で、葉月さんと琴葉さんが泊っているホテルに向かう。
後部座席には、僕と春乃さんが乗っている。
「うん。昨日、告白された」
「おめでと」
「うん」
友人として祝福してあげたい。
「でも、陽翔くんには謝らないとなぁ~~お付き合い翌日に、別の男とお仕事入れたなんて」
「あはは。陽翔くんも拗ねてたなぁ~~でも、詩季くんなら安心なんだって」
「まぁ、僕には陽葵が居ますからね」
「それに、私は友人や上司としてはいい人だけど恋人としてはタイプではないね」
「それは僕も」
移動中の車内で、普段の生活の雑談をする事はよくある。
今回は、春乃さんと陽翔くんの恋に関してだ。
「詩季くんの時は、陽葵ちゃんのパンツ見たんだよね」
「まぁうん。パンツ見られた事よりスポーツ用のパンツ見られた事が恥ずかしかったみたい」
「あぁ~~確かに。私も陽翔くんにスポーツ用のダサいの見られたら恥ずかしいかも」
「僕に見られたら平気だと」
「な訳ないじゃん。好きな人以外に見られるのは嫌だよ。ギリ、スパッツね」
春乃さんとは、友人になってから長く実家関連の主従関係になってからもそれなりの期間が経つ。
ある程度の砕けた話はするようになっている。
「それで、その話をするってことは、そっちもなんかハプニングでもあったの?」
春乃さんが、僕の告白の際のハプニングの話をしたので、春乃さんの方でもあったのだろうと思った。
「私はねぇ~~陽翔くんにカラオケに呼ばれてね。そこで、告白されんだろうなぁ~~って思ったんだけど、その時に、陽翔くんがジュース溢してスカート濡れてね」
お互いの惚気話だ。
「何か緊張していたし、スカートベチャベチャで気持ち悪かったから陽翔くんにドアの前のガラス立ってもらって着替えてなぁ~~もちろん、こっち見てもらってね」
「それ、陽葵の入れ知恵もある?」
「うぅ~~ん。咄嗟にね。別に陽翔くんになら見られても平気だと思ったから」
僕と春乃さんは、色々と積もる話をしていた。
運転席の春樹さんの存在を気にせずに。
「お、おい~~詩季様に春乃……特に、春乃。娘の恋愛事情の細部まで聞きたくないぞ」
「えっ、娘の恋路に興奮――」
プー♪
春樹さんが額をハンドルにぶつけた。
その拍子に、クラクションが鳴ってしまった。
丁度、前方に止まっていた車が、信号が変わったことに気が付いていなかったのでタイミングは良かった。
「春樹さん。下手に首を突っ込まない方が良いのでは?」
「痛感した」
春樹さんは、大人しく運転に集中するようだ。
「詩季くんの言った通りに、チョコ渡す時に本命って伝えたら動いたよ!」
「それは、良かったです。まぁ、その分、僕があるしゆ振り回される自体になりましたけど」
春乃さんに本命チョコを貰った後の陽翔くんは、パニックになったごとく僕に色々と相談してきた。
僕は、これは陽翔くんにとってもメリットのあるやり返しだと思ったので、内部事情を春乃さんに話す事にした。
「何かあったの?」
「春乃さんから本命チョコ貰った夜に電話かかって来たんですよ。「どうしたらいいぃ〜〜」的な」
「へぇ〜〜!それで、それで!」
春乃さんは、興味津々に内容をこと細かく知りたそうだ。
内部を知って陽翔くんをいじり倒す算段だろう。
「どうしたらいい?どうしたらいい?を何回も聞かれた。内心、嬉しかったんだと思うよ。クールぶっている癖に、臆病だからね陽翔くんって男は」
「確かに!そっかぁ〜〜混乱するほど、嬉しかったんだぁ〜〜」
春乃さんは、嬉しそうなニコニコと笑っている。
陽翔くんとお付き合い出来て本当に嬉しいんだな。
「あの時に、動いて良かったですね。春乃さんには感謝しています」
「うん。あの時、動いていなかったら、皆で仲良く出来ていなかったかもだからね」
春乃さんが、僕の婚約者候補として桜宮に入ってきて、春乃さんが学校での僕の想い人に自分の気持ちを素直に話してくれなければ、今の安心出来る関係は無かっただろう。
「まぁ、末永く仲良くしてよ」
「そっちこそ!」
「でもさぁ、僕が陽葵と結婚して春乃さんが陽翔くんと結婚したなら、僕達親戚みたいな関係にならない?」
「あぁ〜〜多分、清孝さん。それ、狙ってたかも」
僕と春乃さんは、改めて、清孝さんの強かさに恐れをなす。
「お互いの想い人が兄妹。そして、僕達は恋人に強い恋心を抱いている。つまりは、簡単に別れない」
「それが、政略結婚と同じ意味をなす」
「黒宮家と住吉家にとっては、西原姉妹を介する事にはなるけど、僕達に自由恋愛をさせつつも政略結婚に近い物を得ることが出来る」
僕と春乃さんが辿り着いた結論に、運転席の春樹さんが冷や汗をかいているのが解る。
「「春樹さん(お父さん)。新婚旅行のお金の一部は負担してくださいね??」」
「春乃は解るが、詩季くんまでもか?!」
「「はい!!もちろん、黒宮家にも請求しようかと思います!!」」
前方から、くっつけてはいけない2人を主従関係にさせてしまったと焦っている雰囲気を感じた。




