269.黙って
「中等部の時の僕ですか……」
「だって、そんなに明るくなかったじゃん?」
奈々さんにとって、中等部の僕は明るくない人と言う印象だったそうだ。
「ねぇ。詩季って中等部時代は冗談とか言えなかったの?」
「言わなかったよね?」
「うん!」
春乃さんの問いに陽葵と奈々さんは同意していた。
中等部時代は、あまり表に出ようとは考えていなかったと思う。
言うならば、黒子に徹するという感じだ。
「昨日の帰りね……生徒総会で壇上に居る時に……」
ちょっと待て。
春乃さんは何を言おうとしている?
「壇上に居る時に?」
陽葵が食いついて来た。
奈々さんも何だか興味津々そうだ。
「女の子のスカートの中除いているんだって」
「うぐッ!」
隣に座っていた陽葵に胸倉を掴まれた。
これは春乃さんからの仕返しか?!
「ねぇ、壇上でそんな事してたの?女の子のスカートの中……事故で見ちゃうなら仕方ないけど……見たいならズボンでもパンツでも私が――」
「陽葵?!みんなが居るよ?!昨日、春乃さんにそういう話をしましたけど。わざと見てません!!」
陽葵の眼は怒っている。
これは、今度、春乃さんに無理難題を吹っかけて困らせてやるか。
「陽葵ちゃん。離してあげて」
春乃さんのお陰で僕は解放された。
「昨日ね、詩季くんにこの事相談しようとしたら私の緊張解そうと思ってこの話してくれたの」
「そ、そうだったんだ」
「彼の優しいところだよね。話題選びが下手過ぎるけど……一応、手刀はお見舞いしたから」
「グッジョブ!」
何とか誤解は解けたようだ。
「……ホッ」
「でもさぁ、詩季くんてここに居る3人のスカートの中見たことあるよね?」
胸を撫でおろしたのも束の間。
春乃さんが更なる爆弾を投下してきた。
「みんな?はるのん、しきやんに見られた事あんの?」
「うん。夏休み前に事故で……スパッツ見られた」
女子3人のトークが始まった。
「へぇ~~」
「奈々ちゃんは、詩季くんの前でシャツ直しするし、陽葵ちゃんは詩季くんの前ならシャツ直しするし何よりそれ以上の見せているだろうし……」
「うん」
3人さんやい。
「あの~~本人が居るんですけど?」
「「「黙っていて!!!」」」
○○○
「詩季にぃさん。学校でそんな事してたんだぁ~~しかも、美女3人のスカートの中まで……」
いつの間にか羽衣まで混ざっていた。
これからは、緊張をほぐす為の話題選びには注意しないといけないな、
「ところで、羽衣はなんでいんの?」
「面白そうなお話しているなぁ〜〜って思って!」
獲物を横取りするハイエナのように、面白そうな話がある所には、顔を出すか。
「春乃ちゃんと面白いお兄さんの事だよね?」
「お、面白いお兄さん?!」
「陽翔くんの事です。僕の送り迎えしてくれていた時にそういう印象を抱いたみたいです」
「へ、へぇ〜〜」
羽衣がここに居るなら使えるものは使うか。
「羽衣はケニーくん付き合うまでどんな感じだった?デートとか」
イギリスでは、頬にキス等は挨拶みたいな感じですると聞く。
「デートとかはした。それで、ケニーくんから告白されたかな?私に合わせてくれたかな。向こうの挨拶とかも基本無かったし」
羽衣とケニーくんの恋愛も王道パターンだと思う。
「でもさぁ、私も詩季にぃさんと同意見かな。春乃ちゃんが動けばかなりの進展があるよ。陽翔さんも何かきっかけが欲しいんじゃないかな?自分が動くための」
春乃さんは、羽衣の言葉に真剣に耳を傾けていた。
「だからぁ〜〜頬っぺにチューでもしてみたらぁ〜〜」
「……っ!詩季くん!」
「了解」
「ちょっと、詩季にぃさん?何かなその構えは――イダァァ!グリグリやめてぇ〜〜」
春乃さんから「妹さんを黙らせて」とお達しが来たので頭グリグリして黙らせる。
恩を売っておけば、この後に振る仕事も笑顔で行ってくれるだろう。
「それで、羽衣は何の用件で来たの?」
「あぁ〜〜静ばぁが3人にご飯食べてくだって。時間もそろそろお昼時だから」
「あぁ〜〜なるほど。皆、食べて行ってよ」




