265.副校長
生徒総会が行われる体育館は、1週間ぶりに殺伐とした空気が漂っている。
生徒会メンバーは、全校生徒が集合後に守谷先生に呼ばれて体育館の舞台袖に繋がる出入り口から入って行った。
「定例の生徒総会が行われますが、生徒会の生徒に対して暴言を吐くような行動が見られれば、即刻、警告の対象になります。先生方、厳しく見てくださいね」
副校長が、一般生徒に注意事項を述べていた。
「詩季大丈夫か?」
「大丈夫。陽翔くんもよろしくお願いします」
今日も先週と同様に、陽翔くんにマイク運びをしてもらう予定だ。
「今日もマイク運びをすればいいんだな?」
「よろしく!」
陽翔くんは、舞台袖でマイクを手に持って待機していた。
「それでは、生徒総会を始めます」
副校長が開始を宣言したので、僕が先頭になって壇上に姿を現した。
全校生徒の8割以上は、僕たち生徒会に対して何か言いたげな様子だ。
しかし、副校長がくぎを刺していた事もあって喉を通り越して口から出るのをギリギリ耐えているようだ。
確か、投票の際は反対は6割だったのだが生徒会が約束を違えたと思って増えているのだろう。
「お、おい……説明しろや!約束と違うじゃないかぁ~~」
「そうだぁ。説明しろ!」
1人の生徒が我慢できなくて、不満を吐き出してきた。
すると、それに倣えと不満を爆発させていく。
「うるさいぞ。先生方、今、暴言を吐いた生徒を――」
「副校長大丈夫ですよ」
僕は、生徒会長の席に座ってマイクで副校長を制する。
「今日の生徒総会は主にこの話題でしょうからね。ただ、説明があるのに先んじて場を荒らす発言をするのは如何かと思いますけどね」
「……」
「……」
僕の発言に過激になろうとしていた2人の生徒は大人しく座りなおした。
「まずは、後夜祭以外の事を伝えますね。後夜祭先にしたらこれらの事の話が入ってこないでしょうから」
生徒会は、後夜祭以外の決め事を説明していく。
「……では、皆さんお待ちかねの後夜祭廃止に関して説明しますね。スライドでの説明後に質問の機会を設けたいと思います」
星川先輩にスライドでの説明をお願いする。
賛成 41%
反対 59%
この数字を基にして、後夜祭の廃止を決定したと。
後夜祭の廃止に関しての理由は、先週説明した通りだと。
「それでは、質問タイムにしましょう」
そう言うと、陽翔くんが舞台袖から出てきた。
「先週同様に西原陽翔くんに、マイクを運んでもらいます。もちろん……感情的なって彼に手を出したら即刻警告の対象になります」
陽翔くんを守るための警告を出した。
「では、質問どうぞ」
一斉に、手が上げられた。
陽翔くんの気まぐれで、2年生の1人男子生徒にマイクを渡した。
「後夜祭の廃止に関しては、反対が50%を超えたら廃案になるという約束でしたよね。何故、それを反故にしたのですか?」
僕の予想は的中していた。
ほとんど、話を聞いていなかったのだ。
「約束は反故にしていませんよ。むしろ、約束通りです」
「何処がですか?約束では、反対が50%を超えたらじゃないですか!」
思い込みだろう。
後半部分に関しては、そっちが勝手に盛り上がっていたから聞きそびれたものを。
「廃案の約束は、反対が50%を超えるかつ40%以上の大差が開いた場合です。今回の投票では50%は超えていますが、後半部分の条件が達していません」
体育館内にがざわめきだしている。
一部の生徒は、目を泳がせている。
目を泳がせている生徒は、先週の生徒総会で僕が出した条件をしっかりと聞いていた人なのだろう。
「そ、そんな条件は聞いていません!」
「言いましたよ。貴方たちのほとんどは、前半だけの条件を聞いて騒いでいたので後半部分を聞いていないだけでしょ?」
「そ、そんな事は……」
「貴方のクラスの一部の生徒は、何か納得している様子ですよ。その生徒は、しっかりと条件を聞いていたのでは無いですか?」
討論においての勝ち負けは、相手の切り札をどうやって潰していくかだ。
ただ、僕は真面目にこの討論をするつもりは一切ない。
「はい!」
この空気の中で1人の女子生徒が挙手をしたので、陽翔くんは、マイクを男子生徒から受け取ると3年生の女子生徒に手渡した。
「新聞部からの発行に、会長から廃案の方向に向かうと発言したとありますが――」
「それは、新聞部が勝手に変換しただけです。新聞部に対して伝えたのは、生徒総会で示した条件通りに進めると言いました。つまりは、新聞部の杜撰な取材とチェックを怠ったのかそもそもしっかり話を聞いていなかったかの顧問の責任です」
僕の予想通りに新聞部が記事にしていた内容で、質疑が来た。
これに関しては、僕の口から「廃案にする」なんて一言も言っていない。
新聞部が勝手に変換して書いているだけだ。
「新聞部には、生徒会からの注意を入れるつもりです」
さぁ、生徒達の持ち札は、だいぶ削がれたと言えよう。
「で、でも、俺たちは50超えたら廃案だと思ったんだよ!」
「そ、そうだ!それで、どうにかしろ!」
返し手が無くなった生徒達は、無理難題を吹っかけてきた。
僕は、副校長と守谷先生がどう動くかを注視していた。




