254.序列
「おかえりぃ〜〜」
「……」
バタン!
「陽葵?どうしたの?」
家に帰った。
お母さんが出迎えてくれたが、それに反応せずに部屋に入る。
ガチャガチャ。
反応を示さなかった私の事を心配して部屋に入ろうとしてくるが、鍵を閉めておいた。
「どうしたの?何か、あったの?」
「……」
誰とも話したくない。
今は、1人にして欲しかった。
「……落ち着いたら、出て来てね」
お母さんは、私の部屋の前から離れて行った。
数分後には、詩季と一緒に帰った陽翔が帰ってきた。
お母さんは、陽翔を寝室に呼んでいたので、陽翔から事情を聞くつもりなのだろう。
後悔しかない。
怖い。
良かれと思ってしていた事が、大切な人の事を傷つけてしまったのだ。
私は、浮かれていたんだ。
冬休みに詩季と初めてをして、絆が深まったと思って舞い上がっていたんだ。
自分が長い片想いを拗らせた恋愛をしていた事を忘れきっていた。
陽翔に春乃ちゃんは、そんな私達を遠目に見ていてくれたんだ。
そして、今回、私達がしようとした事は、詩季が幼馴染達としたりされたりしていた。その結果、詩季は、幼馴染達と喧嘩してグループを抜けた。
さらに、この件は私が1番してはいけない事だと、怒られてから気が付いた。
だって、陽菜は詩季が幼馴染達と喧嘩しなければ、死んでいたかもしれないんだから。
詩季くんのお陰で、大事な妹は救われた。
だけど、詩季は、幼馴染達と喧嘩して人間関係が壊れた。そして、脚の自由を失った。
「私が1番しちゃいけない事じゃん……」
詩季が怒った時に、「そんな事をするなら別れる」と言われた。
今は、喧嘩中なのだろうか。
それとも、もう愛想を尽かされたのだろうか。
明日からは、迎えに来なくてもいいと言われた。
もしかしたら、もう、関係を切られたのかもしれない。
メッセージを送って謝りたいが、怖い。
もし、私の連絡先を消されていたらと考えると怖くて送れない。
どうしたらいいのか。
考えが及ばない。
多分、今は、誰かと話したら八つ当たりをしかねない。
コン♪コン♪コン♪
部屋の扉を誰かがノックした。
私は無視する。
コン♪コン♪コン♪
コン♪コン♪コン♪
無視を続けるがしつこくノックされる。
コン♪コン♪コン♪
「うるさいんだけど」
「だったら、入れろ」
私は、部屋の鍵を開けて陽翔を部屋に入れる。
「よっ。盛大に地雷踏み抜いたな」
「何?からかいに来たの?」
「そうではないよ」
陽翔が何で、私に会いに来たかは解らないが、あの事は謝らないと。
「陽翔……」
「なんだ」
「勝手に介入してごめんなさい」
「いいよ。それに、もっとキツいお灸据えられたもんな」
陽翔は怒るどころか私の頭を撫でてきた。
「何さ、数分産まれるのが早かっただけで兄面」
「まぁ、兄だからな」
私は、私の頭を撫でている手をどけて貰いベットに座る。
「詩季……怒ってるよね」
「そりゃなぁ、地雷踏み抜いたんだからな」
「そうだよね」
私が踏み抜いて位はいけない地雷を踏み抜いたんだ。
怒られるだけでは済まずに、振られる可能性だってある。
「陽葵はどうしたいんだ?」
「……詩季と仲直りしたい。だけど、怖いよ」
拒絶されたらどうしよう。
そう考えると勇気が出ない。
「とりあえず、母さんに顔見せろ。心配してんだからな」
「うん」
私は、陽翔と一緒に部屋から出ると、お母さんがパンケーキを焼きてくれていた。
「お母さん?」
「失敗したんでしょ?まずは
甘い物食べて気持ちを落ち着けなさい」
私は、座って用意されていたシロップとホイップクリームをパンケーキにかけて食べる。
「美味しい」
「陽翔から聞いたけど、喧嘩したんだって」
「うん。私が悪い」
「そうだよね。私達一家が、絶対に踏み抜いてはいけない事だもんね」
パンケーキの甘さが口内に広がるが、少しばかりしょっぱい。
さっきまで泣いていたので、その涙の味だろう。
「でもさぁ、喧嘩したんなら、それだけ、詩季くんも言いたい事を言えているとも言えるよね!」
「え?」
「つまりは、詩季くんと陽葵は対等な恋人だってこと」
対等な恋人?
「中にはね、喧嘩が出来ないカップルだっているの。カップル間で序列が出来てしまうのがいい例」
お母さんは、伝えてくれた。
お母さんの学生や社会人の時の出来事を。
イケメンに惚れて付き合った。美女に惚れて付き合った。
こういう例だと、ステータスのために付き合った。そのために、相手方に頭が上がらなくなる。または、束縛しようとして序列をつけたがる。
そう言った場合だと、喧嘩すら出来ないし、パートナーから怒られたとしても、泣くこともできないと。
「何で、序列が出来ちゃうと喧嘩しても泣けないの?」
「簡単だよ。支配されている立場だから、何とかこれ以上に関係が悪化しないように相手のご機嫌を取ろうとするから。落ち込んでいる暇がないの。だから、喧嘩して泣けている時点で、2人の中に序列は無いの」
私の数倍も人生経験が豊富なお母さんの言葉は、身に染みる。この言葉の前半部分を喋るとお母さんは、機嫌が悪くなるので言わないが。
「どうやって仲直りしたらいいかな」
「まずは、陽葵。落ち着きなさい。謝らなきゃという感情で動いちゃうと、それこそ、2人の間で序列が出来ちゃう」
「うん」
「辛いかもしれないけど、一旦、距離を置きなさい。距離を置いて陽葵の頭が冷えたと思ったら陽翔頼るなり羽衣ちゃん頼るなりして詩季くんとの接触を測りなさい。接触出来たタイミングが、詩季くんも落ち着いた証拠だから」
「うん」
お母さんの仲直りの仕方は、説得力がある。
「でもさぁ、その間に――」
「陽翔が言いたいのは、喧嘩中に他の女の子に行かないかって事だよね」




