252.超えてはいけない一線
今日は放課後に生徒会業務は無い。
だから、皆と一緒に帰る予定だ。
帰る準備を終えて、6人で一緒に帰る。
僕と陽葵と陽翔くんは、家が同じ方向なので近くまで一緒に帰ることになるのが通例だ。
だが、今日は何か違った力が働いているようだ。
「ねぇ、何処かで2人にしようよ」
陽葵が、後ろで楽しそうに話しながら帰っている陽翔くんと春乃さんに聞こえない声で僕たち4人に話しかけてきた。
「おぉ、確かにな。ダブルデートするって言えば自然と2人に出来ないか?」
「瑛太くん。それ、いいアイデア!」
あぁ。
陽葵と瑛太くんは聞こえない声で話しているつもりでも、春乃さんには聞こえているだろうな。
僕は、あまりいい気持ちにならずに聞き流している。一方の奈々さんは、複雑そうな表情を浮かべている。
奈々さんからしたら板挟み状態か、ある種の。
2人に告白させる空気を作ってお付き合いさせるための外的要素を与えようと言い出した。
だが、始業式の生徒会で、僕が出した議案はその外的要素を与えることに反対する立ち位置の物だ。
陽葵と瑛太くんが、どのようにして2人と別れるかの話しに盛り上がっている中で、僕と奈々さんは後ろで静観している。
「加わらなくていいのですか?」
「……加われないよね。あの事例を聞かされたらさ。友人を追い込みたくないよ」
多分、僕達のグループなら一組のカップルが別れたとしてもいい距離感で友人付き合いをしていくのだと思う。
「ねぇ、2人とも駅近くなったらダブルデートって事で2人と別れるって方向で……」
陽葵が瑛太くんと話し合って決めたであろう作戦を披露してくれる。
「奈々……どうした?」
浮かない顔を浮かべている奈々さんに、瑛太くんが心配をしている。
「奈々さんは、そのままそっちに居ていいですよ」
「……え?」
「僕は、反対だね。このまま、駅で陽翔くんと春乃さんを2人にして告白させる空気を作るのは!!」
僕は、陽翔くんにも聞こえる声で反対の意見を話す。
陽翔くんは、驚いたように前を見てくる。 春乃さんは、少し安心した表情になった。
「どういう事だ?」
2人は、僕達4人の元にやって来た。
「い、いや、2人のためだと思って……ねぇ、詩季」
陽葵は、僕に助けを求めてきた。
だけど、今の陽葵の助けには乗る気になれない。
「良くないよね。他人の恋路に首突っ込むのはさぁ。焦れったいかもしれないけど、傍観者は傍観者であるべきだよ」
「で、でも、その間に他のちょっかいが――」
「そのちょっかいに靡いて壊れる関係ならその程度って事なんですよ」
今の僕を陽葵が見たら、自分の意見に反対する人として悪いイメージだろう。
「はぁ〜〜これは、言いたくはありませんが……」
本当に言いたくない。
陽葵とお付き合いで来て、深い関係にもなれた今言いたくない。
せっかく、積み重ねてきた関係が、崩れるかもしれない恐怖を感じる。
だけど、言わないといけないな。
このグループを同じ目に合わせないために。
青春は時には猛毒になるな。
「陽葵。これ以上、2人の恋に土足で踏み込むと言うなら別れますよ」
「え、な、な、なんで!」
陽葵は、何か恐怖に怯えた表情になっている。
僕の心も痛くなるが、これは取り下げられない。
この程度で壊れる関係ならその程度だったんだ。
そう自分に言い聞かせる。
「だから、これ以上、2人の恋に土足で踏み込むなら陽葵と別れるって言った」
「な、なんで、お友達の恋を応援するのは普通じゃん?」
「それで、僕は失敗したんですよ?高梨さん達とね」
「あ、……」
陽葵は、言い返せずに固まってしまった。
「応援するのは結構。だけど、必要以上の介入は良くないよ。介入し過ぎることが、当人達を苦しめる事になる事だってあるんだから。親しい仲にも礼儀ありだよ」
学校全体で空気を作るのをダメだと動いている。
それは、友人間であってももちろんダメだ。
「……ご、ごめん」
「陽葵、距離取ろう。明日からは、羽衣と学校に行くから迎えに来なくていいよ」
「陽翔くん、家まで送ってくれませんか?」
僕は、陽葵を突き放して陽翔くんと一緒に帰る事にした。
「おう」
「私も着いていく」
僕達3人は、道を外れて一緒に帰る事にした。
「詩季くん。ありがとうね」
「いいや、こちらこそごめんなさい。春乃さんは耳がいいから聞こえていたでしょう」
帰り道の途中に、春乃さんから感謝された。
「本当に、約束守ったな」
以前、2人のデートに出くわした時に約束していた。
2人の恋愛に対して、付き合えという空気は作らないようにすると。
その約束を守っただけだ。
「そりゃダメな事をダメだと言わずにずるずる行ったら恋人でもその物差しが分からなくなるでしゃ……」
「それでも、自分の恋人と破局の危機を迎えなくてもいいだろ?」
お互いを想いあってお互いの超えては行けない一線を曖昧にしたら後々困る。
今回の陽葵の言動は、僕にとって超えてはいけない一線だった。
「でも、寂しそうだね」
「そうだね。別れたとなったら、相当凹むでしょうね」




