250.情報筋
「発表はどうするの?」
「守谷先生に申請して、金曜日の6時間目に緊急の生徒総会を行う予定です。そこで、正式な発表を行います」
星川先輩から今後の流れを説明尋ねられた。
「正式な?」
「はい。正式な発表です」
僕の話し方に星川先輩は疑問を感じたようだ。
「正式なってことは、事前に情報は流すってことですか?」
「鋭いですね。新聞部に情報を流します」
「それで、どうなるんですか?」
「どうなるんだろうねぇ~~まぁ、問い詰められるだろうけどさぁ~~」
後夜祭というのは、生徒にとって大変な文化祭運営のお疲れ様会的な立ち位置らしい。
僕はその定義もおかしいと思っている。
「でもさぁ~~後夜祭の定義もおかしいよね。文化祭運営のお疲れ様会てさぁ~~。生徒達がどんな苦労したんだって話。その定義なら後夜祭は先生方や僕たち生徒会でしょう?実質的には、まだまだ楽しみたい生徒共の我儘を叶えてやっていたという方が正しいでしょう。」
文化祭の運営に対して一番苦労しているのは教師陣だ。その次に、生徒会。
一般生徒はせいぜいクラスの出し物の運営だろう。
「それで、この議案の成立形式はどうするの?生徒総会開くみたいだけど、全校生徒の投票?」
「そうすれば、確実に否決されるでしょうね」
基本的に生徒会主導で校則の変更に関しては、生徒会と教師陣の承認だけで変更することが可能だ。
だけど、重大な校則の変更に関しては、生徒総会を開いたうえで生徒の投票の上で判断する事もある。
「だったら、全校生徒の結果を持って判断するの?」
奈々さんはやっと回復したようで、僕に質問してきた。
「どうしましょうかねぇ〜〜全校生徒によって否決されたとしても先生方の意見がこれですから生徒会権限で通過させるしかないでしょう、まぁ、そうしたとしても、説明を求められますからどの道生徒総会はしないとダメですけどね」
「む、難しいね」
「奈々さんは賛成でいいの?」
「うん。こんな出来事起こってるんじゃ仕方ないよ」
そこからは、金曜日の生徒総会で何をお話するか。その後の動き方に関して、新聞部が記事にした後にどのように動くかについての話し合いをして今日の生徒会は終わりにする。
「じゃ、春乃さんはついてきて?」
「うん」
春乃さんと共に、新聞部の投書箱に数点の添削をした情報を投函する。
中からは、話し声がするので活動中なのだろう。
今日中に気が付けば記事にする作業を初めて明日の昼休みには号外という形で情報が流れるだろう。
「白村、少しいいか?」
新聞部の部室に寄った後に、下駄箱で靴を履き替えようと思ったら守谷先生から声を掛けられた。
「予想通りに声を掛けてきましたね。何の用ですか?」
「ちょっと、会議室に来てくれないか?」
「生徒指導室じゃなくて?」
「……配慮だよ。ていうか、呼ばれる内容に関しては心当たりあるんだな」
「まぁ、春乃も来て」
「かしこまりました」
「ん?2人、雰囲気変わって――」
「いいから行きましょう」
守谷先生について行き、会議室に入る。
奥の2席に僕と春乃さんが座る。
「それで何用でしょうか?」
「この資料は何処から入手した?」
「この資料とは?」
「告白祭りにおいて、男女交際関係に関する相談事は生徒会室にも情報がある。だけどな、不登校案件や自殺未遂案件に関しては無い。そして、お前からその情報を聞かれた覚えも無いぞ」
「やっぱり、その事ですか」
そりゃ、聞かれると思ったよ。
何たって、教師間で機密情報として管理されている情報を僕は生徒会内において暴露したようなものなのだ。
「幾ら出せますか?」
「何を言っている?」
「僕の情報網に踏み込もうとしているのですから、対価は頂かないと」
「対価ってなんだよ」
「僕は、学校側からこの情報を得た訳では無いので
。学校側が僕を責める事は出来ませんよ」
情報網は簡単には話せない。
情報は武器だ。
情報の量もそうだが質も伴えば強大な武器となる。
「つまりは、情報網を知りたいならそれなりの見返りを寄越せと言っているのです」
「ほぉ〜〜それは、大人との交渉か?」
「そうですね。交渉事には少しばかり自信がありますので」
僕の瞳には、ハートのハイライトが輝いているだろう。
「学校としては、機密扱いしていた情報が漏れている事を危惧しないといけない。まだ、ここだけの話だ。まだ、誤魔化せるぞ?」
「僕が学校から情報を盗んだとは疑わないんですね」
「お前の脚でスパイの真似事出来るか?もちろん、さっきの発言に他の――」
「解っていますよ。差別する意図が無いのは。そして、スパイの真似事は僕は出来ませんね。ですが、春乃に命令したとなれば?」
「はぁ?」
守谷先生は、僕が言っている事が分からないと言った様子だ。
「何を言っている?命令で動くなんて、有り得ねぇだろ?」
「そうですか?春乃」
「詩季様の命令とあらば」
「お、お前ら……」
如何わしい関係かと疑っているのかもしれないが、そんな事はない。
「まぁ、守谷先生が信じてくれた事に免じて、情報筋は教えられませんが、僕らの秘密を一つだけチラ見せしますよ。まぁ、それを見せればある意味納得してくれるでしょうけど」
僕は、生徒手帳に挟んでいる1枚の紋章を見せた。
「ま、マジかよ。すまなかった、帰っていいぞ」
守谷先生は、僕たちを解放したのだった。




