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25.壁新聞とマナー

「すげぇ~~この新聞を1週間で仕上げたのか――」

「すごすぎだろ。完成度半端なさ過ぎだろ」

「すげぇ~~しか出て来ねぇ」


 今日の6時間目は、総合Bの時間で校外学習のまとめ学習である壁新聞の発表会が行われている。


 体育館には、それぞれの班で制作した新聞がパネルに貼られて展示されている。


 そして、僕らの班がまとめた壁新聞の前には、沢山の人だかりが出来ていて、僕達が制作した壁新聞を褒めてくれている。


 春乃さんの提案を採用して、本当に良かったと思う。


「いやぁ、沢山の人が褒めてくれると言うのは、嬉しいものですね」

「そりゃ、詩季くんが、陣頭指揮取ったんだから当然よ!」


 陽葵さんが、自分の手柄のように、僕を褒めたたえてくるのだから、どのように感情表現をしたらいいのかわからなくなる。


「自分の班に、投票を入れられないのは残念だよなぁ〜〜」

「いや、瑛太、そんなの普通有り得ないって」


 今回、掲示されている壁新聞は、個人が、良いと思った1位から3位までを投票する事になっている。


「とりあえずは、1位から3位を投票するために、全体を回りましょう」


 校外学習が終わってからも、この6人で行動を共にしている。


 新学期の新クラスの最初に仲良くなったので、高等部の3年間はこのメンバーと交流関係を持てるように頑張って、高校卒業後は、会う頻度は少なくなるだろうが、関係を維持出来たら良いと思う。


 体育館のパネルを順番に回っていく。


 どのパネルも数人が立ち止まって見ては、その場を離れていっていた。


 しかし、1つのパネルの近くに通りかかったタイミングで他クラスの生徒の会話が聞こえて来た。


「なぁ、あのパネル――やばくねぇ」

「なぁ、ヤバいよな。同じ、進学クラスでも、こんなに違いが出るんだなぁ。俺らの方が良いんじゃね?」

「この班のメンバーってさぁ」

「あぁ、あいつらか。白村が抜けてから落ちこぼれたな」


 人が、ほとんど見ていないパネルは、幼馴染たち3人のパネルだ。


 出来栄えは、一言で言うなら、短時間かつ適当にただ課題をこなしただけと言うのが丸解りな出来栄えの壁新聞だった。


 金曜までに、反省文10枚と壁新聞の制作は、キャパオーバーだったのだろう。しかも、幼馴染は3人班で、最少人数班だったので、1人の担当範囲も広かったのだろう。

 新聞の一字一字が、小見出しのごとく大きく、大見出しは、他の班の新聞の題名並みに大きかった。


 これに関しては、幼馴染3人の自業自得な部分が強いので同情はしない。


 ただ、陰口を言っている生徒は、進学クラスでは無いな。クラスで、こんな顔は見た事が無いな。


「確かに、あの3人は落ちこぼれたかもしれませんね」

「ん、白村!?」


 どうやら、僕が近くに居る事に気が付いていなかったようで、僕が話しかけた事で驚いたようだ。


 そうか、この人は、僕の容姿が変わった事を知らないんだ。


 僕が、幼馴染達から距離を取った事も噂で、知ったのだろう。


 何だろうか。


 いい気はしない。


 噂だけの憶測で、人間関係に関して喋られたくないと言う物だ。喋りたいなら、対象の人物が、周りに居ない事を確認するのが、最大限のマナーと言う物だろう。


 それを、全クラスが集まるこの場でするのは、ある種のマナー違反も同然だろう。


「僕が、彼らと距離を取っているのは事実です」

「そうなんだな。やっぱり、あいつらは、お前が居ないと――」


 こいつらが言いたい事は、僕が居なくなったから幼馴染が落ちぶれたとでも言いたいのだろ。


 だが、こいつらの言い方は、僕が幼馴染と距離を取ったから幼馴染が落ちぶれたと言われているようで、僕としては、良い思いでは無かった。


「貴方たちは、何を見ているのですかね。僕が、離れたから落ちぶれたんじゃなくて、元々、落ちぶれていたんですよ」

「えっ、でも、あいつらは――」

「そもそもですが、彼らが落ちぶれているなら、進学クラスになれていない時点で、貴方たちは、彼ら以上に落ちぶれているという事ですよ」


 僕の言う事に、こいつらは、何も言い返せないと言った様子だった。


 人を話しのネタにするのは、その場のノリ的には楽しいかもしれないが、自分の立ち位置やどれだけ結果を残せているかも加味しないと、痛い目を見るという事だろう。


 だから、周りをしっかり見ないといけないのだろう。


 噂話をしていた人物は、苦笑いを浮かべながらその場を去って行った。


「詩季、何と言うか、優しい?」

「優しいんですかね。ただ、僕は、彼らに対しての【怒り】の感情を持っているのは事実ですよ」


 今の行動は、表面的に見たら幼馴染達を守ったように見えてしまうのだろう。でも、僕からしたら幼馴染達を守るつもりはなく、ただ、落ちぶれたのが僕の責任にされたくなかっただけだ。


「それにしても、内容としてはだな」


 陽翔くんは、周りの事を気にして言葉を選んで、幼馴染達が作った壁新聞を見ている。


「時間が無かったんでしょう。まぁ、自業自得な部分が多数を占めるので同情は出来ませんが」


 僕としては、幼馴染達が、僕が居なければここまで何もできないとは、思っていなかった。想像以上に、彼らのフォローを僕がしていたという事か。


「つまりは、詩季くんが凄いという事だね!」


 ここでも、陽葵さんの良さが出て来る。


 狙ってはいない。恐らくは、陽葵さんの一種の才能だ。


 奈々さんが、ニックネームを付けるのが得意なら、陽葵さんは、モチベーターとして天才的な才能を持っている様に感じる。


 僕は、壁新聞の投票用紙の1位の所に、幼馴染達の班を記入した。


「やっぱり、怒りながらも優しいじゃん」

「そんなんじゃ、ないですよ、陽葵さん」

「照れなくてもいいよ。あ、詩季くん。どこかで、予定空いてる?」

「どうしたんですか?」


 陽葵さんが、僕の顔を覗き込んで尋ねて来た。


「予定ですか?別に、今日でも大丈夫ですが――」


 陽葵さんに、僕のスケジュールを聞かれた。


 何処かに行く予定も特にないので、今日の放課後に予定を入れることも可能である。ただし、先着順ではあるが。


「あっ、あのね、陽菜がね、詩季くんに会いたがってて、良かったらうち来ない?」


 陽菜ちゃんか!


 入院している時は、西原母に着いてきてお見舞いに来てくれていたので、遊んでいた。


「そう言えば、退院してから会っていませんね。今日、行きましょうか?」

「あ、いや、家の片付けもあるし、今週の土曜なんてどうかな?陽菜も学校あるし――」

「大丈夫ですよ」


 そう言えば、何気に初めてだ。西原さんのお家に行くのは。


 西原さんの両親に、陽菜ちゃんに会うのを楽しみとしておきましょう。


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