245.別れ方
〈お世話になりました〉
ケニー一家が帰国する日を迎えた。
ケニー一家は帰国前に、祖父母に挨拶に来た。
お見送りには、僕も向かう事になっている。
「また、何時でも着てって伝えて」
〈何時でも、日本に来てと〉
英語を話せない静ばぁの言葉を通訳して伝える。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
車に乗って空港に向かう。
〈僕、助手席に乗りますね〉
〈わ、解ったわ〉
行きと同じように、助手席に乗ろうとしたケニーくんの母親にそう言って僕は助手席に乗り込んだ。
「陽葵は、ケニーくんの隣に座りな」
「う、うん」
羽衣は、僕の隣に座っていつも通りにサポートするつもりだったようだ。
だけど、それはいい。
ケニーくんがイギリスに帰れば、2人は月単位以上の遠距離に戻ってしまうのだ。
そして、日本とイギリスの行き来にもお金が掛かるので、年単位の遠距離恋愛になるかもしれない。
だからこそ、別れ際までケニーくんとの時間を大事にして欲しいのだ。
空港に着くまで後ろの方では、羽衣は楽しそうにケニーくんとお話していた。
空港に到着して、搭乗手続きを終えたケニー一家とは、別れまでの限られた時間を過ごしている。
〈あ、あの、詩季さん〉
〈どうしたの。ケニーくん?〉
〈本当に、お世話になりました〉
〈堅苦しい事は要らないよ。これからも、羽衣の事よろしくね〉
僕がそう伝えると、ケニーくんは、嬉しそうな表情になった。
〈羽衣、認めて貰えたのかな?〉
〈そうだよ〉
どうやらケニーくんは、僕に認めて貰えた事が嬉しいようだ。
何か勘違いをしているようだが、黙っておく。
羽衣がこの人だと思ってお付き合いを開始したのだ。
羽衣が選んだ人を反対するつもりは一切無かった。
僕は、2人のお付き合いに関して、認めていたのだ。
まぁ、今の2人の様子を見ると、この事は話さない方がいいだろう。
〈そろそろ、時間だね〉
〈そうだね〉
ケニーくん達が飛行機に乗る時間が近づいてきた。
羽衣は、ケニーくんから離れて僕の隣に移動してきた。
「羽衣。後悔ない?」
「無いと思う」
「お別れのキスしてきなよ」
「ひ、人前だし」
「年単位の遠距離になるかもしれないんだよ?」
〈んっ……ケニー!〉
羽衣は、ケニーくんの元まで走って行って抱きついた。
そして、人前など構わず、ケニーとキスをした。
ケニーくんも最初は驚いた様子だったが受け入れていた。
一旦のお別れを済ませた。
僕達は、ケニー一家が搭乗ゲートがある所に入るのを見送った。そして、予定時間にイギリスに飛び立つ飛行機を見送ってから空港を後にした。
「詩季にぃ、ありがと。背中押してくれて」
「いいよ。後悔を残したらダメだと思うからね。男女交際において」
すると、羽衣はニヤニヤとしだした。
「何だよ」
「いんやぁ〜〜男女交際では後輩なのに、年上ぶってねぇ〜〜」
「シバいていい?」
「シバいたら泣く!」
羽衣の表情は、明るいものになっていた。
「んまぁ、寂しくなるけどケニーとは納得の出来るお別れはできたかな?」
「今度は、イギリスに行きたいですね」
「おぉ〜〜向こうのお友達紹介したい!」
そこから、羽衣のイギリスの友人のお話は家に着くまで続いたのだった。
〇〇〇
「詩季にぃ〜〜」
「身辺整理は終わったの?」
「終わった!」
ケニー一家が帰国したので、今日から羽衣も一緒に住む。
うちに羽衣を送り届けてくれた時の母さんは、また、寂しそうな表情になっていた。
自室で身辺整理を終えた羽衣は、僕の部屋にやってきた。
「母さん、寂しそうだったね」
「そうだね。お母さんね、お家を詩季にぃが一緒に暮らせるようにリフォームする予定だって」
「そうなの?」
「うん。年明けに言ってた」
母さんは、今の祖父母の家を参考にして、僕が暮らしやすい家にリフォームを考えているようだ。
一例をあげると、軽めだとお風呂場に手すりを設置する。
大きめだと、家の玄関を2階部分から1階に変更する工事を予定しているようだ。
「そうなんですね」
母さんは、僕と生活するための環境を整えようとしてくれている。
確かに、祖父母の体力を考えると、母さんの元に戻るのが正解なのだろう。
「一応、父親との問題が解決したら、母さんと一緒に暮らすことを前向きに話し合おうか」
「うん」
1つの潮目として、父親との問題が解決したらと決める。
「ただ、ここから離れるとなると、陽葵ちゃんのお迎えが無くなるね」
「それは、仕方が無いでしょう。結婚するまでは、家族優先ですし」
「そうだね」
このお話はここで終了だ。
羽衣は、ポケットから先日渡していた赤い箱を手渡してきた。
「返すよ。使わなかったから」
「そうなんだ」
「お母さん達が2人の時間作ってくれて、私としては受け入れる覚悟だったんだけどね。遠距離だし責任を取れる年齢まで待って欲しいって」
「紳士過ぎるでしょう」
ケニーくんの紳士さに感銘を受ける。
「持っといていいよ?」
「使用期限もあるみたいだし、そっちの方が使う機会あるんじゃないの?」
「……」
僕が答えないでいると、羽衣はタンスの陽葵ゾーンを開けて、中から使いかけの赤い箱を取り出した。
「減っているじゃん。そっちでは、詩季にぃが先輩だね。だから、持っときなよ。ここに入れとくね」
羽衣は有無を言わせずに、タンスの陽葵ゾーンに赤い箱を入れていた。




