241.お手伝い
「おはよう。旅行の準備は完璧?」
「完璧だよ!」
健じぃが、胸を張っている。
「ほとんど、私が準備したのによく言うよ……」
「健じぃ?」
「い、いやぁ~~」
静ばぁが呆れた視線を健じぃに向けてきた。
2人は、友人達と有馬温泉に行くようだ。
「お土産買って帰るからね」
「甘いものお願い」
「私たちがいない間もしっかり食べたらね」
シレっと食べることが条件に追加された。
陽葵に頼んで食事量を減らしてもらう事を予期しているのだろうと思った。
「陽葵ちゃんにお願いして減らしてもらいそうだからね」
「それに関しては、陽葵は静ばぁ側でしょ?」
「そうだけどねぇ~~2人から圧力掛けないとね?」
静ばぁと陽葵からの「食べなさい」の圧力には従わないといけない。
ピンポーン♪
「お邪魔しまぁ〜す。詩季お兄ちゃん!」
「陽菜ちゃん!」
リビングに陽菜ちゃんが入ってきた。
遅れて、静ばぁと一緒に陽葵が入ってきた。
夏のお泊まりとは違って、陽菜ちゃんはリュックを背負っていた。
「陽菜ちゃん。大荷物だね」
「ご飯の材料とか手伝った!」
ご飯の材料を持っていくのを手伝ったと言いたいのだろう。そして、褒めて欲しいのだろう。
「そっか、よく頑張ったねぇ〜〜」
僕は、陽菜ちゃんの頑張りを称えるために頭を撫でてあげる。
陽葵は、陽菜ちゃんからリュックを預かると冷蔵庫に食材を入れていた。
陽菜ちゃんのリュックから出てきた食材は、軽めの物が多く、陽葵のリュックからは重めの食材が出てきていた。
なるほど、陽菜ちゃんに対するおばさんの教育方針なのだろう。
夏のお泊まりでは、夏休みの宿題を家でもするように。この冬の訪問では、お姉ちゃんのお手伝いをする。
何か楽しいことを得るためには、苦労をせよという感じだろう。
ただ、陽菜ちゃんは苦労を楽しんでいるように見えるのでお手伝いも楽しんでいるのだろう。
「それじゃ、詩季にしっかり食べさせてね」
「解りました」
後方で、僕にしっかり食べさせる同盟らしきものが結成されているが、聞かなかった事にしようか。
「行ってらっしゃい」
「「行ってきます」」
2人は、旅行に行った。
「じゃ、私は料理とかお風呂掃除とな粗方しちゃうね」
そう言った陽葵は、家のお風呂に向かっていった。
「詩季お兄ちゃん、一緒に遊ぼ!」
陽菜ちゃんとリビングに移動して、小学生でも楽しめるゲームを一緒にする事にした。
陽菜ちゃんは、僕の膝の上に座ってゲームをするようだ。
10分程ゲームをしていると、陽葵がお風呂掃除から帰ってきた。昨日は、最後に入った健じぃが軽く洗ってくれているのでそんなに汚れていないはずだ。
そして、次は料理に入るようだ。
「お昼には早くない?」
「お昼と夜の下準備だけしとこうと思って」
陽葵さん達は、8時に家に来た。祖父母が旅行に出掛けたのは、そこから30分後だ。
お昼ご飯の準備なら解るが、夜ご飯の準備をするには早すぎる気がする。
ちなみに、脚が不自由になって、杖無しでは立てなくなってからは料理をしなくなっていたが、一人暮らしの時は料理をしていたのだ。
「詩季お兄ちゃん!」
「ごめん!」
陽菜ちゃんからゲームに集中してと怒られたので、ゲームに意識を戻す。
「詩季お兄ちゃん。3人で出来るゲームあるかな?」
「3人?あるよ」
陽葵が料理の準備を終えて、僕達のゲームをしている姿を眺め出したら、陽菜ちゃんが気が付いた。
「お姉ちゃんも!」
陽葵にコントローラーを渡して3人用のテレビゲームをする。陽菜ちゃんがテレビゲームに飽きたら、2階の羽衣の部屋からボードゲームを拝借して3人で遊ぶと陽葵が、昼食の最終仕上げに入る。
「私もお手伝いする事ある?」
「じゃ、陽菜もお手伝いしてくれるかな?」
「うん!」
陽菜ちゃんと陽葵がキッチンで料理をしている姿を椅子に座って眺める。
陽菜ちゃん用に台を持ってきて簡単な盛り付けをお願いしている。
「陽菜、盛り付け終わったらゆっくり運んでね。詩季には、食べさせないといけないからね」
「うん!」
陽菜ちゃんはこぼさないように、1つ1つゆっくりと持ってきている。陽葵の五十注意を律儀に守っている。
まぁ、後半の僕を食べさせないといけないに関しては、遠回しに圧力を掛けられている感じがしているのだが。
「どうぞ!」
「ありがとう」
陽菜ちゃんが、サラダを置いてくれた。
陽葵が調理を終えると、陽菜ちゃんに盛り付けてもらい運んでくる。流石に、汁物に関しては、陽葵が運んでいた。
お昼のメニューは、生姜焼きとお味噌汁とサラダだ。
正直な所、サラダに関しては頑張らないといけないだろう。もしくは、白米抜きにして貰うか。
僕と陽菜ちゃんが隣合って座り、陽葵が向かい側に座った。
お昼を食べ終わり、後片付けを終えたタイミングで、おばさんが陽菜ちゃんを迎えに来た。
「陽菜、いい子にしてた?」
「うん!」
「料理のお手伝い一生懸命にしていましたよ」
「そう」
おばさんは、陽菜ちゃんを玄関に移動させて靴を履くように言った。
「陽葵、詩季くんの近くに来て。陽菜は、靴を履いて帰る準備していてね」
「はぁ~い」
リビングに残った僕と陽葵をおばさんは、呼んだ。
「2人とも線引きはしっかりね」
「「はい」」
おばさんは、それだけを言うと玄関に行って陽菜ちゃんと帰る。
「詩季お兄ちゃん!座って」
陽菜ちゃんにお願いされたので、玄関の階段部分に座った。
「今日は、ありがと!大好き!」
チュ!
陽菜ちゃんは、僕のほっぺにキスをして帰って行った。




