240.独占
「詩季お兄ちゃん!」
僕の胸元に向かって抱きついてきた可愛い女の子。
「久しぶり。あけましておめでとう」
「おめでとう!」
陽菜ちゃんは、僕の胸に顔をスリスリとさせている。
誕生日会で会えなかった分も甘えられている気がする。
「お2人もあけましておめでとう」
「おめでとう!」
「おめでとう」
今日は元旦。
ケニー一家との初詣を終えた後に、西原さんのお家にお邪魔している。
夕飯に呼ばれていたのだ。
西原さんの家のソファに腰掛けたら、我先にと陽菜ちゃんがこの状態になっている。
「陽葵、おめでとう」
「うん。今年もよろしく」
陽葵個人にもしっかり挨拶しておく。
「おじさんとおばさんもあけましておめでとうございます」
「おめでとう」
「今年も主に陽葵がよろしくね」
陽葵とはもちろんだが、西原さん一家ともいい関係を築けている。
「うひひ、詩季お兄ちゃんの撫で撫でだぁ〜〜」
陽菜ちゃんの頭を撫でてあげる。
と言うか、抱きついてきてからずっと頭を向けてアピールしていたので、余程撫でて欲しかったのだろう。
「お姉ちゃんは、ずっと、詩季お兄ちゃん独り占めしてたんだから今は私が独占するから!」
僕の近くに寄ろうとした陽葵を陽菜ちゃんが牽制した。
「それに、今度のお泊まりも私だけ、午前で帰らないと行けないんだしぃ〜〜?」
この女の子本当に、小学1年生と疑いたくなるが、多分、一緒にお泊まり出来ない事に対する抗議よりも、カップルの為に午前中だけで我慢するから今は、独占させろと牽制しているようだ。
「陽葵、諦めな。普段から2人の時間多んだし」
「だってぇ〜〜」
陽葵は、納得出来ない表情でおばさんに頭を撫でてもらいに行っていた。
「それに、陽菜の好きは優しいお兄ちゃんの好きだもんね?」
「うん!」
陽菜ちゃんの答えを聞いた陽葵は、安心した表情になった。
妹に嫉妬した彼女の表情は、可愛いなと思った。可能なら写真で記録に残したかったが。
「まぁ、お別れしたり、グダグダとお友達してたら立候補したかも」
「んまぁ?!」
本当に、この小学1年生の女の子は本当に小学1年生なのだろうかと疑いたくなる。
「んなぁ〜〜陽菜、そこ変わってぇ〜〜」
「ヤダ!」
「陽葵、今は陽菜の時間だ」
「な、陽翔離せぇ〜〜」
「春乃への写真許してないからなぁ〜〜」
「そんなの知るかぁ〜〜」
僕と陽菜ちゃんを離そうとしてきた陽葵を陽翔くんが引き離した。
どうやら、変顔写真が春乃さんに渡った事をまだ根に持っていたようだ。
「冬休みの宿題、頑張ってる?」
「もう、終わった!お母さんとの約束だから」
「おぉ〜〜偉いねぇ〜〜」
おばさんからは、冬休みの課題を終わらせる事が僕の家へのお泊まりの最低条件だったようだ。そして、毎日の勉強も頑張っていると聞く。
「陽葵も終わったの?」
「んな、終わったよ!」
陽翔くんにガードされながらも答えてくれた。
「陽翔くん。ガードし過ぎでは?」
「……仕方がない。こうすれば、陽菜が今晩一緒に寝てくれるみたいだから」
「なるほど、納得!」
「こらぁ〜〜納得するなぁ〜〜」
「だって、妹からのお願いは聞いてしまうのが兄というものでして……」
「なぁ〜らぁ〜ここに妹の言うこと聞かない兄が居るのは?」
陽葵からの救援要請が来るが、陽菜ちゃんをヨシヨシするので忙しいので応えることが出来なくて申し訳がない。
「あのな、可愛い妹と生意気な妹では態度が変わるんだ」
「確かに!羽衣も可愛い時は構い倒すけど、小生意気な時には手刀お見舞いしてるな!」
「おぉい。そこの裏切り者〜〜」
「いやぁ〜〜何か聞こえるねぇ〜〜陽菜ちゃん」
「逃げるなぁ〜〜」
お正月から兄妹漫才に参加している僕。
「相変わらず、賑やかだねぇ〜〜」
「そうだね。詩季くんと仲良くなってからは、さらに賑やかになったね」
「だな」
おじさんとおばさんは、微笑ましく見てきている。
「陽菜ちゃん、ちょっとお父さんとお母さんとお話してきていいかな?」
「うん!」
陽菜ちゃんに降りてもらってから、2人の元に歩いていく。
「どうしたの?」
「今回は、急なお願いにも関わらずお泊まりを認めて下さりありがとうございます」
お泊まりの経緯に関しては、完全にこちらの都合が強いのでお礼は言わないといけないと思った。
「いいよ。カップルなんだしね。節度も持った交際なら責任を取れる年齢までならこちらでしっかりと責任を取るよ。その代わり、するべき事をしなければ怒るけどね」
「はい」
おばさんの注意におじさんがウンウンと頷いていた。
改めて、両家から公認された交際関係なのだと思った。
だからこそ、節度を持った交際関係を続けないといけない。そして、責任をとれる年齢ではない事を理解させてくれた。
「……もしもの場合は、詩季くんの実家出てくるの?」
「よく解りません」
もしもの場合は、黒宮家が出てくるのか。
僕は、黒宮家には居るが一定の距離を置いていると認識している。ただ、清孝さんがどのような認識で居るかにもよるだろう。




