238.変顔・寝顔
「痛かったんだけど?」
羽衣はケニーくんと共に、アニメグッズを見物している。
僕と陽葵は近くのベンチに腰かけている。
手刀をお見舞いされた頭を強調して文句を伝えている。
まぁ、文句と言っても「痛いじゃないか、するな!」的な文句ではない。ただ、陽葵に構ってほしくて文句という名の構ってアピールをしているだけだ。
「暴走するのが悪いです。撫でてあげるから頭こっちに向けて」
「んっ……」
陽葵の方に頭を傾けて撫でてもらう。
陽葵が撫でようとしてきたタイミングで、頭をどけた。
「どうしたの?撫でて欲しいんじゃないの」
「いや、外だという事忘れていたので……今度、2人の時でお願いします」
「はぁ~い」
羽衣とケニーくんは、気に入ったアニメグッズの購入を終えたようで、アニメショップから出てきた。
〈いいもの買えましたか?〉
〈もちろん!〉
〈ケニーくん。どうでしたか?〉
〈ちょっと、私は?〉
〈羽衣は、表情見れば解るから〉
〈んもぉ~~妹の事好きすぎるでしょ~~〉
このまま、羽衣に構っていてもあれなのでお凸にデコピンをお見舞いしておく。羽衣は、「何をする!」と言ってきているが無視をする。
〈ケニーくん。どうでしたか?〉
〈気になっていたのを買えたので、大満足です〉
〈良かったです。そろそろ、昼食の時間ですし何処かに食べに行きましょうか〉
4人でどこに食べに行くかを相談する。
年末が近いという事もあるので、ランチ時の飲食店は待ちが出るのは仕方がない。
待って食べたいところで食べるか、回転率を意識してチェーン店で食べるかの2択だ。
『私は食事でゆっくりとするのもいいと思うから待つのもいいと思う』
〈遊ぶ時間も欲しくない?〉
陽葵は、スマホで英語訳された文章を見せてきた。
〈ケニーくんは、どうしたい?〉
最終決定は、ケニーくんに任せる。
ケニーくんは、女性陣の意見を優先しようとしていた。
紳士だと思う。
だけど、今回はケニーくんに決めてもらう。
〈ケニーくん。折角の日本です。大人になったとて、頻繁に来られる訳でも無いので〉
〈で、では、待つのも込で羽衣のオススメのお店で〉
〈OK〉
ケニーくんの意見を聞いて、羽衣にオススメのお店に案内するようにお願いする。
「陽葵ちゃん。陽葵ちゃんオススメのお店ある?」
「羽衣?」
「いやぁ〜〜帰ってきてからほとんど調べてなかったからさぁ〜〜3人のデートも友達と遊びに来ても、基本的にチェーン店に入ってたからさぁ〜〜」
日本語で話してきているのも、ケニーくんの前で格好つけたいからだろう。
そう言えば、羽衣も僕と似て基本的に食に関してはチェーン店を巡回する癖があったな。
「わ、私?!私もそんなに、知らないよ!」
陽葵も知らないとなるとお手上げだ。
〈あ、あの〜〜どうしたのですか?〉
日本語で盛り上がられて蚊帳の外状態のケニーくんが事情を尋ねてきた。
〈羽衣がオススメ無いと言うから陽葵にパスをしたけど無い。もちろん、僕もない。結局、チェーン店に落ち着きそうな予感がしている〉
〈チェーン店でも大丈夫ですよ!〉
「ちょぉ〜と、詩季にぃ!バラさないでよ!」
1名程、僕に抗議をしてきているが、無視をする。
ここら辺のお店に関して詳しい人という事で1人思い出した。
「陽葵、陽翔くんの変顔でも寝顔でもいいのですが、そんな写真持っていませんか?」
「……?お母さんが撮ったのならあるけど」
「それ、送ってくれませんか?」
陽葵から陽翔くんの変顔と寝顔の写真を頂いた。
もちろん、僕が保存する用では無い。
それを元にしてメッセージを送るとすぐさま、返信が来た。
〈近くに穴場的なお店で高校生価格でのお店があるみたいなので、そこに行きましょう〉
僕は、羽衣にお店の情報を送って案内して貰う事にする。
華は持たせてあげるからしっかり案内せよ。
しかし、羽衣は迷子になった。
確かに、穴場的お店なので分かりにくい所にはあるのだろう。
羽衣は、電話をしてお店までの道を尋ねていた。
正しい判断だと思う。
電話で道を聞いた羽衣の案内で、お店に到着した。
「いらっしゃいませ!お電話で予約の白村様ですね!お席までご案内します」
明るい女性の店員さんに、席まで案内して貰う。
「ねぇ、いつの間に予約していたの?」
「僕はしていませんけど、気を利かせてくれたのでしょう」
スマホのトーク欄を陽葵に見せる。
「あぁ、なるほど。だから、陽翔の写真なんだね」
僕は、春乃さんにお店を調べてもらった。その報酬として、陽翔くんの変顔も寝顔の写真を春乃さんに提供したのだ。
〇〇〇
ブー♪ブー♪
陽翔くんとのデートの最中に、詩季くんからメッセージを受信した。
陽翔くんは、昼食を食べ過ぎたせいでお手洗いに直行している。
「――!!」
詩季くんから送られてきた写真は、陽翔くんの変顔と寝顔の写真だった。もちろん、2枚とも保存したのは言うまでもない。
ただ、この写真をタダでくれるとは思わない。
ブー♪
私の予想は当たっていたようで、追加のメッセージを受信した。
『(白村詩季) 三宮のセンター街付近でいいお店を今すぐ教えてくれませんか?ダブルデート。高校生価格で』
なるほど、かなりの無茶振りだ。
私は、黒宮のスマホを取り出して、予め、リストアップしていたお店からいいと思うお店を選ぶ。
高校生のダブルデート。
個室はいらない。
条件に合致するお店があったので、詩季くんにメッセージを送る。
『(白村詩季) ありがとう!さっきの写真は、前払いの褒美ね!』
予想通りだった。
待つものあれだから、私から電話して予約しておこうと思った。
予約の電話を終えるとフォルダを開いて、陽翔くんの変顔写真を見る。
凛々しい陽翔くんの表情がここまで乱れているのは、面白い。
「何見ているん……その写真、どうやって手に入れた?!」
トイレで格闘していたであろう陽翔くんが帰ってきた。そして、陽翔くんの変顔写真を眺めているのを見られてしまった。
「え、本当に、どうやって手に入れたの?!」
陽翔くんは黒歴史を見られたかのように、慌てふためいている。
「詩季くんに三宮のお店を教えるご褒美に貰った」
「詩季って事は、あいつの要望に素直に応じる奴と言えば、バカ妹しかいねぇよな」
陽翔くんは、頭を抱えていた。
「別に変顔も寝顔を変じゃないよ?」
「寝顔も貰ってんのかぁ〜〜」
何故だか、陽翔くんが崩れ落ちた。




