231.ソワソワ
「ねぇねぇ、可愛いかな?」
今朝から羽衣は、そわそわしだしている。
慌てた羽衣は、面白い。
今日は、羽衣の彼氏のケニーくんが日本に来る日だ。
ケニーくん一家は、年越しを日本で過ごすことにしたようだ。
羽衣は半年以上ぶりに彼氏と会えることが嬉しいのだろう。
お化粧も何度もやり直して納得したと思ったらファッションショーを繰り広げていた。
「可愛いよ」
「ありがと!でもぉ〜〜これじゃないぃ〜〜」
「羽衣、いい加減に決めなさい。もう、出ないとダメなんだからね」
羽衣の身なりの決定に時間を要しているので、母さんが、流石に急かした。
「楽しそうですね、羽衣」
「楽しいのはいいんだけどね。前日にやっとけって思っちゃうね」
「羽衣曰く、しっかり寝て100の顔で会いたいみたいですよ」
「だけど、あんなに服の脱ぎ着してたら折角整えた髪が乱れるだけじゃない?」
同じ女性の母さんは、羽衣にの気持ちを理解する所か、一部の男の子が感じそうな感想を言った。
「何か、男の子みたいな感想言いますね?」
「一応、私は女だが?」
「男勝り?」
「言うようになったねぇ〜〜グリグリでいい?」
「するなら、身支度に時間を掛けている羽衣に」
「妹を売るとはダメな兄だなぁ?」
「男勝りな母さんには、羽衣と触れ合うのが十分じゃないですか?」
母さんは、唇をピクピクの動かしているが、雰囲気では嬉しそうだ。
僕と軽口を叩き会えるのは、大分、久しぶりな事もあって嬉しいのだろう。
「お母さん、これにする!後は、髪を――ンガァ!」
髪をセットし直しに行こうとする羽衣の服の襟を母さんが掴んだ。
「そんな時間ねぇよ。さっ、空港に向かうよ。髪は、車の中でしな」
「いやぁ〜だぁ〜」
「なら、出迎えは、私と詩季で行くけど?」
「車内でします」
流石に、彼氏の出迎えに置いていかれるのは嫌なようで、すんなりと頷いていた。
車に乗りこみ出発した。
この日の為に、6人乗りの車をレンタルしたそうだ。ちなみに、レンタル期間は、ケニーくん一家が日本にいる間分取っているようだ。
「まぁ、こんなもんかな?」
車内で葛藤すること数分で、納得出来る髪型に仕上がったようだ。
「ケニーね、詩季にぃに会えるの楽しみにしているの!」
今日の羽衣のテンションは本当に高い。
嬉しい気持ちが溢れ出ている。
「詩季にぃに、日本語で挨拶するんだぁ〜〜って電話で沢山練習してた」
「僕が英語話せるの話して無いんですか?」
「いやぁ〜〜頑張っている彼を見たら言えなくて」
そう言いながら、羽衣は舌をペロッと出した。
「じゃ、僕もケニーくんに意地悪しますか」
「いいよ!」
「自分の彼氏に意地悪されて嫌じゃないの?」
「全然?」
羽衣からは、僕がケニーくんが嫌がるような意地悪をしないと言う信頼感が伝わってくる。
それに、羽衣が選んだ人なのだ。良い人だと思う。
人見知りをするし可愛い羽衣は、小さい頃から男の子に向けられる視線に嫌気がさしていた事も知っている。
だからこそ、そんな羽衣がお付き合いしたいと思った男の子がどんな子か気になるのだ。
まぁ、結婚してイギリスに住むとなったら少しばかり寂しくなると思うけど。
空港の駐車場の空きスペースを探すのに時間を使ってしまった。
やはり、年末年始が近いとあって利用客が多いようだ。
羽衣を出迎えて以来の関西国際空港にたどり着いた。
関空にたどり着いた人が出てくる所に着いた。
「到着時間まで、1時間程度ね」
1時間後に到着したとしても、入国審査等で時間が掛かる事が予想されるので、2時間は見といた方がいいだろう。
「じゃ、何処かで昼ご飯でも食べようか」
「いいですね」
「羽衣もそれでいいね?」
羽衣は、ソワソワしている。
母さんの問いかけに反応していない。
「凄いですね。ケニーくんが来るってなってこんなにもソワソワしていますね」
「そうなのよね。向こうで困っていた時に助けて貰った事が、羽衣の心を開いたみたい」
「母さんから見てどうなの?」
「好青年だよ。言動は無視しても、性格は陽葵ちゃんみたいな男の子」
陽葵みたいな男の子か。なら、羽衣が好きになるのも納得が出来る。
それに、陽葵みたいな性格の男の子なら、僕も仲良くなれるかもしれない。
「それは、そうとして……あれ、どうします?」
「詩季に任すよ」
まだ、到着まで時間があるのにソワソワが止まらない羽衣。
僕としては、あまりソワソワされても周りからの視線もあるのでそろそろ止めるとする。
「んぎぁ!」
ソワソワが止まらない羽衣の頭に、手刀をお見舞いする。
羽衣は頭を抑えながら、僕の方を向いて抗議の視線を送ってきた。
下ネタを言っていないのに、何で手刀をお見舞いされなきゃいかんのだと。
「ソワソワがうるさい!」
「何て、理不尽な!」
「良いから、昼ご飯食べに行くよ。お腹すいた」
「あんまり、食べないくせに?」
「もう1発行っとく?」
「暴力反対!」
羽衣を連れて、空港のご飯屋さんに入って昼食を食べる事にした。




