221.仮説
罪を償いたい。
罪を償った所で、私には何も残らない。
大好きな人は、私の元に帰っては来ない。失って初めて気付いた私の行動の浅はかさ。
詩季本人にも、言われた通りだ。
私は、私自身が抱えている罪悪感を払拭したくて動いているだけの自己満足だと。
だけど、動いてしまう。
2学期の終業式が終わった家に帰ってきた。
『琴葉へ
仕事で今日も帰れません。これで、ご飯食べてね。
母さん』
お父さんとお母さんは、今日も仕事で会社に缶詰だ。
大事な取引先からの取引停止が決まりかけの今は、何とかそれを撤回してもらおうと奔走しているようだ。
私にとっては、どうでもいい……
いや、ちょっと待って。
話し合いの最後に、詩季がお父さんに何か言っていた。
思い出せ。
思い出すんだ。
何か、大事な情報があった気がする。
確か。
確か、会社の社用車のナンバープレートが、変わっていたとか言っていた気がする。
私は、スマホを漁って話し合いの時の日付の写真を確認する。
詩季が社用車の車のを撮っていた時に、私も撮っていた。
「良かった。車のナンバーも映ってる」
そして、詩季はアルバムを参考にしたとか言っていた気がする。
私は、自分の部屋のアルバムを片っ端から引っ張り出して写真を確認する。
アルバムを確認していると時刻は、0時を過ぎて日付が変わっていた。
お母さんがマメに記録を残すタイプだったのでお目当ての写真を見つけるのに時間が掛かった。
「あった……。ナンバープレートは……」
見つけた写真とスマホのあの日の写真を見比べる。
ナンバープレートが、一緒だ。
会社の社用車は、親間でよく運転をしていたお父さんの好きな車種に合わせて用意したと聞く。そして、社用車の管理はお父さんの仕事。そして、自家用車として使っていたのも同車種の車だ。
ここで、たどり着いた答えは、お家車が、社用車となっている事だ。
だけど、何故だ。
自家用車は、お父さんがプライベートで事故って修理に出したけど、治らなかったから廃車にしたと言っていたけど。
ちょっと待てよ。
冷静に考えれば、1つの結論が浮かび上がる。
「お父さんが事故を起こしたのは、自家用車ではなく社用車。それを隠すために、同車種の自家用車を社用車としている。そして、車の管理はお父さんが任されいる」
普通の大きな企業ならナンバープレートが変わっていたりした時点で別の人間が気が付くだろう。
しかし、未来創造は親同士の仲良し幹部の会社だ。社員が気が付いたとしても報告する場所がない。
しかも、親達の情報管理は杜撰だった事が、話し合いの場で露呈した。
だったら、お父さんがこの事を隠し通せるのも納得がいく。
ブー♪
『(お母さん) ごめんね。明日も帰れそうにないから、電子決済でお金送るから、これでご飯食べて』
メッセージで、両親は明日も帰って来ない事が解った。
私は行動に移すと決めた。
両親の寝室に向かい、ベットの隣にある引き出しを漁る。
確か、お父さんの書斎の鍵はここに入れていたはず。
パソコン作業をしたい時は、書斎のパソコンを借りていた。借りる時にお父さんが漁っていた場所を探すと、書斎の鍵を見つけた。
お父さんが、何かを隠すならあそこだ。
あそこは、私とお母さんは調べ事がない限り滅多に入らない。
だから、お父さんはエッチなビデオとかを書斎に隠す傾向があった。
まぁ、お母さんにはバレているみたいだけど。
書斎の鍵を開けて、入り込む。
電気を付けて、くまなく探す。
何か、車に関する情報を見つけるために。会社に隠している可能性は低いだろう。
何せ、社用車をダメにしているんだ。友人たちに見つかる場所に隠すはずがない。隠すなら見つかる可能性が低い場所だ。
本棚を触った事がバレないように、丁寧にしながら何か手掛かりが無いかを探す。
時間は過ぎていき、窓から朝日が入ってきた時に、私は1つのファイルを見つけた。
そこには、修理見積もり書と〇×倉庫と書かれた鍵だ。
修理見積もり書には、車の故障箇所とそこの修理にかかる費用が書かれていた。
写真のナンバープレートは、過去の会社訪問時に撮った社用車の物と一致した。
間違いない。
お父さんは、社用車で事故を起こしてそれを隠すために、自家用車で事故を起こした事にして自家用車を社用車として偽っている。
車の写真を見てみるが、車の顔部分が大きく破損していた。
その特徴は、以前、私が見た警察密着系の番組で、人を跳ねた車に見られる特徴によく似ていた。
私は嫌な予感がした。
詩季がお父さんに車に関して詰め寄った際のお父さんの冷や汗をかいていた様子。
そう言えば。
お父さんが、事故を起こしたと報告を受けたのは、夏休みも後半辺りだったか。詩季が誕生日会をバックれてその話をしてから近かった思い出がする。
私が詩季から事故に遭ったとメッセージを貰った時から逆算する。
私は、1つの最悪の結論を導き出した。
あくまで、可能性の話だ。
だけど、この可能性が事実なら……もう、私は、詩季に顔を見せられない。
「お父さんが、社用車で詩季を轢いた可能性が高い。しかも、それを自家用車を使ってまで隠しているなら……」
あくまで、素人の仮説だ。
だけど、その可能性は高い。
ここまで、警察の手が及んでいないのは、手掛かりがない可能性がある。詩季が、事故に遭った日に雨が降っていたら証拠が十分に集まっていない可能性がある。
それに、修繕見積もり書と一緒にある鍵は、とある倉庫の鍵だ。この倉庫に、事故に遭った車を隠しているとするなら……
私に悩みはなかった。
詩季にこの事を話そう。
しかし、そう思って書斎を出て鍵を元に戻したタイミングで、私は眠気に負けて寝てしまった。
「琴葉!」
「ん……お母さん?」
「どうしたの?私たちの寝室で寝て?」
私は冷や汗を感じる。
お母さんが居ると言う事は、お父さんが居るかもしれない。
「お父さんは、まだ仕事が残ってるから会社。私だけでも顔を見せてあげてって」
良かった。
お父さんは居ないみたいだ。
そして、私は見つけた証拠はここに来るまでにカバンにしまっておいた。
日付を確認するが、徹夜をした代償は凄かったようで丸一日寝ていたようだ。
「どうして、制服のままなの?それに、お風呂も――」
私は、お母さんの言うことを無視して家を飛び出した。
詩季が、今住んでいるという祖父母のお家へ。




